第五話 言霊
「ついてこい、俺様の眷属。知恵と力を授けてやるよ。ドラゴンってのはそォいうモンだからな」
ケラケラ笑いながら、
一瞬、待っていてと告げた担任の顔が過るも、頭を振って追い払う。
そして迷いを切り捨てるように、小さな背中へ問いかけた。
「どこに行くんだ?」
「雨の中はダメだ。
「……?なんで水辺がアウトなんだ?」
「後で説明してやるよ」
エレベーターに乗り込んで上へ。九階につくと、レストランがあった。
閉まるまでは一時間半ある。竜哮は中へ入って行く。
「なんか頼むか……」
窓から離れた壁の方の席に腰かけて、剣が呟く。夕飯をまだ、食べていないことを思い出して、急に腹が減ってきた。そうだなと、竜哮が頷く。席に荷物を置いて、二人は券売機に向かった。先に竜哮が買う。
「俺様はカツカレー。ああ、水のある奴はやめろよ。それじゃ内緒話が成り立たねェ」
「? わかった」
結局、竜哮と同じカレーにした。
黙々と食べる。なかなか旨い。カツが想像以上に美味しく感じたことで、初めて自分が空腹だったことを知った。
同時に、自分の空腹に気付けないほどに追い詰められていたことも。
知った。
ルウとライスをすくい上げたスプーンが止まる。
こんなんじゃ駄目だ。追い詰められた思考では、いい考えなんて絶対に思い付かない。
まずは体力を回復させて、いつもの状態に戻らないと。
ガツガツと勢いよく、スピードを上げて食べ始める。
その様子を、竜哮が見て笑った。
「良いね。ホント、お前みたいな奴は嫌いじゃ無いぜ」
「ありがとよ」
「……さて、と」
食べ終わったところで、竜哮が口を開いた。
「何から聞きたい?」
「……言霊とお前ら真名覚醒者については昨日聞いたよな。なら……お前らが今追ってるやつについて聞かせてくれ。そいつがお前の言った、俺の知るべき『敵』なんだろ?」
剣の言葉に竜哮は頷く。
「正解だ。……言霊は人のマイナス感情が込められた言葉から生まれる存在であり、そいつらと出会い生き延びた人間の中で、特定の条件を満たした者が真名覚醒者となる。ここまではオーケーだな」
「ああ」
「なら、当然分かるだろォが……マイナス感情を多く集めた言葉は、より強大な言霊となる。多くの人間に恐れられる言葉、多くの人間に嫌われる言霊、多くの人間が害意を以て使う言葉……こいつらは軍隊でも対処できないような特殊な力を得て、人間へと襲い掛かる」
「殺す、とかか?」
「ああ。そいつは三つ目だな。恐れられることは少ないし、マジで受けとる奴もいないご時世だが──言う奴の大半は結構マジで言ってるからな。それも一日に何万回と使われる。SNS、やってんだろ?検索してみろ。どの時間帯でも一分以内に誰かが言ってる。日常会話まで含めたら、一体どれ程の数になるのやら……。そうやって生まれた言霊は、破格の力を持っている。……俺様と七海が追っかけてきたのは、その究極系だよ。日本最強の言霊と目され、十年前、当時の全覚醒者や異能者と決戦を繰り広げた末に、人間側の勢力を全滅させた最悪だ」
十年前。
テレビに写った赤い光と熱の地獄が浮かび上がる。
2009年5月7日、A町を壊滅させた、平成市に残る大災害の記憶。
死者、行方不明者、千人を超す。深夜に発生した数カ所同時火災が際限なく拡大し、街一つを飲み込んだ最悪の事件。
剣は衝撃に思わず立ち上がった。
「……まさか、あの大火災か!!」
