トンネルは続く

 ここは心霊スポットとしてよく出るトンネル。あんなものは暗い場所でパニックに陥った疎かな人間たちの幻覚や幻聴に過ぎない。幽霊なんているはずがない。私は幽霊を見たことだって怪しげな物音を聞いたことだってない。うわさ話に踊らされて、こんな場所に来るなんてばからしい。

 女の霊が出ると噂されるトンネルの前で私は一人冷静になっていた。友人たちは各々体を恐怖で震わせたり、涙目になったりと反応が分かれた。そんなに怖いならこんな場所来なければいいのに。薄暗い電灯がチカチカと光る。

バチン!

 唐突に大きな音を立てて電灯が消えた。悲鳴に似た叫び声がトンネル内に響き渡る。私も一瞬驚いたが目を慣らすのが先。

 こんなときでも冷静に考えられる脳をくれた親に感謝しなければならない。真っ暗になったトンネル内に目が慣れるのにはだいぶ時間がいるようだった。ぼんやりと視界に影が映り込む。友人たちの姿だ。叫んでいる様な仕草で真っ暗な闇の中、へたり込む。パニックになり過ぎだ。こんなことくらい想定しておくべきだろう。

 私は足を鳴らす。壁に手を当てて外を目指した。入口にスイッチのようなものがあったのを思い出したからだ。私は方向感覚を失っているが、多分来た道を帰っているはず。友人たちを置いていくことになるだろうが、仕方ない。彼らは今の状況では役に立ちそうもない。

 歩いてきたのと同じくらいの時間が経ったが暗い中を進んでいるから、もう少し時間が必要になるだろう。私は確信を変えぬまま足を進める。

 外から風の音が聞こえる。

 あぁ、やっとか。私は真っ暗な闇の中、電源盤の微かな明かりを頼りにスイッチを入れ直す。

目の前に広がるのは体を恐怖で震わせたり、涙目になったりしている友人たちと電灯がチカチカと光るトンネル。


 そう。ここは心霊スポットとしてよく出るトンネル。暗い場所でパニックに陥った疎かな人間たちの幻覚や幻聴に過ぎない。幽霊なんているはずがない。私は幽霊を見たことだって怪しげな物音を聞いたことだってない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る