空はどこまでも晴れ渡り、種族問わず同じように太陽は降り注ぐ3
日はすっかり暮れてしまい、本来ならもう家に帰ってなきゃならない時間だけど、屋敷までの帰り道を急いだ。
結局頼まれた買い物を完遂することが出来なかったし、体のあちらこちらが痛い。
勉強を教えてもらう約束をしていたアイルはきっとカンカンだ。
まあ仕方がないよな。僕が約束を破った訳だし。
ここの門を曲がれば屋敷の門が見える。
もしかしたらもう門は閉じられてしまっているかもしれない。いや、いつもならとっくに閉まっている時間だ。
いつもより時間をかけてゆっくりと角を曲がると、案の定門はしまっていたが、執事を背後に従えて、不機嫌真っ最中のアイルの姿が視界に飛び込んできた。
僕の姿を見つけた瞬間、アイルは表情を一変させた。
そして、こちらにかけよると僕に肩を貸してきた。
「アイル。いけないよ。キレイなお洋服が汚れてしまうよ」
街のゴロツキにやられたせいで、僕の着ている服はえらく汚れていた。
名もなきサーブのように、僕のことを直接的に痛めつけてくる事はなかったが泥の上を何度も転がされたせいだ。
「そんな事より、どうしたの、こんなに服を汚して……ってあっちこっちに傷だらけじゃないの!?」
アイルは僕がなんとか引っ張ってきた名もなきサーブには目もくれず、僕の顔や、腕や捲りあげてお腹なんかを入念にチェックした。
「ちょっとトラブっちゃったんだ」
えへへと笑いながら言ってはみたが、少し笑うだけで腹部がえらく痛む。
「ガメトン。オルドをすぐに治療してあげて。こっちの子は……?」
僕がなんとか肩で担いできた名も知らないサーブに視線を向け、アイルは戸惑いのような表情を覚える。
「サーブ……キメス族ですよ。街で絡まれていたので、助けてしまいました」
サーブと言う表現をアイルが嫌う事を思い出し、すぐに種族名へと切り替える。
「ヒドイ怪我……ガメトン。こっちの子もお願い。こっちの子は治癒術師が必要そうね。オルドは私が連れて行くわ」
「はい。かしこまりました」
アイル専属お付の執事さんのガメトンさんは、躊躇する事も嫌悪することもなく、僕の肩から名もなきサーブを受け取ると、屋敷の方へ向かって行った。
「ほら、オルドも行くわよ」
こんなサーブ風情に肩を貸している姿を見られたら町民から反感を買うこと間違いなしなのに、アイルは気にせず僕の腕を自分の肩に引き寄せる。
「はい。わかりました」
アイルの手を煩わせたと言うことで、父さんと母さんに怒られる事は確定的になった。
感謝の気持と明日以降の辟易とした気持ちを同時に抱きながら、屋敷に向かって歩く。
「良い?あまりこんな事は言いたくないけれど、あなた達キメス人は差別をされているの。あなた達になら何をしても良いと思っている人達が大半なの。肩がぶつかったならすぐに謝りなさい。因縁をつけられたなら走ってでも逃げなはい。そしてもし逃げられないのなら、私が預けたペンダントを見せなさい」
アイルが言っているのはダブルス家の家紋が刻まれている徽章の事だろう。
「もちろん。見せたよ。でも、こうして投げ飛ばされた」
「ダブルス家に逆らおうなんて不届き者も良いところね。明日、そこまで案内なさい」
現場まで案内をする要請だけすると、それ以降アイルは話さなくなってしまった。
ただ黙って僕を屋敷の中へ連れ込んでいく。
しかし、それは問題だ。
僕らサーブを領主様の屋敷の中に入れた、そんな事が知れたら暴動が起こったっておかしくない。
「大丈夫だよアイル。この通り僕はピンピンしてるし動ける」
本当は体のあちこちが痛むが、あまりアイルに迷惑をかけるわけにもいかない。
「ちょん」
アイルが僕の脇腹を人差し指でちょんと突くと激痛が走る。
「イッ!!!!?」
「怪我人は大人しく私の言う事を聞きなさい。令嬢命令よ。……それに、そのまま帰ったら家族を心配させることになるわ」
「それは……」
アイルの言う通りだ。
父さんも母さんもきっとかなり心配する。
「連絡はしておくわ。だから、今日は大人しく私の部屋にお泊りしなさい」
「はい。……ってええええええ!!?」
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