「早いな。よくもまあ頭が回る。正解だ。アレは単なる火災じゃねェ。日本国存続を賭けた一大決戦だったのさ。ターゲットは最悪の言霊。古来より人間共が恐れ、嫌い、時代に合わせて姿形も変えながら、今になっても害意を込めて使われるワード。……『炎上』だ」
生き物は炎を恐れる。
人類の発展に必要不可欠な存在でありながら、多くの人命を奪ってきたものでもある。それが炎だ。特に日本ともなれば、その現象への恐怖は随一といえる。
焼かれてしまえば、二度も戻らない。
炎は破壊と死の象徴であり、木と紙で家を造る日本では究極の破壊兵器だった。
比叡山焼き討ち、本能寺の変、明歴の大火、金閣寺炎上。
炎上は、日本の歴史に何度もその姿を表す。そして現れる度に、多くのものを焼き滅ぼしていく。
日本神話でも、炎の神であるカグツチは、国産みの母神イザナミノミコトの死のきっかけとなっている。それだけ人々は炎を恐れたのだ。
そんな炎は、近年あり方を変容させた。
インターネットの普及、SNSの浸透、スマートフォンやタブレットの拡散により生まれた、人類全てが発信者となる時代。人類史上人々が最も言葉に触れる社会の到来だ。ここに来て、炎は新たなニュアンスを獲得し燃え上がった。
『ネット炎上』。
有名人の失言や不祥事の発覚や失言などをきっかけに、非難・批判が殺到して、収拾が付かなくなっている事態や状況を、炎上していると呼ぶだろう。今日においては毎日のようにどこかで誰かが燃えている。日常茶飯事ではあるものの、それ故に恐怖は色濃く残る。著名人ほど炎上を恐れ、そのファンもまた炎上しないことを願う。余程のアンチでない限り、誰もが炎上を嫌うし──それを利用する人間もまた、存在する。
有名人の失墜をエンターテイメントとして消費するもの。商品のマイナスイメージに喜ぶ競合他社。自分が悪だと思うものを許せない自称正義の味方達。
人類総発信者時代において、炎上という言葉には過去あり得ない量のマイナス要素が雪崩れ込んだ。結果として炎上の言霊は、異常極まる領域の力を獲得するに至る。
「最悪だよ。炎上って言葉が使われ出したのは2004年らしいが、大火災は2009年……元々凶悪だったとはいえ、5年で神の座にまで至りやがった。……いや、或いは神すら取り込んだのかねェ……」
竜哮曰く、世界には言霊や真名覚醒者以外の超自然存在も実在する。
だが、今ではそれらが大きな力を振るうことは少ない。科学の発展と反比例するように減少し、大戦を経て日本の術者や神格はほぼ消滅。残った少数も十年前に死に絶えた。炎上に取り込まれるか、或いは決戦に参加して焼死したという。
今ではせいぜい手品と変わらない程度の術や、子供騙しにも劣る霊的存在が、田舎や山奥で見つかる程度である。
「とにかく、だ。そんな化物を、当時の覚醒者達は総出で何とか打倒した。いや、無理やり相討ちにまで持ち込んだというべきか。……だが、そいつは生きている。逃走したのさ、戦場から。それ以来、俺様達は言霊を狩る傍ら、最強最悪の言霊を追いかけている。……特に七海の奴の執念は異常極まるね。まァ、仕方ないか。あいつは両親を炎上に殺されているからなァ」
「殺されてるって」
「どっちも能力者だったから、十年前の決戦にも参加したんだとよ。結果は死亡。一人遺された七海は復讐を誓い、覚醒させた能力を極限にまで極めあげた」
それが本当なのだとしたら。
───
(待て、今俺は、何を考えた?)
