第67話 そして第三王女は袋叩きにされる
そして。
珍しくステインに評価されている第三王女は―――現在進行形で、袋叩きにあっていた。
(うわぁぁぁぁああああああああああんっ!! もうやだぁぁぁああああああああああああっ!! 帰りたいぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいっ!!)
体育座りをしながら、泣きべそをかいているミア。
現在、彼女は四方八方から魔術攻撃の嵐に巻き込まれていた。
選抜戦が開始されてからすぐさま、彼女の下に他の参加者が続々と集まってきて、このような状況に陥っている。
その人数は三十人程度。
下手をすれば、一クラス分の魔術攻撃がミアを襲っていた。
それだけの人数であれば、たとえ弱い魔術であってもたった一人で受けるとなれば、ひとたまりもないだろう。
事実、ミアは結界魔術を張るだけで、その場から動くことができずにいた。
(くそぉぉぉ……やっぱり選抜戦に出るなんて言わなきゃよかった……!! 本当なら今頃、部屋でゴロゴロして、溜まってる小説を読んでたはずなのに……!! 私は平和主義者なんだぞ!! 戦うの嫌なんだぞ!! 怖いのは御免なんだぞ!! なのに、なのにぃぃぃぃ……うぅぅぅうううううう~~~)
などと、だらだらと心の中で文句を言い続けるミア。
その言葉だけを鵜呑みにするのなら、この状況は彼女にとって圧倒的不利なものと認識できるだろう。
だが、現状、彼女よりも焦っていたのは、ミアを襲っている者たちであった。
「おい、どういうことだよ!!」
「これだけ攻撃して、びくともしないなんて……」
「なんて硬さなんだ……!!」
先も言ったように今、ミアは三十人以上の魔術攻撃を受けていた。
だというのに、彼女の結界は全くと言っていいほど、壊れる様子がない。
どれだけ攻撃を浴びせても、どれだけ魔術を放っても、びくともせず、傷が一つもついていない。
これが、攻撃をし始めてから直後ならまだ納得がいく。
けれども。
「あり得ないだろ……もう攻撃し始めて、一時間以上は経つんだぞ……!!」
一時間。
圧倒的不利な状況、三十人以上の魔術師からの集中砲火。
それらを受けて、しかしミアの結界魔術は未だ解ける気配がない。
これが、ステインが言っていた、ミアの厄介さの正体。
通常、結界魔術は防御魔術の上位互換とされるが、それでも一定以上の攻撃を受けてしまえば、破壊されてしまう。ましてや、学生が使う結界魔術など、複数人数の魔術攻撃を受ければ、あっという間に崩壊してしまうもの。
けれども、ミアは違う。
彼女は自分で言っていたように、他の魔術はからっきしだが、結界魔術に関しては超が付くほどの才能を持っており、その才能を磨いてきた。結果、宮廷魔術師ですら壊すことも、解除することもできない結界魔術を張ることができるようになったのだ
……まぁ、そうなった経緯はあまりにも残念な理由だが。
(ふっ、舐めるなよ!! こちとら、王宮で夢のニート生活を邪魔されたくないがために、努力に努力を重ねて結界魔術の訓練をしてきたんだ!! 簡単に壊せるよ思うなよ、若造ども!!)
それが、彼女が結界魔術を上達させてきた経緯。
通常、王族とはいえ、王宮でゴロゴロ、だらだらできるわけではない。むしろ、一般人よりもやることが多い。けれど、それが嫌で彼女は自分の部屋に結界魔術を張ったのが、事の始まり。
無論、最初は簡単に壊されていたが、その度に彼女の結界は洗練され、今のような強力な結界へと進化したのだ。
自分の部屋に引きこもるための努力の結果、最強の結界魔術が誕生してしまったわけだ。
まぁ、そんな結界魔術も、ステインの前では無意味なのだが。
「くそっ!! 話が違うじゃねぇか!! こいつはただの引きこもりの雑魚のはずだろ!!」
「こんなの、いつまで経っても終わらねぇ!!」
「どうすんだよ……!! これじゃあ、賞金が受け取れないじゃないか!!」
ふと、男子生徒たちの会話から妙な会話が聞こえてくる。
(嘘だろ!! 誰だよ!! 私に賞金なんてかけたやつ!!)
