いいことと悪いこと
「あの⋯薫ママとは?」
「薫ちゃんママは俺が赤ちゃんの時にお世話してくれたママさんの事だな。薫ちゃんっていう娘ちゃんがいたから薫ちゃんママだ」
「へ〜って赤ちゃんの記憶あるんですか!?」
「おうよ!おしめも替えて貰ったし、散歩もしてもらったさ!」
俺は自慢げに語るとその言葉を聞いた木乃恵はプルプルと体を震わせる。
「羨ましいです!私もさせてください!」
「ダメに決まってるだろ!?俺は5歳だぞ!?何言ってんだ!?」
「だってぇ⋯」
木乃恵は何故か涙を流しながら、こちらを見てくる。そして、その涙は真っ赤に染っている。
俺はそれを見て、なにかされそうではないかと恐怖を感じ、話をそらす。
「とにかく!薫ちゃんママに関して、何か紙を書いて伝えよう」
「⋯分かりました。いつかはおしめを変えさせてもらいます」
「バカ言ってないで早く動けぃ!」
「えぇ!?私の扱いが酷い!」
俺は書くものと紙を探してもらうために木乃恵の背中を強く押す。木乃恵はこちらを悲しそうに見るとトボトボと歩いていった。
その間、薫ちゃんママは俺がいることに気づいたのか大きく手を振っている。俺は軽く手を振り返すと薫ちゃんママは携帯電話のようなものを取り出す。
なるほど⋯電話か!
「⋯持ってきましたよ〜」
「サンキュー!あと木乃恵の携帯、貸してくれない?」
「え?まぁいいですけど⋯パスワードは12¥9です」
「分かった。電話番号は?」
「え?⋯これです」
「ありがと!」
俺は大きな紙にその数字を書く。
木乃恵はそれを見て、慌てて止めようとする。
「な、何してるんですか!私のプライバシーが!」
「何を言ってるんだ!木乃恵のプライバシーは現在、俺のものだぁ!」
「やめてぇぇ!!」
俺は木乃恵が止めてくる中、番号を書き終えカーテンの隙間から番号を見せる。薫ちゃんママは双眼鏡を取りだし、携帯に打ち込んでいる。
しばらくすると、俺の手に持った携帯から電話がかかってきた。俺は木乃恵に電話番号の書かれた紙を渡し、電話に出る。後ろからビリビリッと紙を破く音が聞こえるが気にしない。
「はい、御手洗⋯」
『アキラくんよね!?なんで前の家にいるの!?』
俺は携帯を耳に当てると大きな声が聞こえてきた。俺はすぐに耳から外し、音量ボタンを探す。
『アキラくん!?聞こえてる!?』
「聞こえてますから、あまり大きな声で話さないでくださいよ。外が大変なんですよ?バレると困ります」
『アキラくんが話してるなんて⋯うぅ⋯成長は早いのね⋯あの時はあうあうしか言ってなかったのに⋯』
「泣かないでください。あと薫ちゃんは元気ですか?」
『薫のことなんで分かるの!?私のことも分かってるの!?』
「えぇ⋯まぁ⋯記憶がありますから」
『え!?すごいね!アキラくん!』
「あ、あはは⋯」
薫ちゃんママは何やらテンションが高かった。
俺が赤ちゃんの時はもう少しおっとりしていたはずだが、どうしたのだろう。俺と話せたからなのか、それは分からなかった。
『ねぇ!そっちに行ってもいい?』
「それは⋯」
俺は木乃恵に目配せをする。すると、木乃恵は同時に動き出し、俺から携帯を受け取る。
「申し訳ないですが、それは不可能です」
『あなたは?』
「私は七星の一人、獄上 木乃恵と申します。アキラくんの警護人をしております」
いや、俺は警護人を頼んだ覚えがないぞ?
勝手に家に住み着いた挙句に勝手にご飯を食べて人のベッドで添い寝してるだけのやつだぞ?
『七星の警護人!?それってすごいんじゃ!?』
「えぇ⋯今回の事件で身内以外の女性や知り合いの方々を家に入れることは許されておりません。家に入れるのは雇った警護人と家族のみということになっております」
『そうなんですか⋯外がどうなってるか分かりますか?』
「分かりません。今、外がどうなってるのかはテレビだけで⋯そのため、1人の警護人が情報収集に行っております」
『もしかしてその方も?』
「七星です」
『えぇ〜!アキラくんの家、凄いですね!』
「アキラくんの戦力はすごいことになってますね。では、代わりますね」
木乃恵は携帯を俺に渡すとテレビの前に座る。
「まぁそういうことなので家に入れないです」
『了解!薫にも伝えておくからね!もし何かあったら言ってね!それじゃ!』
ピッという音が聞こえ、電話は切れる。木乃恵に携帯を返そうとすると『動かないで!』と手で指示をしてきた。
俺はピタッと止まると木乃恵は俺に近づき、ギュッと抱きしめてきた。
「私が⋯私がママよ!」
「馬鹿なことやってないで情報収集するぞ!」
「は〜い」
すると、俺が持っている携帯が震える。
誰かからだろうと見ると一花からのメッセージだった。
『警護人が結託している模様。私たちの場所がバレてる可能性あり』
「「まじかよ」」
俺たちはより頭を抱えることとなった、
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