本態性振戦の人

ナカムラ

本態性振戦の人

 あなた達の周りで、細かく手が震えたり、首が震えたりしている人は、いないだろうか。


 私の周りには、多くそういう人を見かける。

まず、父が字を書く時に、異様に震えてしまう。

大切な手続きは、全て、母や役所の人に代筆してもらう。

父だけでは、なく父方の親戚にも本態性振戦の者が多くいる。


 実は、私も本態性振戦という症状を持っている。


 まず、一番最初に辛く思ったのは、小学生低学年の頃、書道の時間に何度も先生に注意され、書き直された。本態性振戦は、精神が大きく影響する。

緊張すればするほど、震えてしまうのだ。

クラスメート達が数人書いている私の周りを取り囲んで、まだ書けないのかと話しかけてきて、プレッシャーを与えてきた。

そうなると、私の字は、もうボロボロだ。


 ー早く上手く書いてここから逃げ出したいー


 そんな気持ちで私は、いっぱいだ。

ついには、涙を流しながら、字を書いた。

すかさず、クラスメートが私を追い込む。

「えっ? どうしたの? 泣いてるの? それより早く書いたら? ハハハハッ!」


 もう私の字は、更にぐちゃぐちゃになった。


 学年が上がり、書道の先生が新しく変わった。

すると、どうだろう。

前の先生とは、真逆でベタ褒めされた。

書道家になったらどうかと提案されるほどになった。

私の字を個性として認めてくれたのだ。

これほど、嬉しい事は、ない。


 大人になっても、本態性振戦を持つ者としての辛さは、消える事は、ない。

一番、辛い事は、おぼんを持つ手が、震えてしまう事だ。


 母と出かけた時は、なるべく母に持って来てもらう事にしてもらっている。

店員の人は、高齢の母に運んでもらう様子を見て、こちらを訝しげな顔をして見つめる。

私には、そういった人々の目が痛く刺さる。


1人の時にどうしているかというと、恭しくおぼんを持っているような姿になり、階段を登りながら運ばないといけないとなると一段一段止まって上がるようにしていて、周りには、異様に思えるだろう。


 私は、薬を医師から処方されて抑えている。


 将来、私が一番心配なことは……


 更に、震えが酷くなってしまうこと。

なぜなら、父が老いていくにつれて、震えが酷くなっていったからだ。

箸を持つこともやっとの状態に。そこまで私は、酷くなってしまうのか……


 皆さんにお願いがあるとしたら、そういう手が震えたりする人に出会ったら、見て見ぬふりをして欲しいということだ。

視線を感じると震えは、強くなってしまうから。



       了

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