第2話

これは厄介な事になったぞ…と考えながら通学路を歩いた。


この町を徒歩で歩くのは、かなり久しぶりだ。


未来の時間では、もう閉店してしまっている商店がまだやっていたり、逆に未来にはあるが今は無い店もある。


…それより、どうやったら元に戻れるんだ?と考えながら歩いていると、後ろから走って来たヤツにヘッドロックをかけられた。


俺は反射的に、完全にロックがかかる前に巻き付いた腕の力の方向に逆らわずに身を回転させて、自分の胸と肩で相手の肘と肩関節を極めた。


相手は前のめりとなり、俺はその上に身体を被せるようにして技を施している。


「いっ!痛ってぇ!やめろっ!」の相手の声で我に帰る。


誰だコイツ…?と思って技を解いて相手の顔を見ると、同級生の狭山さやまと、その後ろに稲葉がいた。


「迎えに行ったのに、お前いないからよ~!」と狭山が話す。


そういえば、一緒に登校していた時期があったような…。


「今のなに?プロレス技かよ?」と稲葉が聞いてくる。

まあ、そんな感じ…?と返事をしておいた。


稲葉は、親が教員をしている。育ちが良いお坊っちゃまだが、隣町の空手の道場に通っていると話していたことがある。


欲しい物は何でも買って貰えて、イケメン。

勉強も運動も、そこそこ出来る。

学年では、かなりモテていた記憶がある。

いわゆるリア充ってやつだ。


「天は二物を与えず」なんて言葉があるが、それは嘘だ。コイツは何個も持っている。

まあ、性格はちょっと…。後に変な事件を起こして警察の厄介になったヤツだ。


一方、ヘッドロックをしてきた狭山。

明るいのと、サッカー部と言うこともあり、こちらもかなりモテていたはず。

だが、かなり気性が荒い…。


いつも俺を出汁にしてイジっていた奴らだ。

コイツらとは、この時期のみの付き合いで、中学卒業と同時に連絡を取り合っていない。


仕方がないので、今日は一緒に登校するが

「悪いけど、月曜日から一人で登校するから」と俺は伝えた。


嫌なヤツと一緒に居る事ほど、時間が無駄な事はない。

時間は有限だ。関わる相手を、俺は選ぶ。


「急にどうしたん?ぼっちになりたいのか?」と稲葉に聞かれるが、別にそれで構わない。


狭山と稲葉は会話しているが、俺はあまり言葉を発せずに学校に着いた。





学校に着き、玄関で上履きに履き替えた。

この時点で、今日は一限目が終わったらフケよう、と心に決めていた。


後ろから「おはよう」と言う女子の声がかかり、振り向くと佐久良梓さくら あずさだった。


狭山と稲葉に挨拶したのだろうと、俺は構わず教室へ向かおうとしたが、佐久良は俺に追い付いてきて「おはよう」と再度言った。


「俺に挨拶してたのか?アイツらにだと思ってた」と伝えると


「草森の方を見て声かけてたでしょ!」と強めに言われた。


ごめん、と伝えると苦笑している。


佐久良と俺は、ちょっとした因縁がある。


悪いヤツではない…。嫌、悪いヤツなのかな?


大人になった俺から見たら大したことはないのだが、この頃の俺は…傷ついた出来事があった。



──────────────────────



一限目は化学だった。担当教員は定年間近のおじいちゃん先生。


入れ歯のサイズが合っていないのだろう、何を言っているのかサッパリわからない…。


おまけに黒板に書く字が汚くて読み取れない…。


確か父兄から授業が酷すぎると学校に苦情があった記憶がある。

だが、学校側は何も対処しなかった。


二限目は音楽。音楽室には行きたくない…。


始まる前の休み時間に俺は鞄を抱えて玄関に走った。


この学校は授業をサボったくらいで親へは連絡しない。


もうすぐ玄関、という所で左腕を誰かに捕まれた。


一瞬警戒したが、相手が女子だとわかり、腕の張りを解いた。


この顔、誰だったっけ…?隣のクラスの倉持佳純くらもち かすみ…だったか?。

ポニーテールに眼鏡が似合う、知的なクール美人といった感じの女子。


確か吹奏楽部…。まあ、今の俺も吹奏楽部に入っているのだが…。


倉持は、リーダー気質なのと、人当たりが良くて、俺ともたまに話をしてくれていた記憶がある。


けど、小学生の頃には、なぜか倉持にちょっとイジめられていた経験があり、近寄り難いと俺は感じていた。


「鞄持って、どこに行くの?」と聞かれ


「体調が悪い。早退するんだよ」と答える。


「そう…じゃあ気をつけてね。来週からは部活に来れる?」と聞かれる。


俺は片手だけ上げて返事はせず、外靴へ履き替えて足早に学校を後にした。





その後、俺は考え事をしたいので近くの漁港の灯台に向かった。


あまり人目につかないような道を通って、灯台まで着いた。


灯台の海側、岸から見えない位置に座り、スマホを取り出した。


このスマホ、どうなってるんだ?過去と未来の間で通話って…いったいどんなカラクリになってるんだろう?