脳裏に浮かんだのは、七海が翔琉へ殺意を向けた光景。何故そんなモノが浮かんだのか。
翔琉を七海が、どうするというのだ。翔琉は言霊と何の関係もない一般人だ。彼女の復讐には欠片も関与していない。一%だって関係ないのだ。だから、何も心配ない。心配するなどあり得ない。守るべき民間人を、七海愛海が殺すわけがない。
なのだから、いい加減振り払わねばならない。何の根拠もない妄想は忘れて、現実的な話をしよう。
そう考えて、咄嗟に浮かんだ問いを投げる。
「そう言えば、七海に聴かれたくないってどういうことだよ」
「俺様、お前の記憶を処理するって奴に言ったのさ。なのにお前の記憶が消されてないなんて知られたら、ソッコーやって来て脳ミソに修正液ぶっかけてくだろォよ。おォ、おっかねェなァ」
「なら気付かれないようにしないとな」
「だが、そいつは並大抵のことじゃねえ。奴は水を操る。天の水滴に伝わる振動を感知して、会話を盗聴するなんてのも朝飯前だからよォ」
だから彼女は水辺を避けたのだ。
窓の方を見る。今も降り続ける雨。窓を打つ滴が、どこか恐ろしく思えてくる。
「……そんなことが、出来るのかよ、あいつ」
「出来るさ。なんせ七海は日本最強の真名覚醒者だ。世界単位で見てもアレに勝てる奴はそういない。……炎上を倒すとしたら、間違いなくあいつだろうよ」
確信をもって、彼女は言った。
盲信や期待ではなく、明確に、可能であるという強い確信を込めて。
七海愛海。確かに彼女なら、一見馬鹿げたことでもやり遂げるだろう。そんな、迫力がある。威圧がある。
──炎上の言霊だって、彼女なら殺せるかもしれない。
ああ、くそ。また同じだ。同じ話に戻ってきてしまった。
このまま七海について語るのは困る。今度こそ話題の変更を成功させる。
「にしても、お前めちゃくちゃ説明してくれるな」
「そうか?」
「ああ。さっきから喋りっぱなしじゃないか」
思えばカレーを食べてから、ずっと彼女が話している。にもかかわらず、一向に疲れた気配は見せない。どんだけ説明が好きなのか。
竜哮はこんなので疲れねェよと笑って答える。
「俺様の能力を忘れたかよ」
「声の震動の増幅と操作だろ」
「正解。それを発揮するには、声を出す必要がある。まァ、どんな言葉でも、それこそうわあーーーーーって叫ぶだけでもいいが、それじゃ締まらねェからな。なのでこうして口を回して回して回して回す。説明して説明して説明して説明する。そうして、言葉の弾丸を飛ばすのさ。能力使わないときにも話しまくるのは特訓も兼ねてる」
「なるほど……」
思い返せば戦闘中でも彼女はめちゃくちゃ喋っていた。言霊とは何かとか、藁の言霊の必殺技を解説したり、挑発したりといった言動を繰り返していた。それらは声を砲撃としてぶつけるための行動だったのだ。
「騒ぐだけならサルでもできる。せっかく人語ってモンがあるんだ。使わねェ理由はないわな」
そう言って、彼女はギラリと笑う。
「話すのは楽しいぜェ。お前ももっと喋れよ」
「俺は……どっちかと言えば書く方だから」
「書く?なんだよ、小説でも書いてんのか?すげェな」
「凄くは……ないだろ。こんなレベルのなら誰でも書ける」
「いやいやいや。千字も二千字も書ける時点でそいつはやる奴だよ。……なあ!」
ぐいっと、竜哮が身を乗り出す。
顔が近づいて、思わずびっくりしてしまった。
のけ反る剣へ、彼女は言った。
「俺様に文章の書き方教えてくれよ。始末書とか書類とか、上に提出するレポート書くの怠いんだよ。だから教えてくれ!」
「代わりに書いてくれ、じゃないんだな」
「はァ!?それじゃ意味がねェ。俺様のためにもならねェだろ」
「真面目だ……」
意外すぎる。見た目と言動からはとても読み取れないぐらい真面目だ。
いや、考えてみれば見た目と言動も真面目なのではないか?と剣は思う。では、改めて考えよう。まずは彼女の外見だ。小柄な体にパーカーを着て、マフラーを巻いている。カレーを食べ終えたからか、マスクもつけている。ここで問題。彼女がマフラーとマスクを外すとどうなる?ギザギザとした牙のある口と、喉にある鱗が露となるだろう。それを隠すためのマフラーとマスクにフードである。無用な混乱を避けるためという点では物凄く真面目な格好だ。
