第2話 帰省

 東京と沖縄。

 遠距離恋愛は承知の上。だからメッセージアプリでこまめに連絡はとっていたし、盆や年末年始には、毎年帰省した。

 俺はむかしから口が上手いほうじゃなかったけど、要所要所で、態度で示してきたつもりだ。


 なのに、なんで。

 人生のひと区切りとして腹を決めた三十路手前で、こんな……


「納得できるわけない! こんなんで終わらせてたまるか!」


 すぐにでも対面して問いただしたかったが、あいにくの悪天候で、空の便は全便欠航。

 それが余計に、俺を苛つかせた。


 青空がしれっと顔をのぞかせた1週間後。

 例年より1ヶ月早く、自宅マンションを飛び出す。

 スーツケースと、片道分の航空チケットをにぎりしめて。



  *  *  *



 ──デイゴが咲いた。真っ赤だよ。

 ──今年の旧盆、帰れるかねぇ?


 写真つきのメッセージがとどいたのは、ひと月前。

 さぁな、なんて素っ気ない返事をしたから、機嫌が悪くなったのか?

 その日以降、向こうからの反応が一切ないトークルームに、メッセージを送信する。


『行くから。待っとれ』


 沖縄本島の港から、フェリー船で約40分。

 よどんだ灰色の空とこぢんまりした離島が、俺を無言でむかえた。


 赤い瓦屋根で四つんばいになったシーサーが、俺を見下ろしている。

 視線を正面に戻すと、石垣に『瀬良垣せらがき』と刻まれた表札。

 一歩足を踏み入れれば、青々としげったフクギの木が、家を守るように取り囲んでいる。


「ごめんください」


 沖縄の伝統的な古民家には、玄関がない。

 中庭から声をかけてすこし。

 縁側に、初老の男性が出てくる。

 彼女の父親だ。警官をしているはずだが、今日は非番だったのか。

 いつ見ても仏頂面だ。俺が言うのもなんだけど。


「ご無沙汰してます。これ、東京のお土産です」


 会釈と同時に、紙袋を差し出したけど、


「ミナには会わせられんぞ」


 たったひと言。

 有無を言わさない低音が、続く俺の言葉をシャットアウトした。

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