能力検証
僕は先ず、移動能力を試すことにした。
「ふぅ……」
素の状態で五十メートルと百メートルをそれぞれ走り込み、その時間を計測した僕は深く息を吐く。
「ふふ、このくらいで汗をかいてるようじゃ、一流の冒険者にはなれませんよ?」
「僕は……頭脳派なんだ。それより、タイム見せてよ」
呼吸を整えつつ、計測したデータを確認する。
「こんな感じですけど……どうなんですかね?」
五十メートル走が7.01秒、百メートル走が13.42秒だ。
「冒険者としては遅い方かな。昔の僕よりは確実に速いけど」
ステータスを獲得したことに加え、冒険者になることを決めてからトレーニングを始めたこともあり、その身体能力は確実に上昇していた。
「さて、次は……
声に出して言うと、僕の体に蒼い紋様が走る。パレットが僕であることが唯一残念だが、その紋様自体は非常に美しい。
「いつでも良いよ」
「じゃあ、よーい……どんッ!」
僕は線が引かれた草原を全力で駆け抜ける。運動センスの無い僕はきっと、走り方も最適なモノでは無い筈だが……それでも、さっきとは段違いの速度で五十メートル先の線まで辿り着いた。
「うわっ、凄……めっちゃ速いですね」
「次は百メートルだよ」
僕は線の前に立ち、走り出す態勢を整える。
「よーい……スタート!」
「ふッ」
草原を駆け抜ける。今までに無いほどの風を感じながら、僕は百メートル先まで辿り着いた。
「八磨、タイムはどう?」
「五十メートルが3.85、百メートルが7.01……めっちゃ速いです」
良いね。倍には届かないけど、十分だ。それに、さっきと違って息が苦しくなる気配もない。スタミナも上がっていると見て良いだろう。
「次は、力だね」
と言っても、握力計の類いは持っていない。冒険者組合の施設内にそういう器具はあると思うが、公共の場で実験する気にはなれない。
「うーん、どう測ろうかな。器具が無いんだよね」
「じゃあ、私に斬りかかってみるのはどうですか? 私なら、どのくらいの差があるのか分かると思いますけど」
今のを見て、僕の攻撃を受け切れる自信があるのは流石だね。さっきも、普通に体掴まれたし……こいつ、やっぱり相当強いな。
「分かった。頼むよ」
僕は鞘から剣を抜き、八磨に向けた。
「いつでも良い?」
「……あんまり、抵抗とか無いんですね」
呆れたように言う八磨。まぁ、僕が剣で八磨に傷一つ付けられないのは分かり切ってるからね。
「行くよ」
「はい!」
僕は素の力で思い切り剣を振り上げ、八磨に振り下ろした。
「あんまり上手じゃないですね」
「うるさいよ」
金属音と共に僕の剣は受け止められ、受け流された。
「今度は、こっちだよ」
僕の体に蒼い紋様が浮かび、淡く光を放つ。
「ハァッ!」
「ッ!」
八磨は僕の剣を即座に受け流した。まるで空振ったかのような感覚、これが武術というものか。
「凄いですね……さっきの倍以上、強いです。速度があって、重くなりました」
「なるほどね」
僕は八磨の評価を受けて、一つ頷いた。
「立ち回りは変えない方針で行こうかな」
僕は飽くまで後衛。そして、八磨のサポート。これを変える必要は恐らくない。
「今、分かったからね……能力込みでも、八磨の方が強い」
最初こそテンションが上がり過ぎて気付いていなかったが、恐らく前衛としての能力は八磨の方が圧倒的に上だ。横に並んで戦うにしても、僕は邪魔になるだけだろう。
「とは言え、僕の生存能力が上がったのは喜ぶべきことだね」
「確かに、囲まれた時なんかは絶対剣で戦わないといけませんしね」
この感じ、蒼紋は耐久力も底上げしてくれている。速度と防御、この二つを兼ね備えた力があれば、僕はより安全に立ち回れるだろう。
「あと……多分だけど、この力は魔術にも影響がある」
体内の魔力が活性化しているような、そんな感触があった。もし、僕が魔術を手に入れることが出来れば、僕は優秀な魔術師になることが出来るだろう。
「良いね、悪くない」
八磨を超える力こそ無いが、脆弱な僕の肉体をこのパーティの弱点から除外できたのは喜ばしいことだ。僕を守ることに割くリソースが減る分、八磨も動きやすくなるだろう。
「始まりに相応しい、良い力だ」
神性簒奪。この能力を次使うのがいつになるかは分からないが、最初に手に入れる能力としては最良の力を手に入れたと言えるだろう。
シンプルで、扱いやすい。デメリットも無く、燃費も凄く良い。正に、欠点の無い力だ。僕はピーキーな能力よりも、こういう力が大好きだ。
扱いに困るが強大過ぎる力なんてのは、漫画の中だけで良い。
「うん、楽しくなってきた」
「お、やっと白羽さんも冒険者の良さが分かってきましたか」
金輪際関わりたくないと思っていたダンジョンだが、僕はここでの探検に高揚を覚え始めていた。
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