よく喋り説明するのも、能力を最大限活かすため。真面目だ。
話す内容もかなり真面目であると言えよう。
金のキーホルダーとかアクセサリーをじゃらじゃら身につけているのは、よくわからないが……。
とにかく、彼女は真面目と不真面目のどちらであるのかを考えると、真面目の方にあるだろう。
人は見た目によらないというか、印象だけでは語れない。
それを強く実感していると、ポケットの携帯が震えた。
「なあなあ、教えてくれよ」
「まあ待て。待ってくれ。……と、百合先生からか」
届いたメッセージは一言。
『どこ?』
翔琉との面会は終わったらしい。待たせるわけにはいかないから、もう行かねばならない。
「彼女か」
「先生って言っただろ。もう行かないと」
「ちょい貸せ」
「おい、俺の携帯だぞ」
「検索履歴なんか見ねえから安心しとけ」
これがこうで、こうやって……と呟きながら操作する竜哮。
上手くいったようで、にかっと笑いながら携帯を投げ返した。どこをいじくったのか不安そうに画面を見ると、メッセージの交換アプリに見知らぬアカウントが友達として追加されていた。
「これでいつでも連絡取れるな」
「おおう……、……なんだよこの名前……ドラゴンロードって」
「かっけえだろ」
自信満々で竜哮は笑う。
「お前、何歳だよ」
「人間で数えたら、14だな」
つまり中学二年生である。
厨二病かよという呟きを寸前で飲み込む。目の前のこの少女は単なる厨二病ではない。本当に、超常の力を操れる存在なのだ。
そんな少女は告げた。
「今度からそれで連絡するから、呼ばれたらすぐに来るように」
「分かった」
「んじゃ、グッバイ」
小柄な背中が消えていくのを見送ってから、剣はメッセージを送った。
『今すぐ向かう』
秒どころか瞬で既読がついた。『迷った?』『エレベーターは見つけた。ロビーで待ってて』『オッケー』少年漫画のスタンプがつく。剣は合流地点へと急いだ。
ロビーでは、百合先生が待っていた。
剣を見るとほっとしたように顔を緩ませる。
「どこ行ってたの」
「迷ってた」
「ほんとに?病院の中を?……まあいいわ。行くわよ」
病院を出て駐車場へ向かう。傘を持っていなかったため一瞬立ち止まったが、百合先生がすばやく傘を差した。そして持ち手を剣へ差し出す。
「持って」
「……まあ、俺の方が背、高いしな」
そう言えば。久しぶりに、思い出す。
「昔からこういうのは俺の役だったな」
この姉のような人は、昔から剣に荷物だのなんだのを持たせ、召使いのように扱っていたのだった。
百合先生──戸塚百合は、戸塚剣の従姉である。剣の父と百合の母が兄妹なのであった。そのためもあり、昔から家族ぐるみでの付き合いがある。六歳ほど年上の従姉は、ことあるごとに剣を構い、連れ回し、召使いのような扱いをしていた。しかし剣はそれを苦に感じたことはない。本当の姉がいたら、こんな感じなのかと思ったりもした。
そんな関係は互いが大人になるにつれて、いつの間にか消えていたけれど。
それを懐かしく感じながら歩いていると、ワインレッドの自動車が見えてきた。
赤は苦手だ。血を連想させる。血は傷を、傷は剣を連想させてくる。だから嫌いだ。
けれど、百合の車だけは例外だった。
百合が乗り込んだのを確認してから反対側に回り、傘を閉じて助手席に乗り込む。
雨の中、車輪が回り出す。
しばらく無言。
やがて、ぽつりと百合が口を開いた。
「翔琉君はしばらく入院するらしいわ」
「……そうなんだ」
「意識が戻っていないのと、お医者さんにもよく分からない症状が出ているようでね。だからしばらくここに入院」
「よく分からない症状?」
「熱が異常なほど高いのに、体の器官は正常に動いているとか」
それは、確かに異常だ。
熱が上がれば、心身に異常が生じるのは当然。いや、逆か。心身に異常があるから、熱が出るのだ。何の原因も異常も無いのに熱だけが上がっているのは明らかにおかしい。そして高熱の影響が全くないのも。
