第68話 第三王女、土下座するってよ

 十分後。

 ルクアによって、三十人以上いた男子生徒たちは、完全に一掃されていた。


「ふぅ……もう大丈夫ですよ」


 周りを見渡し、残りがいないことを確認したルクア。

 一方ミアはというと。


「あ、あ゛り゛がどうぉぉぉぉぉおおお……」


 そんな彼に対し、感謝の言葉を述べながら、再び体育座りし、泣くじゃくっていた。

 正直、ルクアが来てくれていなければ、彼女は未だに攻撃され続けていただろう。最後の賭けであったハッタリも思わぬ形で外れてしまい、どうしようもない状態であった。

 まさに救いの神である。


「ぐすっ……そ、それにしても凄いな。話には聞いてたが、お前本当に魔術無しでこんな人数をあっという間に倒すだなんて……」


 ルクアの噂はミアも知っている。魔術が使えない少年。代わりに物凄い身体能力の持ち主であると。

 先の模擬試合では、優秀とされていたギーツを圧倒し、多くの生徒を人質同然とされながらもゲルスン相手に彼らを守り切った。

 その実績からしても相当な実力はあると思っていたが、まさかここまでとは。


「そんな大したことじゃないですよ。最初の不意打ちで結構数を減らせてましたし、何より、彼ら、魔術を使いすぎてたせいか、かなり疲れてましたからね。攻撃を避けるのは簡単でした」


 不意打ちと相手の疲労。この二つがあったからこそできたことだとルクアは言う。

 しかし。


「いや、普通魔術の攻撃を身体能力だけで回避とか、無理だからな? しかもあれだけの人数相手にかすり傷一つないって頭おかしいレベルだからな? さらに言うとそんな連中を完膚なきまでに叩き潰したとか、マジヤバすぎだからな? そこんとこ、ちゃんと自覚しろ? でなきゃお前『また俺何かやっちゃいましたか?』系の主人公になっちゃうからな? 皆に嫌われちゃうからな? ホント、気を付けろ?」

「えっと……何で僕、怒られてるんですかね?」


 急に喋りだすミア。

 既にそこに涙はなく、言葉の端々から感じられるのは若干の怒り。

 そこに困惑しつつ、ルクアは今後のことを聞いた。


「それで……これから、どうします?」

「どうって……え? ちょっと待て? まさかここから戦闘突入とか言わないとな? 言わないよな!? 助けに入ったのは『そいつは俺の獲物だ』的な感覚だからじゃないよな!? 助けたふりして、背後から愉悦の極みみたいな顔しながらグサッとか、そんなことしないよな!? ないと言ってくれ!! 言ってくださいお願いします!!」

「いや、僕、そこまで悪辣な性格してませんからね!?」


 確かにこれは生き残りをかけた戦い。それは事実なのだが……流石にこの状況から即座に戦闘開始、という気にはなれなかった。

 無論、相手を油断させておいて後ろから不意打ちなど、もってのほか。


「でも、実際問題、僕たちは敵同士なんで、最終的には戦うことになるとは思うんですが……」

「だいじょーぶ!! そこは私達が組めば何も問題はない!!」

「僕とミアさんが、ですか……?」


 唐突な提案に、思わず聞き返してしまうルクア。

 そんな彼に対し、ミアの熱弁が始まった。


「そう!! 元々、この選抜戦に残れるのは二組!! つまり、どこかの片割れと手を組んでいくのが定石のはず!! 他の連中だって多人数で組んでたんだ!! ルール違反じゃないはずだし、何よりそうでなきゃあ私が困る!! なので私と手を組もう!! いや、組んでくださいこの通り!!」

「え―――って、土下座!?」


 提案が終わったと思った瞬間、ミアはルクアがみたこともない、綺麗な形の土下座をしていた。


「ちょ、何やってんですか!!」


 慌てて止めに入るルクア。

 彼女の言動、態度、その他諸々の要因から忘れてしまいがちだが、ミアは第三王女なのだ。

 王族に土下座をされるというのは、あまりにも不敬すぎる。

 が、そんなルクアの心情など知ったことかと言わんばかりに、ミアは土下座をしたまま、話を続ける。


「いやだって私マジで困ってんだよぉ!! 助けてくれよぉ!! 何か、私賞金かけられてるみたいなんだよぉ!! このままだとずーっと狙われ続けるはめるになる!! だからお願いだよぉ!!」


 瞬間、ルクアの顔が強張る。


(賞金がかけられてる……? じゃあ、ミアさんも誰かに狙われてるのか……)


 ルクアに対しての襲撃。そしてミアに対しての賞金。

 これらがただの偶然というには、不自然すぎる。


 考えられる可能性としてあげるのなら、ルクアとミア、二人を確実に潰そうとしている連中がいるということ。

 その要因は恐らく、ルクアやミア自身ではない。


(先輩とシルヴィを潰すため……?)


 思い当たる節があるとすれば、その線しかない。

 ステインとシルヴィア、この二人本人を打倒するのはかなり難しい。それよりも、今回のルールを使って、相棒であるルクアとミアを潰す方が簡単だ。


 無論、二人を狙っているのが別々の者ということも考えられる。

 だが……シルヴィアを狙っている者がいる。それは確かなことであり、だとするのなら、ルクアにとっては放っておくわけにはいかなかった。


「……分かりました」

「え? いいの? マジ?」

「多分ですけど、僕も似たような立場にあると思うので。それに」

「それに?」

「こんなに助けを求めてくる女の子を見捨てるのは、僕にはちょっとできないので」


 これもまた、一つの真実。

 ここまで助けを求められてしまえば、ルクア・ヨークアンという少年は断ることができない。そういう、どうしようもないお人よしであった。

 そんな彼にミアは。


「うわー。凄いなお前。そんなセリフを恥ずかしげもなく言えるなんて。ある種の才能だよ、うん」

「それ褒めてませんよね!?」

「褒めてる褒めてるって。まぁ、それじゃあ、改めてよろしくな、ルクア!!」


 調子のいいように言うミアに対し、ルクアは困った顔をしながらも「よろしくお願いします」と返した。


 ルクアとミア。

 ステインとシルヴィア。 

 期せずして同じ組の片割れ同士が、この一時のみのパートナーと相成った。


 そして、これは彼らを狙う黒幕の計画を崩壊させる要因となったのであった。



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 最新話まで読んでくださり、本当にありがとうございます!!


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