話が進まない

 取り敢えず冒険者組合から出て直ぐの所にある露店で適当に美味しそうなものを買い、近くのベンチで食べることにした。

 しっかりと机も用意されている冒険者組合の中で食べるという選択肢もあったのだが、さっきのジロジロとした視線が気になるのでやめておいた。逆に、常に人が行き来しているこの場所でなら、そこまで人の目は気にならない。


「白羽さん、焼き鳥とチョコバナナってどういう組み合わせですか? ていうか、焼き鳥はともかくチョコバナナってなんですか。お祭りじゃないんですから」


「意外と人気あるらしいよ、チョコバナナ。特にMPを凄く使うって人は甘いものが欲しくなるらしいから」


 ダンジョン帰りに飯を買って食う人は少なく無いが、その中でもチョコバナナは一部の層に凄く人気らしい。


「……まぁ、別に良いですけど」


 因みに、僕は焼き鳥もチョコバナナも好きだからどっちも買っただけだ。そもそも、まだステータスの検査をしてないからMPを使うことがあるかどうかも分からない。

 まぁ、MPを使いまくるようなスキルじゃなかったとしても、MPの使用用途はあるからね。


「そもそも、それをいうなら八磨だって変な組み合わせだけどね」


「なんですか。文句あるんですかっ!」


 文句を言われたことに文句があるかな。


「焼きそばとベビーカステラっておかしいでしょ。寧ろ、ベビーカステラこそ祭りとかでしか見たことないけど」


「いや、ベビーカステラはカステラですから! ポピュラーな食べ物です」


 言うほどそうかな?


「それを言うならチョコバナナだってバナナだけど。ポピュラーな食べ物だよ」


「むぅ……仕方ないですね。焼き鳥一本ください」


 何が仕方ないかも分からない上に、脈絡無さすぎないかな。


「はい、良いよ。じゃ、僕も……いや、いいや」


「なんですかっ! 欲しいなら言ってくださいよ! 全然分けますよっ! 私は白羽さんと違ってケチじゃないのでっ!」


 うるさいなぁ。そもそも、僕はケチじゃない。焼き鳥も分けてやるって言っただろ。


「焼きそばは好みじゃないし、ベビーカステラは気分じゃないからなぁ」


「我儘ですよ、白羽さん」


 我儘じゃないから。寧ろ、食べて欲しいっていう君の我儘だから。


「取り敢えず、早く食べようよ。あと二十分くらいでしょ?」


「そうですね。いただきます」


 僕は無言で手を合わせると、先ずはチョコバナナを手に取った。


「んんっ?! ごほっ、ごほっ……な、なんでそっちから食べるんですか?」


「え、意味なんてないけど」


 強いて言うなら、チョコバナナの方が食べたい度が上だったからだ。


「普通、焼き鳥から食べません?」


「あー、デザートは後からってこと?」


「まぁ、そういうことです」


 それは分からなくもないけど。


「確かに店の中とかだとそうするけど……外とか家だと気にしないかなぁ」


「うわぁ、良くないですよ白羽さん。そういうの、ズボラになっちゃうタイプですよ」


「君にだけは言われたくないかな。絶対ロクに掃除もしないでしょ」


「……私は、一人暮らしじゃないので」


 いや、他人任せにしてんじゃねえよ。


「色々と突っ込みたいところはあるけど、本当にさっさと食べないと時間が無いよ」


「そ、そうですねっ! 食べましょう! 黙って食べましょう!」


 ……分かり易いなぁ。



 と、僕はチョコバナナを食べ終わり、八磨もベビーカステラをあと少しで食べ終わるところまできた。


「そういえば、ベビーカステラって誰が買うの? チョコバナナより人気ないと思うんだけど」


「軽い割にカロリーと糖質が高めらしいので、ダンジョンで遭難しかけた時にもこれがあれば助かりやすいらしいです。あと、クッキーとかは割れるしチョコは溶けるけどベビーカステラは形が変わらないのでそういう面でも良いらしいですよ?」


 ……ちょっと気になってきたんだけど。買って行こうかな。


「でも、ベビーカステラってそんなに日にち持ったっけ? あんまり長持ちした覚えないんだけど」


「ふふふ、ここのベビーカステラは特製なのです」


 なるほど、完全に冒険者に合わせて作ってる訳だ。


「やっぱり、幾ら非常食って言っても美味しくないと嫌ですし、最近は皆家に非常食を置いてると思いますけど、それを探索の度に持ってくるっていうのも面倒じゃないですか。だから、美味しくて軽くて長持ちして直ぐそこで売ってるベビーカステラは有能なんです」


 凄いね。僕も非常用のサプリメントは買っといたけど、高かったからね。しかもあれ、ちゃんと保管しとかないと直ぐ腐っちゃうし。

 でも、三粒飲むだけで一日分の全ての栄養を取れるのは良い。ただ当然、お腹一杯にはならないし、ストレスは溜まりやすいよね。


「……ていうか、白羽さん。私もう食べ終わったんですけど、食べるの遅くないですか?」


 八磨がベビーカステラの最後の一個を呑み下した時、僕の焼き鳥はまだあと三本も残っていた。


「違う。八磨が食べるのが早いんだよ」


「いやいやっ、もうあと五分しか無いですからね? なんでチョコバナナ食べるのに十分もかけてるんですか!?」


 チョコバナナは、食べるのが難しいんだよ!


「まぁまぁ……落ち着いてこれでも食べなよ」


 僕は鶏肉とネギが刺さった一本の串を差し出した。


「いや、宥めるノリで言ってますけど間に合わないからですよねっ! 時間間に合わないから私に食べさせようとしてますよね! まぁ、食べますけどっ!!」


 うるさいなぁ。


「一応言っとくけどね、僕は……食べるのが遅いんだ」


「知ってますよ!?」


 八磨の絶叫が、通りに響き渡った。

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