「なんでそんな事に……」
「分からないわ。誰にも。お医者さんの言うことによると、まるで体の中に炎が燃えてるみたいだって」
今の科学じゃまるでわからない事象が、翔琉の身に起こっている。
いったい何故……。
────言霊だ。言霊の仕業に決まっている。ヤツだ。『炎上』の言霊がやりやがったんだ。許すわけにはいかない。必ず、この落とし前は付けさせる。必ずだ。そのために力を付ける。絶対に負けない、ヤツに立ち向かえるだけの力を。
幸いにして、自分には剣という名前がある。
七海愛海、井坂竜哮といった派手な名前にも負けていない特異な名前が。
呪いにすら思えるほどのひどい名前だが、ようやく役に立つ時が来た。ならば、せいぜい使い潰させてもらう。
隣で運転する従姉弟には気付かれぬよう窓の外へ顔を向けながら、剣は瞳に暗い殺意と決意を浮かべていた。
「……ところで、翔琉君を助けるために火事の中に飛び込んだんだって?やるじゃん」
「……怒らないのかよ。教師だろ」
「怒ったとして、次同じ状況になったらやめてくれるの?やめないでしょ。剣はそういう子だからね」
呆れたように、彼女は言った。
「昔からいつもそう。困ってる人を見かけたり、助けなきゃと思ったら止まらないもんね。普段は悶々とよくわからないこと考えて拗らせてる癖に、いざというときには全部投げ出して助けにいっちゃう」
悶々とよくわからないこと考えて拗らせてて悪かったな、と思う。
人の共感を得にくい悩みだというのは自覚している。キラキラネームが嫌だから、それとは離れた生き方をしたいというのは、周りから見れば相当に拗らせたものに映るだろう。
ただ、いざというときにそれを投げ出して助けにいくという点についてはよく分からない。特に気にしたことはなかったし、仮に百合の言っていることが本当であっても、それは別段特別なことであるとは、剣には思えない。誰だっていざって時には全部投げ出して動けるだろうと思っているから。
「そんな自己犠牲の精神は、尊ばれるものだと思う。でも、私は怖いよ」
運転席の従姉は、前だけを見つめて言った。
「怖い?俺が?」
「違う。剣が、取り返しのつかないことになってしまう可能性が」
私は怖い、と。
そう、百合は言った。
丁度、通りかかった信号が赤くなる。百合は車を止めた。視線を前では無く、横に向ける。隣に座る剣の顔を、直視する。
「約束して。もう二度とやらないって」
「……わかった」
反論せずに頷く。
とりあえず、百合を安心させたかったから。
同時に思う。
自分の行動が身内にここまで心配されるというのは、これまで気が付かなかった。反省しないといけないだろう、と。
(今度は、バレないようにやる必要がある、か……)
市の中心部にある病院から二十分ほど車を走らせて郊外に出る。
昨日破壊された橋とは別の橋で川を渡り、更に進むと剣の家にたどり着く。田んぼに囲まれた集落だ。一軒家で、昔ながらの日本家屋。三人で暮らすには広すぎる庭に、ワインレッドの車が止まる。
「ありがとう、百合姉」
「いいってことよ」
戸を開けて家の中へ。ただいまと言うと、祖父母のお帰りという声が響く。
「お邪魔します」
「あら百合ちゃん。来るなら言ってちょうだい。普通の晩御飯しか作ってないわよ。今日は泊まっていくの?」
「そんな特別なことしなくて良いよ。普通が良いよ。……今日は泊まってはいかないかな。ちょっと一息ついたら帰る」
祖母と百合の会話を聞きながら、剣は階段を登り自室へ向かう。
荷物をドサリと床に置いて、制服を緩める。
クローゼットに仕舞わないと。そう考えた次の瞬間、ぐらりと姿勢が揺らぐ。
気がつけば、ベッドに倒れ込んでいた。体を起こしたくても、鉛のように重く感じる。頭もうまく働かない。
疲れが溜まっていたのか、なんて考える間もなく、剣の意識は落ちていく。
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