冒険者の力

 割とコテンパンに負けてしまった赤茶髪を、堂恵は呆れたような顔で見る。


「コウ。もう少し粘ったらどうだ」


「いや、無理っしょ。そもそも、俺が師匠に習ってるのは冒険者としての戦い方だからね? あの子、どう見ても対人格闘術やってるよ」


「確かにそれはそうだが……なぁ?」


 いや、こっちに視線を向けられても困るよ。


「……いいから、私と戦って」


 青髪の子はとっくに敗者から興味を無くしているようで、その無感情な視線を堂恵に向けた。


「ん? あぁ、良いだろう。じゃあ、審判は……」


 っと、堂恵の視線がこちら側にスライドする。


「あ、じゃあ私やりますよっ! 一応、武道の経験はあるので」


「おぉ、そうなのか? だったら頼む」


 快く引き受けた八磨だが、それを不満そうにコウと呼ばれた赤茶髪の少年が見ていた。


「えぇ〜、俺じゃダメなの? 俺も審判できるけど」


「ダメだ。俺の弟子のお前が審判をしたらややこしいことになるだろう」


 まぁ、ここは八磨が審判をするのが丸そうだ。


「えっと、武器はどうします?」


 青髪は無手であることが分かっているが、堂恵は不明だ。


「あぁ、素手で構わん」


 言い方的に、本来は何かの武器を使っているかのようにも思えるが、素手で行くらしい。


「じゃあ、準備良いですか?」


 お互いが向かい合って立ち、頷く。


「よーい、始めっ!」


 瞬間、青髪の子が動いた。俊敏な動きで堂恵に迫ると、さっきコウにやったように腹部を狙って拳を振るう。


乱掌底ランショウテイ


「遅い」


 しかし、その拳は堂恵の異常とも言える速度の動きで回避され、代わりに拳を叩き込まれてしまった。


「ぐっ……ぐふっ」


 後ろに大きく下がり、腹部を抑えて堂恵を睨む青髪。


「どうする? 降参を勧めるが」


「……まだ」


 ドンッ。地面を蹴り、さっきよりも速いスピードで堂恵に迫る青髪。


「乱掌……」


 さっきの流れを繰り返すように拳が堂恵の腹部に向かう。


嵐蹴ランシュウ


「ぬぅッ!?」


 と思いきや、途中でその拳は方向を転換し、代わりに鋭く伸びた足が堂恵の顔面を横から蹴りつけた。


「なるほど、上手いな」


「……効いてない?」


 しかし、完璧に決まったように見えたその蹴りは、一切のダメージを堂恵に与えられていなかった。


「あぁ、ダメージは無い。受け流したからな」


 当たったら滅茶苦茶痛そうなあの蹴りを、堂恵は受け流したと簡単に語った。


「…………降参する」


 その言葉を聞いた青髪は、数秒迷った結果降参を告げた。


「そうか。講習を受けるということで良いんだな?」


 コクリ、青髪は頷いた。


「だったら、名前を教えてくれ。俺は戊流ぼる 堂恵どうけいだ」


「……藤北ふじきた リノ」


 と、堂恵は視線をこちらにも向けてくる。


「折角だから、全員で自己紹介を頼む」


 なるほど、そういうことね。


「僕は白羽しろはね 新峻あらたか。気軽に白羽って呼んでね」


神代かみしろ 八磨やすりです。剣術習ってます」


 最後に、全員の視線が赤茶髪に向く。


「あ、俺も? えーっと、赤央あかなか こうです。コウって呼んで下さい」


 コウね。リノとコウ、どっちも二文字で覚えやすい。


「さて、自己紹介も済んだところで早速進めていきたいんだが……その前に、どのくらい動けるのかは見ておきたい」


 ん?


「まぁ、コウはいいとして……そっちの二人、俺と戦ってくれ」


 ……あれ、結局僕も戦わなきゃいけないの?

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