心の中で叫びつつ、しかしどこか納得していた。
これだけの人数が集まっておいて、乱戦せず、ミアだけを集中的に攻撃している。何かしらの理由があるとは思っていたが、まさか賞金がかけられているとは。
とはいえ、納得できたからといって、この状況が打破できるわけではない。
(くそっ……仕方ない、ここは一か八か、やってみるか!!)
本当は気乗りしないが……と思いつつ、ミアは立ち上がり、周りの生徒たちに向けて言い放つ。
「ふ、ふははははっ!! どうだ恐れ入ったか!! お前達の攻撃など、私にとっては蚊の一刺しに等しいもの!! どれだけやっても無駄なのだ!!」
瞬間、全員が急にどうしたこいつ、と言わんばかりの視線を向けてくる。
その視線に、若干ダメージを受けつつも、ミアは続けた。
「私は無駄な行為が大嫌いなんだ。これ以上、お前達と戯れている時間はない。早々に立ち去るがよい」
「はぁ? 何言ってやがんだ、テメェ」
「状況分かってんのか!! そっちは包囲されてんだぞ!!」
「さっきまで泣きべそかいてたくせに、偉そうなこといってんじゃねぇぞ!!」
野次に罵倒。それぞれがミアに対し、暴言を吐きまくる。
結界魔術によって自分たちの攻撃が当たらないせいか、彼のフラストレーションは溜まっているようであった。
「まだ分かっていないようだな―――何故、私がこれだけの時間、何もしなかったのか。反撃もせず、ただじっとしていた理由……それは、条件を満たすためだ」
条件? と首を傾げる一同。
そんな彼らに、ミアは説明を続ける。
「魔術には色々なものがある。中には呪文を唱えるだけでは発動しないものもあるのは、お前達も知っているだろう。そして、私が今、発動しようとしているのは、一定時間、一定の場所から動かずにいなければ発動しないものだ」
「「「っ!?」」」
言われ、生徒たちは目を見開き、一方のミアは笑みを浮かべた。
「私が今から発動させようとしているのは、この場にいる者たちを一掃できるレベルの代物。どれだけ防御魔術を身体にかけても無駄だ。発動すれば、お前達は確実に負ける」
不敵な笑みを浮かべるミアに、生徒たちは苦虫を噛んだかのような表情をしていた。
「くそ、ずっと何もしてこないのはおかしいとは思っていたが、まさか条件を満たすためだったとは!!」
「さっきまで泣きじゃくってたのも、まさか演技だったってことか!?」
「じゃあ俺達は、この小娘にまんまと嵌められたってわけか!!」
信じられない……それが彼らが今、思っていることであった。
まぁ、言うまでもないことではあるが。
(よ、よーしっ!! 私のブラフ、きいてるみたいだな!!)
今、ミアが言ったことは全て嘘である。
確かに魔術を発動するために条件があるものは存在する。が、そんな高等技術が必要なものをミアが使えるわけがない。
けれども、それを知る者はここには誰もいない。
故に、ミアのはったりがここまで通用したのだろう。
……しかし、嘘が通じたからといって、思い通りな展開になるとは限らないが。
「とはいえ、私にも慈悲がある。条件を満たすまであとわずか。その間、お前達が逃げることを見逃してや―――」
「「「だっだら余計に急いで結界壊さなきゃなぁ!!」」」
言うと同時に、先ほどよりも凄まじい勢いで攻撃魔術が一斉に放たれ始めた。
(ぎゃああああああああああっ!! 何だこいつらぁぁぁあぁあああ!! 今の話を鵜呑みにして、結界壊そうとするとか、どんだけ脳筋なんだよ!! くそぉ!! 折角うまくいったと思ったのにぃぃぃぃぃいいいい!!)
はったりは通じた。通じたのだが、それ以上に相手の行動が予想の斜め上すぎたのだ。
結局、ミアができたのは、少しの時間稼ぎ程度のもの。
けれども、だ。
その時間稼ぎが、彼女にとっては功を奏したと言えるだろう。
「がっ!?」
「ぎゃっ!?」
「な、どうし――――ごっ!?」
唐突に、次々と生徒たちが倒れていく。
いや、正確には、倒されていく、か。
物凄い速さが『何か』が動き回り、彼らをなぎ倒していっているのだ。
あまりの速さで、それが何なのか、認識するのに時間がかかった。
そして、その『何か』が止まり、ようやく姿をはっきり見えるようになると。
「ええと……大丈夫ですか、ミアさん」
木剣を持ったルクアが、そこに立っていたのであった。
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