5歳の俺、保育園へ行く ①


「え?なんでそんなに泣いてるの?」


葵依きい姉さんは俺がなぜ泣いているのかよく分からなさそうな顔をしている。それを俺は地面をバンバンッ!と殴りながら答える。


「俺が調べた情報だと

『黄色い帽子』『白いエプロン』『手を繋ぐ』って感じだったんだよぉ!それなのに…それなのにぃ!」


「泣くほど!?確かに私たちはそんな感じだったけど…」


葵依きい姉さん…それは俺を前にしては言ってはならないことだぁ!!」


「あっ、やっちゃった」


「待てぇ!その話を聞かせろぉ!」


俺は葵依きい姉さんを追いかけようとしたが、その足は木乃恵に掴まれていた。


まさか…俺が残念がって地面に伏せることをわかってやっていたのか!?くそっ!しまった!


俺はそのまま引きづられそうになると、抵抗するべく手を広げてふんばる。

このまま行ってたまるものか!


「さぁ!保育園の時間だよ!観念しな!」


「ふぐぐ!俺は葵依きい姉さんの話を聞いた感じじゃないと行かない!」


「仕方ない…じゃあこの写真を見せてあげましよう。男の子はこうなるのよ。めぐさん、これを見せてあげてください」


木乃恵は片手で俺を引っ張りながら、ポケットから何やら紙切れを取り出す。ママは木乃恵に近づき、それを受け取る。


「どれ?…あぁこれね?…アキラ?こうなるみたいよ?これ、すごいよ?」


ママから出されたものは半裸の男の子が写っている写真だった。男の子は気絶しており、鍵のようなものがついている下着だけは着ており、それ以外のものはないようだった。


「え?なにこれ?どういうこと?」


「その子は去年の犠せ…被害者」


「今、犠牲者って言おうとしてなかった?…ならば、余計に行かぬぅ!」


「それは…去年のこと、彼はみんなのことを嫌っていたの。幼児たちに会う度に罵倒していてね?ある日、1人の女の子が彼を襲ったの。彼は牽制けんせいしたわ。でも、数には勝てなかったの。日頃の恨みや鬱憤が溜まっていたんでしょうね。結果はこのとおり…完全に襲われちゃって…下着以外は全部奪われて…もっと女の子の扱い方を知っていれば…ぐすっ…」


「「「「そうでずね…うぅ…」」」」


何故かみんなが泣き始めた。恐らく、襲われた男の子のことを思っているのだろう。

男が悪いのは分かった。


「でも、なんで泣いてるの?」


みんなは涙ながらにこちらを向き、訳を説明する。


「「「「男の子が辛くて…ぐすっ…」」」」

「その場にいれば…ぐすジュル…」


「一人、ダメな大人が混じってるな!」


「さぁ!アキラくんも同じ目に…じゃなかった!彼女たちを救うんだ!さぁ!さぁさぁさぁ!」


「いぃぃぃやぁぁぁだぁぁぁ!!…あっ…助けてぇ!!」


俺は少しだけ持ち上げられたことで、床から手が離れてしまった。バタバタと暴れるが、残念ながら捕まってしまい、お姫様抱っこみたいな形になってしまった。俺は目でみんなに助けを求めるが、返答はこうだった。


