第5話

 きっと、この神とやらの顔はさぞかしにこやかなことだろう。

 声音からひしひしと伝わってくる。

 そんなことを言いのけて尚、話を続ける。


「僕は神様だからね、君のことは少なからず知っているよ。君の名前はもちろん、年齢、生年月日、身長、手癖、口癖、今まで付き合った彼女の名前や、好きなタイプだって知ってるさ。もちろん、君が悩んでいることだって。さ」


 途端に気色が悪くなった。

 いや、神って名乗るくらいなんだから、このくらいはやってのけるのかもしれない。が、それでもすべてを見透かされたようなこの気分は、あまりにも形容しがたい気味悪さと、僅かな恥ずかしさと、何に依るものなのかもわからない苛立ちに襲われた。


「君が何にそそのかされて急かされてるのかは知らないけれど、努力をしたことがないのが一種のコンプレックスになってるみたいだ。・・・焦りとも言えるのかな?」


 どこか煽り口調と言うか、得意げと言うか。そんな声音で、まるで図星を付いたように言いのける。


「それがなんだって言うんだ、授けた能力が努力だって?それでどう神殺しをしろってんだ。努力で神様を殺せるなら、そもそも俺なんかが行く必要すらないじゃないか」


 語気が荒くなる。だってこれじゃあまるで茶番じゃないか。最強の力、それは努力!努力をすればみんな何者にだってなれる!って。

 子供じゃないんだぞ子供じゃ。そんな子供だましで命をなげうつほど素っ頓狂になった覚えはない。


「君は少し勘違いをしてるよ。これは神からの授け物プレゼントだよ?流石に根性論でもって傀儡かいらい跋扈ばっこ蔓延はびこる異世界に放り出そうなんてしないさ!・・・僕は冗談なんかじゃなく、本当に悪神を倒して欲しいと願ってるんだ。だからこうして、僕たちが君たち異世界の住人に力を授けているんだ。君の妹も今頃その力でこの世界を生き抜こうとしてるはずさ」

「っ!!」


 そうだ、俺は何を忘れていたんだ。


「いも、美里は、今どこにいるんだ!?無事なんだろうな!!」


 今際いまわの淵のような意識の中最後まで妹のことを想っていたはずなのに、どうして今まで妹のことを忘れていたのか。

 答えはすぐに出た。


「大丈夫、無事さ。今は別の神が妹ちゃんのそばにいるはずさ。今の僕たちのようにね」

「・・・そっか、そうか、よかった・・・。じゃあ、今も俺の隣にいるんだな」

「ああいや」


 あまりにも的外れな答えが。



「君の妹ちゃんは3か月前にはもう、旅立っているよ」

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