第65話 叩き潰される勘違い共
楽勝―――のはずだった。
少女たちの目的はルクア・ヨークアンを倒すこと。
彼の実力は既に把握している。魔術が使えず、魔力もほとんどない。およそ魔術師と言っていいのか疑うレベルの存在だ。
ルクアが身体能力が異常に高いことは、キースとの試合で既に理解している。そして、勝ったこともまた知っている。
その上で、だ……彼女たちはルクアに勝てると踏んでいた。
その理由として挙げられるのは、やはりルクアが魔術が使えないという点だ。
いくら身体能力が凄まじいからと言って、魔術が使える人間には敵わない……それが少女たちの認識だった。
ならばキースはなぜ負けたか?
それは、彼が『男』であり、劣等種であるから……それが彼女たちの言い分である。
一般的にみればおかしな話だ。確かに、ギーツは性格にかなり問題があり、はっきり言ってクズだ。そこは誰もが認めることであろう。
だが、たとえクズだろうが何だろうが、彼は入試試験を五位という成績を残している。
つまり、一年生においては、大半の生徒よりも優秀であり、強いということになるはずだ。
けれど、彼女たちはそれを認めようとしない。
理由としては、入試試験の一位と二位はどちらも女性だったのが原因であり、彼女たちの勘違いに拍車をかけたのだろう。
結論を言えば、彼女たちは男を完全に舐めていた。
自分たちではなく、女の誰かがトップを取ったから、自分たちは男よりも優れている……そんな根拠のない理由を本気で信じている。女尊男卑が信条のフラレテーナ家に組みする者だ。当然と言えば当然の在り方なのかもしれない。
そして、だからこそ。
そんな舐め腐った考えであるから、少女たちは完膚なきまでに叩き潰されたのであった。
「がっ、は―――」
大木に叩きつけられ、思わず吐血してしまう少女。
ダメージはあるが、まだ戦闘はできる。だからこそ、彼女は未だ結界の外に転移させられていないのだろう。
そう……彼女一人だけは。
周りを見渡すと、そこにはルクア以外誰もいなかった。
自分たちは二十人でルクアに襲い掛かった。場所、タイミング、魔術の種類。何もが完璧だったはずだ。当然、魔力を持たない劣等生にどうこうできるものではなかったはずだ。
だというのに。
少女の仲間は全てルクアに叩き伏せられ、既にリタイアとなり結界の外へと放り出されていた。
「何なの、一体……どうして、攻撃が一切当たらないの……!!」
「考えるまでもないだろう?」
ふと、そこで疑問を叫ぶ少女に対し、ルクアは告げる。
「僕が相手の魔術を予測することは、既にギーツとの試合で分かっていたはずだ。しかも、ギーツは分身魔術を使っていた。僕はそのギーツを倒したんだ。なら、同じやり方では通用しないのは誰が見ても明らかだろう? だというのに、君たちはまるで学習をせず、物量で押し切ろうだなんて……はっきり言って、お粗末にも程がある」
その指摘に、しかし少女は尚も叫び、否定する。
「違う!! 奴は男で、私達は女!! その時点で何もかもが条件が違うのだから!! あれが負けたからといって、私達が負ける道理などどこにもない!! それに人数は私達の方が多く、かつ連携だって私たちの方が上手かった!!」
……何とも無様な言い訳。
自分たちは違う。自分たちは特別だ……そんな、みっともなく、根拠のない理由を当たり前のように口にする。一体、この状況を見て、どこからそんな自信が出てくるのか。
けれど、ルクアは少女の言い分を敢えて否定しなかった。
「確かにそれは認める。君たちの方が人数は多く、連携も取れていた。その点を加味しても、ギーツよりも君らを相手した方が、よっぽど苦戦したと思ってる」
けれど。
「それだけだ。僕が対処できない理由はどこにもない」
少女の言葉を聞いた上で、しっかりと現実を叩きつける。
何をどう叫ぼうが、彼女のおかれた状況は変わらないのだから。
だが、それでも少女は認めようとしない。
「ふざけるな!! こんなことは認められない!! 認められるわけがない!! 女の私が、男の、それも魔力をほとんど持っていない劣等生に負けるだなんて、そんな事実はあり得ない!!」
そんな彼女の叫びに、ルクアは溜息を吐きながら、木剣の切っ先を向けた。
「君がどう思おうが、それは勝手だ。否定も肯定もしない。だが―――結果は変わらない。悪いけど、これで終わりだ」
「っ、!? やめっ、まっ―――」
制止する少女。
しかし、そんな彼女の言葉はルクアの耳には届かず、次の瞬間、木剣が振るわれたのであった。
「とりあえず、一難は去ったってところかな」
周りを確認し、誰もいないことを確認する。五感を研ぎ澄ませるも、木々の暗闇からこちらを見張っている視線はなかった。
敵は全て排除した……と考えるべきなのだろうが、しかし楽観してはいられない。
「それにしても、こっちに転移されてから、すぐさま襲い掛かってきたところを見ると、あっちは完全に僕の位置を特定してるな……」
でなければ、開始して五分足らずであれだけの人数が一斉に襲い掛かってくるなどありえない。
「どうやってかは分からないけど、このままここにいたら、また狙われる。早くここを移動しないと……」
明らかに相手は大人数で手を組んでいる。恐らく、事前にそういう手筈を整えていたのだろう。そして、さっきの口調から察するに相手はグレイス・フラレテーナの一派。
周りの少女たちはともかく、グレイス本人はかなりの実力者だ。油断すれば、確実にやられてしまう。
そして、ルクアが心配する案件はもう一つ。
「先輩の方は、大丈夫かな……いや。よそう。あのステイン先輩が、早々にやられるわけがない。今は信じてこっちはこっちで作戦を練ろう」
きっとターゲットになっているであろう自分の相棒を信じながらも、ルクアは森の中を進んでいくのであた。
*******
一方その頃。
「―――おいおいマジか」
ステインは思わず、驚きの表情になる。
だが、それも仕方ないのないことだろう。何せ、今、彼の眼に映っている光景を見れば、誰だって同じ反応をしてしまうはずだ。
……いや、それは違うか。誰もが驚きはするものの、しかし彼以上に目を見開く者はいないはず。
何故なら、そこには、彼がある意味求めていた少女がいたのだから。
「初っ端からお前とやりあうとはな。運が良いんだか、悪いんだか……」
そうして、ステインは拳を構える。
油断はしない。驕りもしない。
当然だ。
何故なら―――ステインがこの少女に対し、手を抜いて戦うなど、あるはずがないのだから。
「まぁ、出会っちまったもんはしょうがねぇ。お前もそう思うだろう? だから、そっちもさっさと構えろよ―――鉄仮面」
そこにいたのは、いつものように無表情でこちらを見ながら臨戦態勢を取っているシルヴィアの姿であった。
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