空はどこまでも晴れ渡り、種族問わず同じように太陽は降り注ぐ4

 何がどうなってしまったのか、僕は今アイルの自室で、アイルと同じベッドに入って眠りにつこうとしていた。


 お互いに背を向けて、僕は窓側で、優しく明るく輝く星々が窓から入り込んでいた。


 明るいから眠れないと言う訳ではないのだけど、身分違いの自分が本当にここにいて良いものか、後で父さんにバレた時になんてどやされるかわかったもんじゃない。


 それだけで済めばまだ良いほうで、アリスベイズ人にもしバレればまた今日のような目に合うかもしれない。


 ……いや、もっとひどい目に合うに違いない。

 僕はサーブで、アイルはアリスベイズ人でも貴族に属する辺境伯の一人娘、令嬢なのだ。


 アイル専属執事のガメトンさんも、僕の治療を終えて、アイルの部屋に送り届ける時に一つだけ咳払いをするとこう言った。


「わかっているとは思いますが、アイル様にはおて一つ触れてはいけませんよ。同衾どうきんするなんてもってのほかなのですが、アイル様がああまで言うのですから不承不承ながら同衾することは許しましょう。しかし、もし、なにかあった場合、貴方がた家族はどういった処遇になるでしょうな?」


 そう言って送り出してくれた。


 話の半分くらいは何を言っているのかよくわからなかったけど、アイルに何かしたら大変な事になるぞ、と言いたい事だけは無学な僕にでも伝わった。


 僕が緊張しているのは、アイルが横で寝ているからなのか、ガメトンさんのプレッシャーのせいなのかは判断はつかない。


 こんな時は落ち着くために、アイルに教わった算数の練習をするに限るな。


 右手が三、左手が四、足したら……七。


 右手が四、左手が三、それも足したら七。


 不思議だ。手の数が入れ変わっても答えは同じ。


 左手が二、右手が五でも答えは七。


 その反対でも答えは同じ七。


「ちょっとオルド、さっきから何をやっているの?美少女が横にいちゃ落ち着かないのかしら」


 声のした方へ振り返ると、うっすら笑みを浮かべたアイルが立て肘でこちらを見ていた。


「……うん。ちょっと落ち着かなくて」


「それは緊張しているのかしら?」



 緊張か、緊張と言えばそうなのかもしれない。

 何に対する緊張なのかはよくわからずにいるが。



「うん。多分」



「ふーん。オルドも知らないうちにそんな事を意識する年頃になったのね。オルドってえっちなんだ」


「えっち?なんの事?」


「ふーんすっとぼけちゃって。男と女が同じベッドで過ごしたら、どうなるかお母様から教えてもらったわ。オルドもお父様から聞いたのかしら?」


 男と女が同じベッドで過ごしたらどうなるか、なんて父さんから教えられた覚えは無い。


「聞いてないよ。どうなるの?」


 するとアイルは慌てた様子で上半身を起こすと、パタパタと両手をめちゃくちゃに振って見せてから続けてこう言ったのだ。


「そ、そ、そんなこと、令嬢の私の口から言えるわけないじゃない!!」


 薄明かりのせいでよくわからないけれど、頬が赤く染まっているように見えたけど、気のせいだろうか。


「そうなんだ。今度父さんに聞いてみるよ」


 アイルがダメなら父さんに聞くしかないだろう。なんとなく母さんには聞いては行けないような気がした。


「そ、それもダメ!、そ、そうね、いつか、その時が来たら私から教えてあげるから」


「今は?」


「今はダメ。まだオルドには早いわ。そうオルドには早いのよ!」


「アイルも僕も同い年じゃないか。アイルの方が僕より物知りだけど」


「そういう事言って困らせると、もう勉強も教えてあげないわよ!」


 それは困る。アイルから教えてもらう勉強が僕の唯一の楽しみなんだ。

 だからここは大人しく食い下がるしかないな。


「わかったよ。アイルが教えてくれる気になるまで待ってるよ」



「や、約束よ!?ガメトンにも言ったらだめだからね」



「うん。約束する」


 なんで、アイルがかなり慌てているのかは気になるが、そこは指摘しないことにする。


「……じゃあ、もう寝るわよ」


 さっきまでの会話はなかった物だと言わんばかりに、アイルは僕に背を向けた。


「うん。お休みや」


 僕もアイルに背を向けて目を瞑った。


 しばらくして、ウトウトしだした夢の見始め、アイルが何か僕に行ったような気がした。


「ごめんね。オルド」

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