2歳になった俺、ついに専属警護人を雇う!


 誘拐犯からの手紙以降、俺は自身の成長を促進させるべく日々練習してきた。

 その結果、言葉を話すことが出来るようになり、自分の足で歩くことが出来るようになった。

 たまに転んでしまうことが残念だ…


「2歳のお誕生日おめでとう!アキラ!」

「「おめでとう!」」


「ありがとう!」


 2歳の誕生日を迎えた俺はやるべきことがある。本来であればちゃんとした手順を踏む必要があるが、残念ながらそれが出来ない。


「2歳で専属警護人を雇うって聞いたことないよね?」

「えぇ…普通はないの。でも…」

「この子が賢いってことで目をつけられたのよね」

「ごめんなさい」

「アキラのせいじゃないわ。ほかの馬鹿な人達のせいよ」

「政府は酷い」

「信用出来なくなったもんね」


 これは俺が悪いんだが、0歳児で人と意思疎通が可能であり、なんなら文字さえ読める男の子というのは世間では天才ではないかと思われる。


 すると、中には自分のものにしようとするものが出てくる。特に男性保護会や上流階級はそれを行おうとしてきた。それを家族は守るべく、さまざまなことを行った。


 それもほぼ政府のお金がゼロになるほどのものだった。外側だけの家の建設、家の警報機設置、窓のシャッターや補助錠設置、あと服もそうだな。


 これまで個性豊かな服だったが、それを目印にされることが多く、ママやお姉ちゃん達は涙ながらにシンプルな服を着る羽目になった。だが、コートラックにゴスロリや地雷系、パンク系といったものがかけられていたがそこはそっとしておく。


 あとは…胃薬が家に常備されるようになったな。なんかすまん!


「なんというか…一段落付いたような感じがするけどまだまだなのよね?」


 葵依きいは俺の方を見て頭を抱えた。それもそのはず俺が生まれた時は小学生1年生、美衣みいは2年生だった。まだまだ新生活を楽しんでいる時期だったはずだ。

 あっママの年齢は18歳に精子提供で子供を産んで、一段落して俺を産んだ感じだ。その時は26とかだったから今は28かな?お仕事に関しては何も言ってくれないが、家でパソコンをいじっているのを見た事があるから、自宅でできる仕事なんだろう。


「でも、これから専属警護人を雇うことになるからまだマシだよ?1年で1000万以上かかるけど…」


「それでアキラを守れるなら全然いいわ。アキラ?誰がいいとかある?」


 ママは俺に警護人が誰がいいかを聞いてくる。それはもちろんあの人だ。


「それは『小笠原事件』のあの人!」


「それは…でも、いい選択かも。アキラ、いい所に目をつけたね」


 美衣みいは少し難しい顔をしたが、褒めてくれた。なぜ難しい顔をしたか、これまであの警護人を雇おうとした人は幾人もいた。だが、結果は誰1人雇えなかった。


 理由は雇う条件が『私を倒してみろ。ただし、男1人で』というものだった。中には卑怯な手で戦おうとした者や頭脳や格闘で戦おうとした者もいた。

 だが、結果は惨敗。それもそのはず、彼女は警護人の中でもトップ中のトップともいえる人物。


 現在、療養施設にて休んでいるとの事だが鍛錬はしているらしい。


「今から行く?警護の人呼ぶけど…」

「もちろん!行きたい!」


 ママは俺の返事を聞くと、携帯を取りだし連絡をする。美衣みいは雇えるのか少し心配そうな顔をしていた。葵依きいに関しては…胃が痛そうだ。俺のお金使っていいから、病院行きな?後でママに交渉してみよう。


「どうやって倒すの?これまで倒せなかったのに?」


「ふふふ…しょれは色んなことをしてあげるのさ!」


「そういう事ね…アキラ、頑張ってね」


 美衣みいは俺の頭をなで、優しい笑顔をした。美衣みいがこんな顔をするのはなかなかない。この顔をする時は俺に何かある時だけだ。


 それほど今回のことは心配なのだろう。俺は美衣みいの手を取り、頬に当てる。俺は安心して欲しいという思いを込めて、彼女の目を見る。こうすると美衣みいは嬉しそうな顔をするのだ。


葵依きい?何か言ってあげて?アキラ、これから頑張るんだから」


「そうね、アキラ頑張んなさい!何かあったら、私に頼…って別になんにもない!私、ちょっと用意してくるから!」


 葵依きいは耳を真っ赤にして部屋から出ていった。葵依きいちょっとツンデレさんなのだ。

 すると、外から車の音が聞こえた。


「そろそろ来るわ。アキラ、今回ママはついていけない。美衣みい葵依きいがそばに居ることになるけどいい?」


「なんでママは来れないの?」


 ママは多分仕事をするんだろう。その予想は的中した。


「仕事よ?ちょっと色々と案件が来ててね。それを片したいの」


「わかった!頑張ってね!」


「ええ、ママ頑張るわ!…ごめんね?仕事に戻るから、美衣みい、あとのことお願いね?」


「分かった。万が一の時、を使うから」


 ママは頷くと部屋から出ていった。というのは実は俺も知らないのだ。なにかとっておきのようなものではあるらしいが、絶対に教えてくれない。こっそり見ようにも見せてくれないのだ。


