第7話

「くそ、あのインチキ神に街の方角を聞いておくんだった」


 くだんのやり取りから早2時間、山の見える方に向かってひたすらハイキングとしゃれ込んでいるが、あまりにも無計画が過ぎた。

 勝手にこの世界を中世くらいの文明と決め付けて、街を作るなら山の麓だろうと目星を付けては見たものの、広い。広すぎる。

 

 ただ、不幸中の幸いと言えばいいのだろうか。気候はよく、そよ風が心地よい。芝生の背も低く、地盤もしっかりとしていてとても歩きやすい。

 だからって納得できるほど寛大になった覚えはないけれど。


「最悪食い物はいいけど、飲み水の一つでもないと、街につく前に干からびちまうぞ」


 体にはどう見てもよくないだろうけど、草さえ食えば空腹は一旦はどうにかなるだろうか。

 でもまあ、山があるってことは、どこかに川もあるはずだ。近くに小川があったっておかしくない。きっとそのうち、水にだってありつける。そうでなくては困るんだ。


* *



「流石におかしい」


 夜になっていた。

 あれからおよそ8時間は歩いた。歩けてしまったのだ。

 水や街にありつけなかったことだけがおかしいわけではない。歩けてしまっているのがおかしいのだ。

 歩き始めて4時間ほどが経った頃から、かなり疲労を感じていた。が、”歩けなくはない”し、のども乾きおなかも減っていたが、”我慢できないことはない”のであった。

 そんなどうにもむず痒い状態のまま、今に至る。


 こんな闇夜の中光源なんてものもない上、輪郭の出るような遮蔽物もないが、しかし”見えなくはない”のだ。

 微妙に休む判断ができない絶妙なラインだから、歩き続けるほかない。


「それにしても、こうも広くて何も無いと怖いな・・・」


 夜に一人でコンビニに行くだとか、そういった経験は少なくないけれど、何せ人の気配も無ければ光すら見えない真っ暗闇だ。心の底から不安がこみあがる。


 日没から約2時間ほどだろうか。そう考えると、今は日本時間で言うなら20時くらいになりそうだ。どこか身を丸めて寝られるような所があるといいのだが。



* *



 「絶対におかしい」


 明るみ始めていた。

 もう何時間歩いたかはわからないけれど、あと数時間もすれば丸1日歩き続けたことになる。


 当然、飲まず食わず寝ず、だ。

 不安に思っていた真夜中の一人旅も、気が付けばそんな思考は薄れ、たまに高層雲の映る星空を満喫していた。慣れと言われればそれまでではあるけれど、それにしたって根性がある。


「こんなに歩いてきたんだ、そろそろ人の気配があったっていいじゃないか」


 なんて憎まれ口を叩きつつ、引き続き山の麓を目指していると。


「・・・なんだ、あれ」


 野原を一直線に歩き進めて1日、初めてこの世界で生命体を見つけた。


「バケモノじゃねえか」


 犬ほどの大きさの、犬ではない何かだった。

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