空はどこまでも晴れ渡り、種族問わず同じように太陽は降り注ぐ8
「うっ……イテテテ」
薄暗いジメジメとした場所で目覚めた。
やたら頬が痛いけど、何があったんだっけ……?
たしか今朝はアイルの部屋に泊まって……そうだ、アイルとお使いに出た先でゴロツキに絡まれて……
うーん。どうも記憶がハッキリとしない。
痛む頬を擦りつつ、体を起き上がらせる。
明かりがないせいで、周囲の全てを目で確認することはできないけれど、背中側の壁の上の方に格子の付いた小さな窓があって、少し明かりが入り込んでいた。
差し込んでくる光が赤い事を見ると、もう夕方といった所か。
今自分がどこにいるのか、確認してみようと小窓に近づいてみるも、僕の身長じゃ届かない高さだ。
僕の身長の倍はありそうだ。
壁に触れてみると、石が積まれて作られている物だと分かる。
上手くやれば登れるかもしれないけど、今はそれより自分の置かれた状況を判断すべきだろう。
壁伝いに歩いていくと、金属製の扉のような物があった。
扉を押したり引いたりしてみたが、鍵がかかっているのかびくともしない。
壁伝いにそのまま歩いていくと、小窓の真下まで戻ってきた。
つまり、僕は今、石の積まれた壁に覆われた部屋のような所にに閉じ込められているという事がわかった。
独立した小屋なのか、建物の一部なのかは現状わからないけれど、窓の外を覗けばわかるかもしれない。
意を決して、石隙間を探して壁を登ろうとした瞬間、唐突に、本当に唐突に声をかけられた。
全く人の気配もなんてしなかったのに。
「やめとけ。無駄だ。見つかってまた牢屋に戻されるのが落ちだ」
驚いて壁から落ちて尻もちを付いた。
「イテテテ」
「だ、誰?あ、アイル?」
アイルでないことなんて、声を聞いてすぐに分かった。でも口をついて出てきた名前は『アイル』だった。
「おあいにく様だな。俺はダクトだ」
部屋の中央。目が慣れてきたせいか、ぼんやりと人の輪郭が見えてきた。
僕より年上だろう。黒髪……いや、金髪も混ざった。まだらな髪の色をした少年がそこに座っていた。
「ダクトさん。僕はオルドです。宜しくお願いします」
そう言いながら手を差し出した。
ダクトは握手に応じる事なく、そっぽを向いた。
「ふん。随分と冷静なんだな。俺がここに入れられた時はもっと騒いだもんだぜ」
ダクトに言われて気がついたけど、かなり冷静だった。なんで僕はこんなに冷静なんだろう?
「そんな事はないですよ。今声をかけられて壁から落ちましたし」
ダクトは一つ舌打ちをしてから続けた。
「起き上がってすぐに窓に気づいて、自分の置かれた状況を把握しようとする奴なんてそうはいない。どこかで訓練されたのか?……まさかスパイとか?」
「すぱい?」
ダクトはふんと鼻を鳴らしてから
「冗談だ。ところでさっき俺と間違っていたアイルってのは誰なんだ」
「アイルは僕の友達の女の子で……」
「サーブか?」
「いえ、アリスベイズ人です」
「一緒にここに連れてこられたのか?」
食い気味にダクトは質問を重ねる。でも僕は……
「よく覚えていないんです」
「直前まで一緒にはいたのか?」
「おそらく」
「だとしたら、マズいな」
「何がですか?」
「ここは奴隷商人のアジトなんだ。アリスベイズ人専門のな」
「えっ!?アリスベイズ人も奴隷になるんですか!?」
「そっちに驚くのか。本当にお前はおかしな奴だ」
「僕、何かおかしいですか?」
「普通なら友達の女の子を心配するんじゃないのか?」
「たしかに、そうかもしれませんね」
なぜ僕はアイルの心配をしていないのだろう?
少し考えてもよくわからなかった。
ただ、なんとなくアイルは大丈夫。そう思えた。
僕がアイルの事をそれだけ信頼しているということなのかな……?
「まあ良い。オルド、お前はおそらく気が動転しているんだ。自分が置かれた状況も正しく理解できていないほどな」
「そうなんですかね」
「お前は今、奴隷商人のアジトに囚われている。売り買いされるのも時間の問題だろう。アイルと言うアリスベイズ人の女の子も同様にな」
「そうなんですか」
ダクトは舌打ちをしてから続ける。
「その態度が気に食わないんだよ。説明されてもまだ理解できていないのか。これだからガキは……」
「それは理解しました。なんとか脱出したいと思います。協力してもらえませんか?」
「ああ?協力?俺にどうしろってんだ」
「ちょっと肩を貸してもらえませんか?」
元奴隷種族、サーブが英雄になるまで さいだー @tomoya1987
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