「じゃあアキラ、そろそろ行こう?葵依きい!行くよ!を忘れずに!」


「わかったわ!車以外、外は大丈夫そうよ!行こう!」


 俺は美衣みいに手を繋がれ、玄関を出て急いで後部座席に乗る。その後、葵依きいが周りを警戒しつつ車に乗り込んだ。

 警護人は乗り込んだことを確認すると発進した。


(果たして、俺はあの人を倒せるのか…何が出来るか少し考えておこう)


 俺はあの人の倒し方を考えていたが、いつの間にか夢の世界へと意識は飛んでいた。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 気がつけば、俺はベッドに座っている女の人の前にいた。だが、美衣みい葵依きいは隣には居らず、俺一人だった。部屋は個室で服は可愛らしいパジャマだが、溢れ出るオーラは強者のもの。とても髪の長い美人だった。

 すると、女の人は口を開いた。


「よく来たな。ベッドの上から私が小笠原事件の警護人こと にのまえという。漢字の一と書いて にのまえ だ。あと下の名前は 一花いちかという。

 にのまえ 一花いちかだ。よろしく頼む。その子供が私を倒してくれるのか?名前はなんという?」


 俺は自分の名前を言う。美人に見つめられた結果、少し噛んでしまった。


「僕は御手洗みたらいアキラでしゅ!2しゃいでしゅ!よろしくお願いしましゅ!」


 俺の言葉ににのまえさんは笑っていた。


「君が噂の子か。アキラくんだな。よろしく頼む。で、私を雇うために来たんだな?では、私を倒してみてくれ」


「はい!じゃあベッドに登りたいです!…ちょっとお手を借りても?」


「それは構わんが…どうするのだ?」


「こうするのですよ」


 俺は彼女の頭を膝の上に乗せるために背中に手を添えて優しく。彼女はその行動頭にハテナマークが浮かんでいたが、しばらく考えると なるほど という顔をした。


「まさか…倒すという言葉にそういう風に理解するとは…誰も居なかったぞ?2歳児に膝枕されるとは思わなかったな」


 彼女は俺に何かしてほしそうな顔をしていた。そこで、俺は彼女の髪を撫でつつ答える。その行為に彼女は満足そうに目を細めていた。


「実は世間一般での男の印象を調べたんです。そしたら、《女性に優しくする人はほぼ居ない》という結論に至りました。そこで倒すという言葉は横にするという結果に…」


 俺の言葉遣いに驚いたのか、彼女は目を見開き、体を起こした。だが、ハッとしたような顔をすると俺の膝の上に頭を倒した。


「君は本当に2歳児か?他の男共はそんなことする素振りさえしなかったぞ!?居たのは力づくか無理やり手篭めにしようとしてきたものばかりだった…まぁ蹴散らしてやったがな…」


 彼女は俺の膝の上で少し残念そうな表情をしていた。期待はずれ…といった意味だろう。男たちはみんなお金や力を盾に行動しようとする。その結果が彼女を雇えず、その上、やり返されるといったものだった。


「実は…俺にはこことは違う記憶を持っています。家族にも言っていないので、内緒ですよ?そこでは女性の数が少なく、男性の数が多かったです。確か1対1くらいな感じでしたね。だから、女性のために男性は何かをする。そんな世界でした…俺は雷に撃たれて死んで、いつの間にかここに居ます。それも0歳からですよ?そりゃ天才って言われます」


 彼女は俺の言葉に納得しているような表情をしていた。それは俺の言葉遣いに関してだろう。


「そうだったのか…ふっ君に惚れたよ…まさか心の方を倒してくるとは…いいだろう。君を主と認める。よろしく頼むぞ?アキラ。今後とも、未来永劫よろしく頼むな?私を倒した責任として結婚してもらうぞ?」


 彼女は満面の笑みを浮かべ、俺の頬を触ってきた。俺は彼女の結婚という言葉に少し戸惑った。だが、俺は彼女を倒した責任がある。


「分かった…今回の責任もあるからな。男として責任はとらせてもらうさ!よろしく!一花!」


「あぁ!よろしく!アキラ!ただ雇ってもらうからには二人の時間も作って欲しい。時々こういうことをして貰えると私は嬉しい」


「そりゃ勿論だ。今後は家族たちともこういう時間を作ろうと思ってたからな。みんなお疲れみたいなんだ。専属警護人を雇ったらしばらく安心だろうって感じだな」


 彼女は俺の頬を両手で挟み、グッと力を入れて引っ張った。彼女の目が俺の目を逃がすまいと必死に見つめてきた。


「私を雇うということは馬鹿なやつ以外は手出ししてこない。そんな奴らは私が蹴散らすから安心しろ。私の知り合いたちにも言っておく」


「そうか…なら安心だ。だが、いつまで俺は膝枕をすればいいんだ?」


「それはもちろん…寝るまでしてもらう予定だが?」


「寝るのにどれくらいかかるの?」


「24時間は…」


「さっさと起きなさい!」


 俺は彼女の頬を優しくつねった。彼女は痛そうな顔をしたが、痛くはないだろう。仕方ないというような表情をし、体を起こした。


「荷物をまとめるから、ベッドで寝ておいて構わんぞ?ここに来た時も寝てたみたいだからな。ゆっくりしていけ」


「そうか…じゃあ…遠慮…なく」


 俺は彼女の布団を借りると眠気に逆らうことが出来ず、眠ってしまった。彼女の匂いはとても優しい香りだった。

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