空はどこまでも晴れ渡り、種族問わず同じように太陽は降り注ぐ7
声のした方に振り返ると、昨日、僕を痛めつけたゴロツキのうちひとりが立っていた。
「ふん。生意気にもアリスベイズ人用の服なんて着やがってよ。やっぱり赤い服は黒髪には似合わねえな」
ガハハと下品な笑い声をあげながらゴロツキは言った。
それを遮るようにアイルが声をあげる。
「何がおかしいの?オルドに凄く似合っていると思うけど?」
「なんだお前は?ふーん」
アイルを見定めるように、くすんだ碧眼で足元から頭の先までを順に見て、それからゴロツキは言った。
「ふん。平民のアリスベイズ人か。サーブなんかと歩いているなんてお里が知れるな」
普段のドレスではなく、お付のガメトンさんもいない状況のアイルを見て平民の少女だと判断したようだ。
かなりバカにした口調だったけど、アイルはそれを鼻で笑い、僕の前に一歩歩み出た。
「オルドはマグナ族よ。私の大事な友達なの。差別するのはやめてもらえないかしら?今すぐ頭を垂れて謝りなさい」
「んだとこのガキ!?舐めた口聞きやがって」
ゴロツキは昨日僕にしたようにアイルに詰め寄ると、胸元に手を伸ばす。
アイルを守る為に僕は慌てて間に割って入る。
「っち。サーブのクソガキ!邪魔すんな。この生意気なメスガキを黙らせてやるんだ」
「やるなら僕にして下さい。アイルには手を出さないで下さい」
「ふん。ガキ同士のお友達ごっこかよ。いいぜ、まずはサーブ。お前から血祭りにあげてやる。昨日より酷い目にあわせてやる」
慌てて一歩下がって、ゴロツキの右手を回避する。
ジリジリと裏路地の方へと追いやられていく。
道行く人々も見て見ぬふりを決め込んで助けてくれようとはしない。
そんな最中、アイルは僕だけに聞こえる声量でこう聞いたのだ。
「昨日も彼にやられたの?」
「うん」
「案内してもらうまでもなかったわね。向こうからやってきてくれるなんて好都合だったわ」
「何か……するつもり?」
アイルは僕の問に何も答えず、深く深呼吸をした。
「お前達、ごちゃごちゃ何を企んでいるのか知らんけどな、お前達の運も尽きたな」
「ラッカー。ガキ相手に何をやってるんだ?」
僕達の背後からゴロツキに話しかける別の男の声。
前方にも注意を払いながら素早く後方を横目で見ると、別のゴロツキが二人。
しっかり見た訳では無いけど、昨日僕がやられた残りの二人だと思われた。
万事休す。ガメトンさんもいない。街の人々も見て見ぬふり。
せめて、この状況からアイルだけでも無事に救い出す方法はないだろうか……
「僕だけこの場に残ります。ですのでどうかアイルは……」
その時だった。
背後に淡い光が集まっていく。
「niti corpus.Magia potentia in corpore tuo.」
「あー、なんだ?」
前方のゴロツキが不可解な物を見たような視線を背後に向ける。
そこに居るのはアイル。
「イグニス!」
前方に向かい、赤い光がゆっくりと飛んでいく。
その様子をゴロツキも黙って見ていた。
光がゴロツキへ接触したその瞬間。小さな火柱が上がる。
ゴロツキの服に火が付き、瞬間的に全身へと火は移って行く。
これにはたまらず火を消そうとゴロツキは地面に転がる。
「おわっ!?なんだなんだ!?」
背後のゴロツキ二人も何が起こったのか理解できずに、こちらに近づけなくなった。
「オルドをイジメたお仕置きよ。次はあなた達の番」
調子づいたアイルは背後のゴロツキにも『イグニス』をお見舞いしてやろうと振り向く。
「niti corpus.Magia potentia in corpore tuo.」
先程のようにアイルの元に光が集まる事はなく。
「イグニス!……って、あれ?」
イグニスも発動すること無くアイルは素っ頓狂な声をあげた。
僕の前方のゴロツキもなんとか火を消し止めて、半裸状態になりながら、立ち上がると、チリチリになってしまった頭髪を撫でてから、二人の仲間に指示を出す。
「そのガキは今ので魔力切れだ。さっさと取り押さえろ!」
「お、おう!」
その瞬間、二人のゴロツキがアイルに飛びかかり、前方のゴロツキは僕の顔面に強烈な右ストレートを放った。
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