自然の町、アルドゥ
第13話
地が呻る。暖かい日差しとはまるで様相の異なる不気味な空気感が場を支配している。
空気が張り詰める。生唾を飲み込むのでさえ精一杯。
この感覚を俺は知っている。
これは――――そう。
――――絶望だ。
* * / * *
ウラウノス地方、交易都市ノクターン近郊、自然の町アルドゥ。
山林に囲まれた湖辺のある、美しい町。
天候に恵まれ、酪農や放牧が盛んなのどかな町。
町を少し出ると魔物も多く、やや危険な地帯もあるが、総じて豊かな地域と言えるだろう。
首都からは遠く離れたこの地の人口は多くはない。しかしこの広大な土地を持て余すには惜しいため、至る職業からの求人はとても多い。
地方では珍しく、金銭に富む者が多いような、そんな町。
そんな中、一人の少女が人々の視線を集めながら闊歩する。
目的は勿論。
「この町に2級を修めた冒険者がいるって聞いて来たんだけどどこ!?」
酒場である。
ギーギー。
疎らながらも盛り上がりを見せていた話し声はその瞬間鳴りを潜め、勢いよく開けたドアの軋む音だけが残った。
勢いに任せたはいいものの、こんな風に注目されるとは思ってなかったのだろう。顔が赤らんでいる。
「ええと・・・。姉ちゃん、だれを探してるって?」
昼間から酒を飲んでいる、腹の出た中年の冒険者であろう男が言葉を返す。
「え、ええ。この町に最近、二級冒険者になった人がいるって聞いたわ。その人に会いたいの」
「それは、そいつを仲間に勧誘したいって話か?」
「そう・・・なるかしら」
少女の返答を皮切りに、はああ、とそこかしこでため息が漏れる。解散だ解散、と言わんばかりに。
「それはやめとけよ姉ちゃん。なんというか・・・まあ、やめとけよ」
こんな風貌をしておきながら、なぜか優しい顔で諫めるように言うのだ。
「え、なに?どういうこと?」
「まあほら、二級なんて探せばいくらでもいるだろ。だから、別のやつを当たった方がいい」
言いながら抱いた肩を優しくとんとん、と励ますようにして、気が付けば入口の方まで歩かされていた。
「え、ちょっと、何よ!」
「なんなら俺が仲間になってやったっていいんだぞ」
「断るわ。だってあなた二級じゃないもの」
「ふん。ほら、行った行った」
しっし、と追い払うような手振りで外に追いやられる少女。
釈然としないような顔をしながら、ドアに向かってべーとベロを出した。可愛げのある負け惜しみである。
「困ったわね。ほかに彼の居場所を知ってそうな所なんて分からないわよ・・・」
むう、と顎に手を付きながら歩く少女。一挙手一投足が妙にあざとい。
一見爽涼な狐目をしているが、それに見合わない童心も持ち合わせているようだ。
それでも統括して、可愛らしいと言うに相応しいだろう。桃色のハーフツインがそれをより加速させている。
良い見た目は周囲を惹きつける。すれ違う人々の目を攫うのはそのせいか、はたまた難しい顔をしているせいか。どちらにせよ、人々の興味を束ねるには十分だった。
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