「「「アキラ!すぐに行くから!」」」

「すぐ用意するわ」


「おぉい!諦めるな!助けろぉ!」


木乃恵さんはヨダレを拭きながら、俺を見てニヤニヤする。28歳、子供はいない、カワイイ系なのに七星のトップでこれって…


「ふへへ…車内でゆっくり着替えてもらいましょうね〜!とは言っても後ろは見れないようになってますし、窓はスモークです。なので安心してください」


「安心できるか!その笑みは嘘だろ!?」


木乃恵は俺と合っていた目を外し、口笛を吹き始めた。やっぱり嘘じゃないか…俺は後ろを隠してもらうことをみんなにお願いすることに決める。


「じゃあ…車に乗ってください。乗れないなら私が乗せますが?」


「えぇい!離せぃ!俺は家でゴロゴロするんだ!」


俺は行きたくない一心で体をバタバタさせる。だが、それは腕で固定されているせいか無駄だった。しかも、自分の胸元の方に近づけている気がする。


「ふーん…いけずですね〜…ダメですよ〜?」


「やめろぉ!!離せぇ!木乃恵よりも一花がいい!」


俺のこの発言はしゃくさわったようだ。木乃恵の頭の方からブチッと音が聞こえた。

あっ…まずいかもしんない…。


「じゃあこのままハグしていきます〜!何してもいいんですよね〜?チュッチュしても問題は無いんですもんね〜?だって、《そっち》がいいって言ったんですもんね〜?もう離しませんよ〜?」


俺は引き寄せられる腕を何とかして引き離そうと力を込めた。だが、そんなことは無駄なようで俺は木乃恵の胸にすっぽり埋まってしまった。


なぜこんなに俺が嫌がったか、それは胸の大きさだ。以前、俺が会った時はぺったんこだった。それは男の子が苦手な人が多いからという理由らしい。それが今では女の子らしい体つきにしている。

なぜそうしたかは一花が大きくなっているのに嫌悪感を示さなかったという理由らしい。


俺としては一花の方は安心感を得れるが、これは死ぬ…間違いなく死ぬ…という感じだったため俺は抵抗しているのだ。


「むぐぐ!…ふんぬ!」


「ダメでーす!そんなに動いても無駄ですからね〜?前回私が愛情込めて送ったあの手紙燃やしたみたいですし〜?責任とってもらいましょうか〜?」


木乃恵は片腕で俺の顎を持ち上げ、片腕で俺の体を拘束する。そして、そのまま顔を近づける。その目を見ると、ハートマークのようなものが浮かんでいる。


木乃恵が息を荒くしながら、自分の舌を俺の唇に這わせようとした。


そんな時に救世主が現れた。


「木乃恵?またアンタやってるね?せがれに何しようとしてるんだい?」


「い、いらいです!めぐさん!ほっぺから手を離してください!」


ママが木乃恵の頬全体を捻っていたのだ。かなりの力で捻っているのだろう。木乃恵は涙を浮かべていた。てか、その指力は一体…


「ママ!助けて!」


「アキラ!良かった!襲われなかったみたいね!すぐに用意してきて良かった!」


ママは木乃恵から俺を奪うと抱きしめる。この感じ…懐かしい!俺は満足な表情をしてママに抱きついていたが、木乃恵は頬を捻られていた。


「あんた、また約束破ったみたいだね?…今度は舌でも引っこ抜いてあげようか?」


「…車内に逃げたい」


俺はママに聞こえないくらいの声でボソッとつぶやいたが、ママはその言葉を聴き逃していなかった。ママは俺を強めに抱きしめ、木乃恵の捻っていた指を緩める。


「アキラ…怖かったねぇ〜大丈夫だからね!すぐに車内に避難しよっか!…アキラに感謝しな」


「は、はい…すみません…」


木乃恵は自分の頬をこすり、痛みを逃がしていた。こちらを見る涙目は後悔の色を感じた。離されてすぐに地面に土下座していた。


だが、今回は俺は許さん!二度と家にあげまい!


「早く開けな!いつまで待たせるんだい!私の気が変わらないうちに早くしな!」


「は、はい!今すぐ!」


ママは土下座していた木乃恵を叱りつける。

木乃恵は急いで立ち上がり、車のドアを開ける。

ママは俺を抱っこしながら、車内へ行く。

この車は8人乗りのようでかなり広い。ママは1番後ろのスペースに座るようだ。


「ここなら大丈夫よ?…保育園に行くけど、もし嫌なら行かなくていいのよ?ママ、説得するからね?」


ママは俺を心配してくれているのか、抱っこしながら一定のリズムでポンポンと叩いてくる。


「う、うん…ありが…と…」


俺はママの匂いに顔を埋めながら、少しの間寝ることになった。




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