冒険者は雑魚を狩るにも全力を尽くす

 湿原の沼からひょこひょこと大量に湧いてくるスライム達。しかし、彼らは殆ど脅威にはならない。勿論、あの沼の中に落ちれば無傷では済まないだろうが、沼から上がってくるスライムを狩る分には傷を負うことも無いだろう。


「はぁッ!」


 そんなスライム相手に全力で意気込んで居合抜刀をかましたのは八磨だ。無防備なスライムの体がいとも容易く真っ二つに引き裂かれた。


「オーバーキルだなぁ。油断するよりは良いけど」


「ちょ、ちょっと力み過ぎましたかね……そういう白羽さんもやってみて下さいよっ!」


 言われた僕は腰の鞘から剣を抜き、リュックから薬液の入った小瓶を取り出し、それを剣先に塗ってスライムと対峙した。


「はい」


 ちょん、剣先をスライムの体内に刺すと、スライムはどろどろと溶けて蒸発した。


「なんですかそれ! 倒したっていうか……倒してないですよっ!」


「いや、倒してるよ。この湿原には基本グリーンスライムしか出ないからね。この薬液があれば攻略は容易だよ」


「それ、人に塗ったらどうなるんですか?」


「肌が焼けてヒリヒリするよ」


 普通に、毒ではあるからね。


「ていうか、そんなので倒して何になるんですかっ! 」


「いや、これは倒す用じゃなくて、もしスライムに囲まれたり沼に落ちたりした時に一瞬で蒸発させる為の物だよ」


 言いながら、僕は小瓶を一本渡した。


「と言うわけで、持っといてね」


「分かりましたよ……」


 しょうがなさげに受け取った八磨に、僕はあることを問いかける。


「そういえば八磨、能力は使わないの?」


「あ、忘れてました。使ってみます。白羽さんこそ能力は使わないんですか?」


「……僕の能力は完全に用途不明だからね。少なくとも、あのスライムに何か出来る感じは無かったよ」


 そう。冒険者登録後のステータス検査によって判明した僕の能力は、一切の使用用途が分からなかったのだ。






 ♦︎……昨日、合格発表後。




 受付から試験結果を受け取った僕たちは、その場で封を開けて結果を見た。


「白羽さんっ! やりましたよッ、合格ですっ!」


「そうだね。おめでとう。僕も受かったよ」


 落ちるとは思っていなかったが、少し安心した。筆記試験で八磨が受かって僕が落ちるとか、一晩は寝込む自信がある。


「おめでとうございます。それでは、ステータスの検査をしていきますか?」


「あ、うん。頼もうかな」


「私もお願いしますっ!」


 僕らが頼むと、受付の若い女は了承し、何やら腕に巻く血圧計をゴツくしたような物を取り出してきた。


「こちらの器具は血を採取することでステータスを検査するものです。針や出血が苦手であれば、唾液によって検査するという方法も取れますが、量が必要な上に検査結果は後日となります。どういたしますか?」


「私は勿論、こっちで大丈夫ですよ。白羽さん、まさか針が怖いとかないですよね?」


 挑発するようにこっちを見る八磨。


「大丈夫だよ。言っとくけど、僕は慎重なだけで臆病じゃない。ちょっとしかね」


「まぁ、それは確かに……そうかも知れないです。最初会ったときも、そうでしたし」


 そういえば、初邂逅はゴブリンから助けたところだったね。普通に忘れてたよ。


「それでは、先にそちらの方からお願いします」


「はいはいっ!」


 楽しそうに腕を器具に突っ込む八磨。結果が楽しみなのは分かるが、痛みを生じるものに嬉々として腕を突っ込める感性は理解できない。


「次に、そちらの方もお願いします」


「はい」


 腕を突っ込む。出来るだけ真っ直ぐになるように。変に曲がって、針が嫌な刺さり方をすると最悪だからだ。


「……はい、お待たせしました。こちら、ステータスカードになります。今から冒険者免許を発行してきますので、それまでの間はそちらをご覧になってお待ち下さい」


 奥へと消えていく受付嬢。僕たちは無言で自分のステータスカードを見た。薄っぺらいカード状の端末だ。


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 Name:白羽 新峻 Lv.1

 Skill:神性簒奪 Lv.1

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 余りに簡単な内容に僕は反応出来なかった。が、取り敢えずスキルの確認をしようとスキルの欄を押した。


「神性を、簒奪することができる……?」


「白羽さんっ! どんなスキルがありました?」


 余りにもそのまんま過ぎる説明に僕が眉を顰めていると、八磨が楽しげに話しかけてきた。


「よく分かんないスキルがあったよ。君は?」


「え、あ、私は神代之剣かみしろのけんでした。私の家の剣術のことらしいです。なんか、習ってない内容の技がいつの間にか記憶にあるので、多分神代流の剣術の全てを知ることができるスキルですね。あと、単純に剣技が強化されてるらしいです。剣術を習ってる人だと、こういうのも珍しく無いらしいですよ」


 そう話す八磨に、少しだけ僕の中の能力が疼く気配がする。一体何だろう。


「そっか……僕の、これ、なんなんだろうなぁ」


 僕は溜息を吐き、自分の未来を憂いた。

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