第64話 思惑をぶち壊される女魔術師

 ここは迷森の片隅。

 そこには、選抜戦の参加者であろう女子生徒たち。

 だが、彼女たちに戦う様子は見られなかった。むしろ、協力しあい、何かを連絡しあっているようであった。


「―――さて、状況はどうなのかしら」


 森の片隅で集まっている女子生徒たちに、グレイスが問いを投げかける。


「報告です。こちらに組していない生徒の排除は着々と進んでいるそうです」

「そう。それは良かった。まぁ、わたくし達にくみしない頭の悪い連中に、後れを取るなんてことはあってはいけません。油断せず、確実に排除していくよう、伝えなさい」

「了解しました」


 グレイスの言葉に従い、少女は伝達魔術で改めて命令を遠くにいる他の者に伝えた。


 ここは一種の作戦本部。

 グレイスに組みする一派の基地のようなものであった。


 この選抜戦においてのルールは校長から既に説明された。その中には『敵と手を組んではいけない』という項目はない。故に、グレイスが取っている手は、ルール違反ではないわけだ。

 だとするのなら、活用するまでの話。


 そして、何も手を組んでいるのは、こちら側・・・・だけではない。


「『向こう側』の様子はどう?」

「問題ありません。ステイン・ソウルウッドがあちら側にいることは、既に確認しております。また、手の者には、無駄に数を減らさないよう徹底しています」

「分かりましたわ。けれど、再三になりますが、注意勧告を。そちらはできうる限り、戦闘を回避し、戦線離脱をしないことを伝えてくださいまし。特に、リューネには厳しく言っておいてください。彼女の出番はまだなのですから」

「はっ」


 伝達魔術で繋がれるのは、何もこちら側の結界にいる者だけではない。もう一方の結界組と連絡を取れることは既に把握済み。

 これもまた、ルール違反ではない。


 そもそもにおして、事前にサバイバル形式と言われていたのだ。何の要因で仲間と離れ離れになった場合の対処を用意しておくのは当然の処置と言える。


「ふふ。あの男、今頃自分が倒すべき相手がいなくて困惑しているのでしょう。考えただけでも無様ね」


 呟きながら、グレイスは憎らしい笑みを浮かべる。


「あの男は倒す力はあっても、探す力がないのは把握済み。せいぜい、走り回って無駄な体力を使えばいいわ……ああ、それよりも前に、別の仕掛けで脱落するかもしれませんわね」


 グレイスの言っていることは間違っていなかった。


 ステインは魔術に対して、これ以上ないほどの天敵。魔術を分解し、無効化させてしまう。そして、脅威的なスピードとパワー。無力化された魔術師からしてみれば、これ以上ないほど、厄介な相手だ。


 だが、そもそも相手にしなければ?

 勝ち負けとは戦うからこそ生じるもの。ならば、そもそも相手に戦わせないという選択肢を与えればどうなるか。

 勝ちはしないが、しかし負けもしない。


 無論、普通の選抜戦であれば、こんなことは通用しない。一対一、どちらかが勝ち、どちらかが負けるようになっている。


 けれど、このサバイバル形式は違う。

 相手に戦わせないという戦法が通用してしまうのだ。


「ステイン・ソウルウッド。貴方の敗因は、暴力に頼り過ぎたこと。力とは、別に暴力だけではない。情報取集、状況把握、連帯……貴方にはその全てが足りていない。たった一人で相手を叩き潰せばいいと思っている。そんなことだから、事前に大会の詳細情報を得ていたわたくし達に、貴方は敗北する」


 皆が恐れる【恐拳】ステイン・ソウルウッド。

 多くの者を一人でなぎ倒し、多くの者を一人で下してきた。


 一人。そう、たった一人でだ。

 だが、そこが彼の弱点。自分一人で何でもできると、暴力だけで解決できると勘違いしているからこそ、今回のような事態を招いた。


「リューネの出番はまだ、と言いましたが、彼女の出番など、そもそもないに等しいのですわね」 


 リューネとはステインを倒すために手を組んだわけだが……この分だと、彼女の出番はまずないと言っていい。

 問題なのは、彼女が勝手に突っ走ること。あり得ないことだが、何かの拍子に、彼女が脱落でもしたら、グレイスはその巻き添えを喰らってしまうのだから。


「それで、本題なのですけれど……あのルクアとかいう者はいつ頃退治できそうなのかしら?」


 そう。

 それこそが、グレイスの本命。


 今回の選抜戦は、片方が脱落すれば、もう片方も脱落となる道連れ式。今回に限って言えば、ステインに勝つには、別にステイン自身を倒さなくてもいいわけだ。

 そして、戦わずにして負けるなど、ステインにとってみれば、これ以上ないほどの敗北だろう。


 だからこそ、彼の相棒であるルクアをターゲットにしたわけだ。

 彼は魔術師の中でも落第生。魔術が使えないどころか、まともな魔力も持っていない。身体能力が高いことは確かだが、しかし結局のところそれだけ。


 複数の魔術が相手ならば、身体能力がどれだけ優れていようと、何の意味もない。

 そして、彼のところにはグレイスの部下が、十数人と向かわせている。


 既に交戦は始まっているはず。あと少し、あるいはもう決着が着いているかもしれない。

 いずれにせよ、ステインとルクアの脱落は決定事項。


 ……のはずだったのだが。


「ええと、それが……」

「『仕掛け』のおかげで、即座に居場所は見つかかり、二十人が交戦したのですが……」


 歯切れの悪い言い方に、怪訝な顔をするグレイス。

 そうして。


「その……全員、返り討ちにあったそうです。しかも、向こうは無傷のままで……」

「――――は?」


 彼女の思惑は、初っ端から崩されるのであった。



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