琴乃に連絡しようと思ったが、今の心が乱れた状態では心配をかけると思い、やめておくことにした。


「…どうにかして、元の時代の俺に戻らないと…。」


「戻れないよ」


急に横から声をかけられて驚く。

気配が、無かった。…というか、空間から突然現れた?


「お前は、誰だ?」俺は努めて冷静に聞いた。


得体が知れない…。銀髪、碧眼、白っぽいピッタリしたボディ・スーツのような服を身に着けている。一言で言うなら「場違い」な風体の男だ。

年齢は二十代前半か?


「僕はスヴァイン。貴方の遠い子孫ですよ、ご先祖さま」笑いながら、そいつは話した。


「子孫、だと…?戻れないとは、どういうことだ?」


「そう。もう戻れない。貴方は実験体だ。僕が所属している組織の研究の一環でね。僕の先祖で、面白そうな人で試してみることになった。それが貴方だ」


「なんだそれは!?いや、戻せよ!!一番嫌な時代に戻しやがって!半年後に結婚を控えてたんだぞ!!力ずくでも戻してもらう!」

コイツの話は理不尽すぎる!


俺はヤツの首に手を伸ばした。【喉輪】喉への打撃と、掴めれば頸動脈失神を狙った技だが、あっさり避けられた…。斜め下の見えにくい角度からなのだが、…コイツ、なにかやってるな?


脛への前蹴りから、顔面にワン、ツー、右のローキックを放つが、脛蹴りとパンチは回避され、ローキックは、膝ブロックでカットされた。


俺はそこから滑り込むように入り身して側面入身投げに行こうとしたが、ヤツは足を差し替えて同じ技で返しに来た。

俺は肩と胸でヤツの左肘関節を極めて技を封じた!

…一瞬、膠着したが…何となくお互いに離れた。そして…ヤツは空中に浮き出した。


「流石ですよ、ご先祖さま。ただ、今の肉体に技が着いて行っていない」


む…観察眼が優れているな。

コンビネーションや技の類いは使えるが、今の肉体には馴染みの無い動きなのだから仕方がない。


少し息も上がっている…。まあ、理不尽に対しての怒りで呼吸が荒くなっているのもあるのだろうが…。


「戦いは、この辺でやめましょう、ご先祖さま。というか、私がタイム・リープに関係すると疑わないんですね?」


「…まあ、そんな格好だし、空中に浮いてるし…。空間から突然現れたらなあ?お前、宇宙人か何かなのか?」


「へぇ、御名答だ。未来人でもあり、異星人ですよ。貴方の子孫というのは本当です。地球人的ではなく、魂として、ですけどね」


「その辺はわからない。…頼む。元の時代の俺に、戻してくれないか?」


「申し訳ないのですが、既に実験は始まってしまった。もう、元には戻れない」


俺は両膝を着いて地面を叩いた。

「琴乃に…、元の時代の婚約者になんて言い訳すればいいんだ…!!」


「…わかりました。その点は何とかしましょう。ただ、貴方は、この時代で生きて行くことに変わりはありません」


続けてヤツは言う。

「スマホは、特別仕様のプレゼントです。光充電ですので、適度に光に当てて下さいね?

そして、有効に利用して下さい。この時代には無い物ですので、くれぐれも紛失しないように。

ああ、メッセージ・アプリで、私にも連絡は取れますからね。

こんな事をしておいて何ですが、敵ではないのです。信じてくれなくても構いません。

私が、いろいろな御先祖の中で、貴方が特に気になったので。それが理由です」


くっそ…、空中に居られちゃ、手も足も出ない!俺はその場に座り込んだ。


「お前は、俺にどうして欲しいんだ!?」試しに聞いてみた。


「この時代で、今の貴方がどうするのか、私は見てみたい。貴方の考えで、何もしなくてもかまいませんよ?ただ、観察させて頂きたい。それだけです」


そう言って、ヤツは空間に消えて行った。

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