第8話

「なるほど、なるほど・・・」


 あからさまに俺の方が体躯で優っているはずなのに、どうしてだろう、怖くて近づけそうにない。

 考えてみれば、俺はそもそも争い事に無縁な平和を愛する日本人として生まれ、蜂にすら恐怖するような矮小な人間だった。それが今、得体の知れない謎の生命体と対面しているのだ。無理もない。

 ほれみろ、膝が笑ってらァ。情けない。


「これはあれか、逃げか」


 先ず以て見た目が凶悪過ぎる。下顎がヤケに発達していて、顔が大きい。短いながらも角だって生えている。言うなればそう、ちっちゃいトリケラトプスみたいな。

 ・・・あれ、可愛いのか?


「これがあのインチキの言ってた悪神が放ったとかいう魔物・・・ってことでいいんだよな?」


 魔物についてなんて、ゲームやアニメの創作物に登場する程度の知識しかないけれど、これがその類いかどうか・・・なんてのは主観でしか決められない訳で。


「実はこの世界では犬猫みたいに広く普及してる益獣だったりしないよな?」


 地球では命あるものは大抵愛玩対象になり得たから、あながち否定もしづらい。平気で人を襲うような獣でさえ動物園に収容してしまえば万人に鑑賞され見物になるくらいなのだから。


「やばい、目が合った」


 そう思索に耽る暇も無く、向こうもどうやらこちらの存在に気付いたようだ。

 幸い、距離はかなりある。50メートル程だろうか。


「頼むから獰猛であってくれるなよ・・・」


 ソイツはこちらに目を寄こしながら、むくっと立ち上がる。警戒しているようだ。

 出来る限り刺激しないよう、こちらも警戒しやや迂回しながら麓の方へ向かう。こちらとしても戦闘は臨むところではない。武器として使えそうなものは教科書入りの手提げの鞄くらいなものだ。避けられるなら是非とも避けたい。


「・・・マジかよ冗談だろ」


 迂回先に見たくないものが見えた気がした。

 そう、まるで犬くらいの大きさのトリケラトプスのような生物が。


「勘弁してくれよ」

 

 3匹、群れを成しているように見えるんだ。

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