ママの本領発揮


俺たちがしばらく歩いていると、入口に腕組みをして橘さんが立っていた。

待たせすぎたか?だが、ものの数分なのになぜイライラしているんだ?


「遅くないですか?」


「いや〜ついつい話し込んでしまって!」


あははっと笑う俺たち、それを見た橘さんは大きくため息をついた。だが、その顔から怒りの表情が見える。


「はぁ〜…仕方ないですね。さて!このホテルに入りますが、このドアは完全自動ドアです。指紋及び声帯、暗証番号を入力しない限りこの扉は開きません。まぁハッキングされない限りは大丈夫です!では、中へ行きますよ!」


橘さんが扉の前に立つとリモコンを操作する。すると、扉が開いた。声帯、指紋、暗証番号の3つはどうした?

さっきの説明と違うくないか?


「みんな…あの人はもしや…」


「可能性は高いです。本部の人と私の信用できる人にに連絡しておきます」


「木乃恵…頼む」


木乃恵は橘さんに見えないように携帯をいじり始めた。それを見た他の七星はバレないようにこの絵を取り囲む。俺たち家族は前に出て、適当に会話をする。


「中は思ったより綺麗だな」


「そうね。でも、気味が悪いわね」


「え、えぇ…誰もいないなんて…おかしいわね」


「ここは完全にカメラで確認してますので、大丈夫です。他に七星もいますから」


橘さんは俺たちの方を見ず、会話をする。

やはり何か怪しい。先程からリモコンばかり触っている。


「ふ〜ん。まぁそれは別にいいけど、どこに連れていく気だ?」


俺たちは入口から入ってからずっと歩きっぱなしだ。階段を昇ったり、従業員用の所を通ったり、何かを待っているかのように歩いている。

橘さんはビクッと止まると、そのまま歩き出す。


「…おい!聞いてるの…」


「…やめなさい。その人の好きなようにさせなさい」


「で、でも…」


「いいから…私の言うことを…聞け」


俺はママに頭を鷲掴みにされ、俺の頭はママの方へと向けられる。ママとの距離は50cm程でママは屈んでいた。

だか、いつもの優しい表情はなく、人とは思えないような形相をしており、まるで赤目の死神だ。

こっちはいつでもお前の命を奪う準備は出来てるぞ?という表情だった。


姉さんたちにはどうしたんだ?みたいな顔をしていたが、俺は冷や汗が止まらない。汗を拭きながら、俺はママに言う。


「わ、わかったよ。ちゃんと言うこと…聞くよ」


「それでいいのよ、アキラ」


ママは俺の掴んでいた手を緩めると俺を抱っこする。俺のことを抱きしめ、頭を撫でると同時に耳打ちをしてきた。


「大丈夫よ。あの子たちを信じてあげて?それとアイツの対処はママがするから…」


だんだんと声色が変わっていくママに恐怖を感じるが、そんなことはどうでもいい。俺たちができるのはこの橘さんの気をそらすだけだ。


「ぞろそろ着きまずよ」


橘さんは何やらカタカタと震えているようにも見えるが、ママの覇気だろう。話す内容も噛み噛みだ。

俺は木乃恵の方を見るとグッと親指を立てた。

送信できたのだろう。ならば、俺たちの役目は終了だ。


橘さんが震える手で扉を開けるとそこはかなりの広さのあるホテルの一室だった。

ホテルなのに何故か階段が何個かある。ホテルで階段なんてもの見たことがない。ここまでは大丈夫だろう。ここからあの人がどう動くか…。


「で、では…私は…ヒッ…し、失礼します…」


橘さんは振り返り、俺たちの方を見ると急いで逃げていこうとした。だが、それをママが止めた。

今度はさっきよりも圧がかかったように感じた。

ママは俺を下ろすと橘さんの襟をつかみ、地面へとたたきつけた。


「おい。何しようとしてるか話せ…殺すぞ」


ママは握りこぶしを振り上げ、橘さんの顔スレスレの地面へと殴ると床が割れた。それとママはもう警護人とかそういう系の仕事だよね?もう隠せないでしょ…。


「わ、私はただあなたたちを守ろうと!」


「なら、嘘をついているのはなぜだ」


「そ、それは…」


橘さんは何も話そうとしない。ママはその沈黙に怒りを通り越したようで、ブチッという音が聞こえた。


「元帥の私を騙せるとでも思ってるのかこのクソガキがァ!!」


ママが拳を振り上げ、橘さんの顔に一撃を食らわせるその時だった。


「あ〜あ〜あ〜…またやってますなぁ〜元帥さん。殺したらあかんよ?その人は重要参考人なんや。ボコボコにするんはええけど、殺したらまずいで?」


その声は後ろから聞こえ、振り向こうとした時だ。いつの間にか前にポニーテールの黒いスーツを羽織っている女の人がママの腕を掴んでいた。

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