帰り道
あれから三階層に一瞬だけ行き、転移陣への登録を済ませた僕らは直ぐに帰り、戦利品を売却して帰路に就いた。
「……三万とちょっと、か」
それは、今日一日での稼ぎだ。手取りがこれだけという話で、組合に引かれた分が無ければもっと高い。八磨の分とも合わせれば、倍以上だ。
「おっと」
「あ、すみません」
考え事をしながら歩いていると、通行人と肩がぶつかってしまった。何となく不安になって確かめたが、財布が取られていたりはしなかった。
しかし、一日で三万か。
はっきり言って、異常な稼ぎだ。冒険者という職業、インフレを起こしそうで恐ろしいが、実際貧富の差は昔よりも広がっていると聞く。とはいえ、物価が上がっている訳でも無く、寧ろ物は安くなっているらしい。特に、エネルギー事情はかなり改善されているらしく、電力なんかは昔よりずっと安い。
「良いね」
悪くない。かなり、良い。良い状態だ。初日でこれだ。僕達は強い。八磨は疑いようも無く強いし、僕の能力もきっと将来性がある。最高だ。悪くない。
「……明日、もう少し調べて見ようか」
明日は八磨は来れないらしいからね。僕一人でダンジョンに行って、もう少し詳しく能力の検証もしてみよう。本当は色々と買い物をする予定だったけど、それは明後日の朝にでもすれば良いだろう。
♢
そうして、僕は今日一人で西萩ダンジョンに来ていた。能力の検証として色々と試したが、新しい発見のようなものは特に無かった。
「僕の能力が疼くような何かも感じ取れなかったし、やっぱり神性を持つモノって言うのは相当貴重なんだろうね」
そう呟いて、僕は自身が少し浮かれていることに気付いた。
「……僕らしくも無いね」
少し、落ち着こう。あと、検証していないことと言えば何だろう。
「――――転移陣」
三階層への転移陣。本当に正しく働くのか、検証はしていない。検証するまでも無いようなダンジョンの常識ではあるが……念の為、僕は試したいと思った。
良し、乗ろう。
少し乗って、直ぐに帰って来るだけだ。戦う訳でも無い。三階層くらいならまだ人も結構居るし、安全だ。
「うん、大丈夫」
僕は転移陣の上に乗り、そして三階層を意識した。すると、即座に僕の体がその場から消え失せ、三階層の景色が眼前に広がる。
「森だね」
昨日、一瞬だけ入った時と同じ、木々の生い茂る森だ。先の見えないこの階層は、一階層や二階層とは比べ物にならない程危険だと言えるだろう。
「……さて」
僕は転移陣から一歩、外に踏み出した。周囲を見渡すと、一パーティだけ戦闘しているのが見えた。相手はゴブリンだった。
「ゴブリン、か」
ゴブリンくらいなら、僕でも勝てる。あの頃の僕ですら勝てた相手だからね。今の僕なら、きっと余裕だろう。
良し、行こう。
明日、八磨と会う前に少しだけ強くなっておくのも良いだろう。八磨も驚くかも知れないな。
「涼しいね」
森の中は涼しく、不快さは余り無かった。そういえば、虫除けはしていなかったが、まぁ良いだろう。
「グギャッ!」
「グギャギャッ!」
気付けば、僕は囲まれていた。ゴブリンの群れだ。群れと言っても小規模なグループで、数は……八体かな。
「……待てよ、八体だと?」
僕の体を冷や汗が伝う。僕は何をやっているんだ? 馬鹿なのか? どうして、こんなところまで一人で……いや、考えるのは後だ。
「蒼紋」
僕の体に蒼い紋様が走っていく。僕は腰の鞘から剣を抜き、堂恵の教え通りに構えた。
「グギャァッ!!」
背後だ。鳴き声と共に飛び掛かるゴブリンに僕は剣を振るい、その体に深い傷を付けながら吹き飛ばした。ゴブリンは木にぶつかり、短い悲鳴を上げて倒れる。
「銃は……抜けないッ!」
「グギャアッ!」
「ギギャッ!」
熱線銃を抜く暇がない。僕は左右から同時に飛び掛かったゴブリンを避け、逃げるように走った。
「グギャッ!」
「いッ!?」
背中に何かが直撃する。痛みと熱が溢れ、僕は振り返る。
「投石か……ッ!」
遠距離攻撃手段がある相手に背中を向けて逃げるのは無理だ。だが、距離は少し離せた。この状況は悪くない。
「ファイアッ!」
僕は剣をその場に落としながら熱線銃を引き抜き、引き金を引いた。ゴブリンの額を熱線が貫き、悲鳴と共にゴブリンが倒れる。
「近い奴から、殺すッ!」
熱線銃の弾数は十二発。外しまくるようなことが無ければ、絶対に足りる筈だ。
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