空はどこまでも晴れ渡り、種族問わず同じように太陽は降り注ぐ5

 翌朝。


 目が覚めると隣にアイルの姿はなかった。


 眠い目をこすりながらもこれはまずいことをしてしまったなと周囲を見回した。


 人の気配はない。僕は一応ダブルス家の下級使用人だ。


 主人であるアイルより遅く起きるのはまずいし、その主人の部屋に一人で寝ていた事はもっとよろしくない。


 アイルを探しに行くために、ガメトンさんが用意してくれたであろう、アリスベイズ人用の使用人の服に着替えてアイルの部屋を後にする。


 部屋から出たは良いもののダブルス家の屋敷はかなり広く、あまり出入りをしたことがないし、どちらにむかうべきなのか見当もつかない。


「こまったな……」


 いつも自室から厩舎に向かって手を振ってくるアイルの姿を思い出して、なんとなく自分の現在の位置を把握する。


 ここは屋敷の三階で右手に行けば階段があるはずだ。



 アイルはどこに行ってしまったのか……とりあえず下の階を目指した。


 屋敷の中では上級の使用人、アリスベイズ人達がお掃除だ、ご飯の用意だと大忙しで働いているが、やはり、すれ違う僕の姿を見る目はどこか蔑んでいるように思えた。


 居心地の悪さを感じて、屋舗から飛び出すとすぐにアイルの姿を発見した。厩舎に向かう途中の、馬達の寝藁に使う干し草の積まれた真ん前に立っていた。



 これだったら慌てて部屋から飛び出さずに、アイルの部屋の窓から顔を少し出せばすぐに見つけられたなと思いながらアイルの背後に立つ。


 そして、声をかけようとしたのだけど、それは躊躇われた。


 アイルはかなり集中している様子で、うつむき加減でキツく瞳を閉じて、口元で何かゴニョゴニョと言っている。


 なんと言っているのかは聞き取れないけれど、それは僕の知っているではなかった。


 しばらくじっと見ていると、アイルは右手を前方に突き出し、左手を右手のこうに添えるように置いた。


 不思議な事に、アイルの右手に赤い煙のが吸い込まれていく。



 いや、吸い込まれている訳では無い。次第に赤い煙のような物は丸みを帯び、アイルの右手から少し距離を置いた位置に静止している。


 そして、時間を置く事に、少しずつその大きさを増していく。


「イグニス!」


 アイルはキレイな碧眼を見開くと同時にそう叫んだ。


 すると、アイルの右手に集まっていた赤い玉が離れ飛んでいく。


 よろよろと力なく飛びながらも、干し草へ赤い玉が接触すると小さな火柱が上がる。


 まるでランプの中の火種が、突如そこに現れたような感じだった。



「やった!できたわ!!」


 その火種はじわじわの燃え広がり、干し草を侵食していく。


「オルド!今見ていたわよね!?私魔法を使えたわ!これで中央の魔法学園に進学できるわ」


 アイルは嬉しさを爆発させるように僕に飛びついて来た。

 半分くらい何を行っているのかわからなかったけど、喜ぶアイルの姿を見て、僕まで嬉しくなった。


「良かったね。アイル!」


 よくわからないままアイルと二人抱き合いながらぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


「おい、サーブ!何してやがる!?」


 僕達がはしゃぐ声を聞いたからか、厩舎の方からヤメスさんがやってきた。


「おいおいおいおい!?干し草に火を付けやがって!?お前何がしたいんだ!?ああ」


 遅れてロンゲルさんが、肩まである金髪を風になびかせながらやって来る。


「えっ、えっー!?ヤメスさん!騒いでいる場合じゃないですよ!?早く、早く火を消さないと!」


 怒り顔で僕の方に向かってきていたヤメスさんは、ロンゲルさんの怒声にはっとしたような顔をして、干し草に目を向ける。


「そ、それもそうだな!」


 メラメラと燃え広がる火種。じわじわと干し草の侵食域を広げていく。


「おい、サーブ、とっとと水を汲んでこい、なるったけ大急ぎでだ!」



「は、はい!」




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