二階層へGO!

 僕と八磨は二階層を歩いていた。そこはさっきまでと殆ど景色の変わらない草原。しかし、二階層にはぽつぽつと木が生えている。森や林という程でも無いが、少し歩けば直ぐに木に当たる程度には生えている。


「んー、あんまり代わり映えしない景色で面白くないですね」


「僕らは観光しに来てる訳じゃ無いんだ。寧ろ、環境が変わらないのはありがたいことだね」


 とはいえ、何も変わっていない訳じゃない。ちらほらと木々が生えているように、全く同じ場所では無いからね。


「敵はかなり変わってる。さっきの階層に居た鳩は居ないし、ソフトスライムもこの階層には居ない」


「じゃあ、何が居るんですか?」


 僕はスマホを取り出し、画面を操作した。


「君にも送ったと思うんだけど……これだよ」


 スマホの画面を八磨に見せる。そこに映っているのは緑の狼だ。翡翠の瞳が輝き、美しい毛並みが陽光を反射している。


「おぉ、かっこ可愛いですね!」


「うん。まぁ、敵なんだけどね」


 実際、凄く映りの良い写真だ。プロの写真家が撮ったような奴なんだろう。ダンジョンの魔物を撮る仕事……危険だけど、需要はありそうだね。


「それより、能力だけど……こいつは足が速い。ちょっと風を操れるらしくてね、高速で懐まで迫って来る」


「……聞いてる感じだと結構手強そうですけど、そんなのが二階層から突然出てくるんですか?」


 少し真面目な表情になった八磨に、僕は首を振った。


「手強くないとは言わないけど、ピジョンマンと比べれば足元にも及ばないね。確かに速度に関しては目を見張るものがあるけど……その代わり、攻撃力が低い。爪もそこまで長くないし、牙も小さいし、何より体重が軽い。飛び掛かられても弾き飛ばすのは容易だね」


 押し倒されたりしない以上、無茶苦茶なことにはならない。爪や牙も、当たり所さえ気を付ければ致命傷にはなり得ない。


「それに、グリーンウルフの群れは規模が小さい。一つの群れで十匹を超えることは無いだろうね」


「なるほど……良く知ってますね」


 調べたからね。


「次に、こいつ……ッ!」


 背後、空中から何かが迫るのを感じた。僕が振り向くと、そこには真っ二つに両断された鷲が居た。八磨はその場で何度か刀を振るい、血を振り落とした。


「速いね、流石」


「ふふ、当然です!」


 八磨は笑みを浮かべながら刀に付いた血を拭い始めた。


「今説明しようと思ってたんだけど……アレはダーティイーグル。通称、汚れ鷲だね」


「うわ、嫌な名前ですね」


 僕は地面に転がった鷲の死体を見下ろし、その前に屈んだ。


「この、爪の先端……赤い部分。物凄く簡単に言えば、ここに毒がある。こいつはこれで獲物を引っ掻いた後、弱るのを待って……また、狩りに来るんだ」


「陰湿ですね……あ、だからダーティイーグルってことですか?」


 良かった、ダーティくらいは分かるんだね。いや、良い所の生まれって言ってたから、意外と教養はあるのかも知れない。


「いや、違うよ。その爪の部分の毒、単純な毒というより……とても汚いんだ」


「なんか、嫌ですね……」


 まぁ、傷口を消毒出来るものはあるからあんまり心配は要らないけどね。


「という訳で、貰って行こうか」


 僕は刀を拭く八磨の横で、鷲の爪を採取し始めた。




 ♢




 あれから、幾つかの魔物についての解説を済ませながら歩いていると……僕らは直ぐにそれに出会った。


「出たね、グリーンウルフだ」


「おぉ、やっとまともな敵が出てきましたね!」


 ダーティイーグルだって、初心者からすればかなり厄介な敵なんだけどね。


「ガルル……ッ!」


 こちらを睨みつける緑色の狼達。


「数は五つ。先頭の奴は戦闘経験アリだね」


「ですね」


 先頭に立つリーダー格の狼。その体には幾つもの傷が刻まれており、ここで暫くは生き残ってきたであろうことが分かる。


「強い個体は風で攻撃してくることもあるらしいから、気を付けて」


「了解です!」


 僕は鞘から剣を抜くことはせず、ホルスターから銃を引き抜いた。実銃よりは随分軽いそれは、銀色のボディに明るいオレンジで模様が描かれている。


「行きます!」


 五匹の群れに正面から挑みかかる八磨。迎え撃つように正面の三匹が八磨に飛び掛かり、端の二匹はこちらに駆けて来る。


「食らいなよ」


 僕は右から迫る狼に向けて引き金を引き、銃口から橙色の光線が一瞬だけ放たれた。


「ギャゥッ!?」


 速着、偏差無しの光線銃だ。いや、光線というよりは熱線と言うべきかな。それに頭を貫かれた狼は地面に倒れ、痙攣した。


「もう一ッ!」


「ガァゥッ!!」


 左の狼にも撃とうと銃口を向けたが、流石の速度だ。撃つよりも速く飛び掛かられ、照準がズレた。引っ掻き自体は躱せたが、もう懐に潜り込まれている。


「蒼紋ッ!」


 僕の体に蒼い紋様が迸る。僕は即座に銃を捨て、噛みつこうとする狼の首をひっとらえた。


「ガゥッ!? ガルゥウウウウッ!!」


「暴れるな、よッ!」


 ぶら下がる体を滅茶苦茶に動かしながら僕を引っ掻こうとする狼。僕はそれを突き飛ばすように前に投げ、狼が起き上がるより先に強く蹴りつける。


「ギャゥッ」


「ッ、ハッ!」


 足で狼の体を抑えたまま剣を引き抜き、狼の首辺りに突き刺した。


「……ふぅ」


 動かなくなった狼。息を吐き、八磨を見ると、既に三体の狼を片付けて手を振っていた。

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