最も戻りたくない過去にタイム・リープさせられた件について

宇治ヤマト

第1話

「明晰夢」──これは夢だ、と自分で認識している夢のことである…らしい。



俺は今、夢の中に居ると認識していた。


目の前には琴乃がいる。

俺の婚約者で、半年後には結婚する予定だ。


だが、彼女との間に、目に見えない壁がある。


俺は手を伸ばすが、壁に阻まれて、彼女に触れる事が出来ない…。


琴乃もこちらに手を伸ばしているが、壁が厚くなって行く。


俺と彼女との距離がどんどん開く。


夢だとわかっているのに、焦る。


嫌な感じだ…。


くっそ、夢なら早く覚めてくれ!


…と心の中で祈る。


そのまま──、俺の意識は暗闇に落ちた…。





─────────────────────





…サイレンの鳴るような音で意識が戻り、眼を覚ました。


目覚まし時計…か…?


あれ?これ…大分前に壊れたんじゃなかったっけ?と思いながら、アラームをストップさせるためのスイッチを探り、押す。


…耳鳴りと頭痛がする。

ハッキリしない意識のまま、部屋を見渡す。


…実家の、俺の部屋か?


アパートの部屋じゃないという事は、昨日は実家に帰って来たんだっけか?


枕元にはスマホがある。

会社に行かなければならない…。とにかく起きなければ…。


ベッドに腰かけて、改めて部屋を見渡す。


この部屋、日当たりがいいから、今は洗濯物干したり、観葉植物の鉢植えが並んでいたはずだが…ない。


ベッドから立ち上がると、目線の位置が低くなったような気がする…、気のせい…か?



階段を降りて居間へ行くと、父親は新聞を読んでいて、母親と妹は朝食を食べている。


んんっ…?父親と母親が若返ってい…る?


妹は子供…小学生に戻っている…!?


これは…まだ…、夢の中なのか?


「おはよう、今日は早いのね?いつも学校に行くギリギリなのに」と母親が話した。


…いや…、会社だろ?

「飯を食べて会社に行く…」と俺が話すと、何故か爆笑された…。


なぜ…?


「まあ、学生にとっては、学校は会社みたいなものかもな」と父親が茶化すように話してくる。


これはおかしい…。


俺は洗面所に向かい、鏡を見て愕然とした。


中学生の頃の俺が、鏡に映っていた…。





状況は飲み込めないのだが、まあ以前暮らしていた家でもあり、一応家族がいるので、朝食を食べることにした。


トーストとスクランブルエッグ。

味はする…。夢の中でも味はするものなのか?


コーヒーをブラックで飲んでいたら

「お兄、苦いの苦手じゃなかった?」と妹の葉月が怪訝な顔をしていた。


食べながら、居間にある父の仕事机の上の、日めくりカレンダーを見ると、やはり年号は自分が中学生の頃…、それも二年生の年だ。


6月10日、土曜日。学校は午前授業である。


社会人の俺が夢で、こっちが現実…?

琴乃は幻想…?


いやいや、訳がわからなくなってきたぞ…?


そういえば…スマホ…!部屋にスマホがあった気がする…。

この時代には、まだガラケーしかないはずだ。


軍隊などでは、もう出始めているのかも知れないが…。

軍事関係の機器は最先端のものを使っていて、一般に技術が降りて出てくるまで5年程かかると聞いたことがある。


俺は手早く朝食を済ませ、部屋に戻る。


やはりベッドの上にはスマホがあった!


ロックを解除して画面を開く。メッセージ・アプリを開くと琴乃のアイコンがある。

…良かった。だが、他のアイコンは真っ黒になっており、開くことが出来ない…。


もう一つ、幾何学模様のようなアイコンがあり「スヴァイン」と書いてある…。


誰だ?これ…?メッセージ履歴はない。

身に覚えがないな…。


俺は琴乃にメッセージしようとしたが、通話がかかってきた。


「もしもし」と出る。


「恭くん?今どこ?朝食のサンドウィッチ作ってアパートに来たけど、いないのよね?」

…どう説明したらいいんだ。


「琴乃、ごめん。ちょっと厄介なことになっていて…。もう少し落ち着いたらまた電話する。会社は今日は急な体調不良で休むって伝えといて」


「いや、今日は土曜日で会社はお休みだよ?…と言うか、あなた…本当に恭くん?なんか声が子供っぽいんだけど…」


まだ声変わりしてなかったのか?今の俺。


どうしよう…?


琴乃は比較的、寛容ではある…。


ラノベとか好きだし、都市伝説の動画とかも見てるし…、理解してもらえるだろうか?


一つ言える事は、俺は琴乃を失いたくない…!

伝えて、納得してくれるだろうか?


「琴乃…、言いにくいんだが…俺、たぶんタイム・リープ?したみたいで、今の俺は中学生みたいなんだよ。朝、目が覚めたらこうなってた」


…無言。やっぱり理解してもらえないよな…。


「…ウッソ!マジで本当でマジで!?」


…いや、テンション高いな?こっちは絶賛テンション低めだぞ…。


「本当だ…。参った。夢なら早く覚めて欲しいけど…、どうやら夢ではないみたいだ」


「じゃあ、自撮りして写真送って?」と言われ、一旦通話を切り、カメラを起動して自撮りする。

初めて使ったな、自撮り機能…。


メッセージ・アプリで写真を送ると、また通話がかかってきた。


「どうやら、本当っぽいね…。というか、いかにも田舎の中学生ね。でも可愛い!」

いや、こっちは困ってるんだけどな?


階下から母親の声が聞こえる。登校時間か。


「琴乃、ごめん、また連絡する。学校に行かないと怪しまれるんで」と言って通話を切った。


学生服に着替えて、教科を確認してノートと共に鞄に入れる。

時間的には余裕はあるようだ、早めに出よう。


俺はスマホも鞄に入れて、学校へ向かうことにした。




ここは里海町。漁師町だ。

そのためか、気風が荒い。


特に俺が中学生だった頃は学校が、かなり荒れていた。

普通の人には想像もつかないくらいに…だ。


二学年上と、自分達の学年が特に酷かった。


教師達は、半分は左遷されたような転勤で来ているので、誰もやる気がない。


喧嘩や校内暴力が起こっても、ほとんど問題として取り上げられない。


暴力が支配している無法地帯…そんな中学校だ。


俺の中学生活三年間は暗黒時代だった。


よりによって、二度と戻りたくない時代へタイム・リープ?してしまったのか…。


これ、どうやったら戻れるんだ?




──────────────────────

「あとがき』


こんにちは!(こんばんは!かも…)


新シリーズを始めました。

宜しくお願い致します。

不定期になりますが更新させていただきます!


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