第66話 最強と最恐


 ステインとシルヴィア。

 この二人には、色々と因縁がある。


 中でも練習試合で、シルヴィアがステインを負かした、というのが有名な話。そして、それ以来、ステインはシルヴィアにリベンジしようと思っている。


 その情報は正しかった。

 この学校において、ステインにとって勝ちたいと思える相手は、シルヴィアのみ。他の強い連中は全て倒し、異名持ちである五人は既にこの学校にはいない。


 そう。未だ、この学校において、ステインが勝利していないのは、シルヴィアだけであり、彼女を倒さなない限り、最強にはなれない。


 別にステインは最強になりたいわけではないが、しかし一度負けた相手に勝とうとするのは、当然のことだろう。


 そして、だ。

 今、その勝ちたいと思っている相手が目の前にいる。

 ならば、やるべきことは一つしかない。

 こうして、序盤も序盤、初っ端からステインは本命であるシルヴィアと一戦交えることとなる。


「そんじゃまぁ―――」

「待って」


 ……はずだったのだが。

 ふと、早速おっぱじめようとするステインに対し、シルヴィアは制止の声を上げる。


「戦う前に聞きたいことがある。ステイン、ここに来るまで、私以外の人と会った?」

「……いや」

「私も同じ。正確には、誰にも会わずに歩いてたら、一人見つけてたんだけど、その子が逃げて……追いかけたら、ここについた」

「……、」


 それがどうした、とステインは口にしなかった。

 既に選抜戦が始まって一時間以上が経過している。血気盛んな連中がステインやシルヴィアを狙いに来るのが普通だろう。

 実力があるから、狙わず、隠れている……それも確かにあるだろうが、しかしここまで人気がないのは明らかにおかしい。


「……テメェとの戦いが、誰かに仕組まれてるっていいたいのか?」


 ステインの言葉にシルヴィアは頷く。

 誰一人としていない状況。そんな中で唯一の敵を発見すれば、誰だって追いたくなるもの。敵はそれを利用して、自分たちを引き合わせたのだとシルヴィアは言っているのだ。


 その可能性は高い……いや、恐らくはそうなのだろう。

 実力者同士を引き合わせて、潰し合わせる。相打ちならば、尚良し。

 そういう連中が考えた下らない作戦だ。


 けれども、だ。


「だとして、だ。俺とお前がやりあわない理由はどこにもねぇだろ」


 これはサバイバル戦。生き残りをかけた戦い。そして、出会ってしまえば戦うのが基本だ。

 何より、目の前にいるのは、ステインがずっと戦いたいと思っていた相手。

 これ以上の好機はないと言っても過言じゃないだろう。

 それは、ステインを知るシルヴィアも分かっていることだ。


「そうだね……どうあれ、最終的には私達は戦うことになる。それは否定しない」


 しかし。


「けど、それは今じゃない。こんな誰かに用意された状況、ステインだって嫌でしょ?」

「……、」


 その点をつかれると、耳が痛い。

 確かにシルヴィアと戦い、勝利することはステインにとって大事な目的だ。だが、それが誰かに仕組まれたものとなれば、少々話が変わってくる。

 自分たちが勝負することで、どこかの誰かが得をする……それは、面白くない話だ。


「だったらどうする」

「今だけでいい。私と手を組んで欲しい」


 唖然。

 ステインの心情を一言で表現するのなら、まさにそれにつきる。

 それだけ、今のシルヴィアの言葉はステインにとってあまりにも衝撃的するものであった。


「……正気かテメェ」

「私は至って正常。これはどう考えても私達を潰し合わせるよう仕掛けてる。ステインと私が出会えば、どちからが確実に脱落する。これを裏で手を回してる奴は、少なくともそう考えてるはず」

「だから、その逆をするってか」

「私達が手を組むことは、相手も予想してないはずだから」


 それはそうだろう。

 ステインとシルヴィア。この二人を引き合わせた人間は、ステインの性格が分かっている。出会ってしまえば、ステインは必ずシルヴィアと戦う、と。


 だとするのなら、シルヴィアと戦わず、手を組むという行為はそのどこかの誰かの計画を大幅に躓かせることになるはずだ。


「俺がそれを拒否したら?」

「それなら仕方ない。無理強いはできないから。でも、絶対に貴方とは戦わない。全力でここから逃げる」


 その言い分は、ある意味卑怯であった。 


「……ちっ。いつもは何考えてるのか分からない天然のくせに、こんな時だけ頭が回りやがって」


 ステインはあくまで、全力のシルヴィアと戦い、勝利したいと考えている。全力で逃げる彼女を叩き伏せても、そんなものは意味がない。

 それを理解しての言葉……かどうかは分からない。考えてのものなのか、あるいはただ単に思っていることを口にしただけの天然発言か。

 どちらにしろ、ステインが取るべき手段は限られていた。


「いいだろう。その提案、乗ってやる。せいぜい、足引っ張るなよ」

「うん。そうする。ありがとう、ステイン」


 そうして。

 ここに、誰も想像しなかった最強と最恐のタッグが結成されたのであった。


 ……のだが。


「あー……でも、不安なことが一つある」

「いきなり何だよ」

「いや、私のパートナーのことなんだけど……」


 歯切れの悪いシルヴィアの言葉に、ステインは「あー」とどこか納得した様子を見せた。


「あのクソ王女のことが、心配だって言いたいのか?」

「うん。私、結局あの子とまともに話すことができなかったら……」


 無表情ながらも、彼女がミアに関してどこか不安そうなシルヴィア。当然だ。彼女にとってみれば、ミアはまだ会って間もない相棒なのだから。


「アイツなら大丈夫だろ。心配するだけ無駄だ」

「? やけに自信ありげに言うね、ステイン」


 不安など全くないと言わんばかりの口調に、シルヴィアは不思議がっていた。

 そんな彼女に対し、ステインは言い放つ。


「一対一のタイマンならあいつが勝つことは難しいだろうな。だが、今回のようなサバイバル形式なら、話は別だ。勝ち続けるんじゃあなくて、生き残り続けるとなれば―――アレの右に出る奴はいないからな」


 もう一度言う。

 これはトーナメントではなく、サバイバル戦。

 この状況においてこそ、ミアの『厄介さ』が繰り出されることをステインだけは知っていたのであった。


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