第63話 そして第三王女は泣き叫ぶ

「諸君。おはよう。校長のヨハネスだ」


 校庭に集まった大勢の生徒。

 その視線を一身に受けながら、ヨハネスは語りだす。


「さて。本来ならば、ここで長々とした話をすべきなのだが……まぁ、皆、今集中してたりするし、邪魔になるといけないからね。今回は省くとしよう」


 その言葉は少し茶化した言い方ではあったが、しかし間違っていない。

 ここに集められた生徒は、自分が選抜戦で勝ち残り、代表になろうとしている者たち。彼らに今、余計な話は入らないのは自明の理だった。


「知っての通り、今回は例年とは違った方式で選抜戦を行うことになった。当初の予定ならば、長い期間を使って、トーナメントで我が校の代表、二組を選ぶはずだったのだが、今回はサバイバル形式を用いることになった。つまりは、生き残り戦だ」


 生徒たちが聞きたいことは、今年の選抜戦でのルール説明。

 何せ、校長が今言ったように、今年は例年とはやり方が違う。故に、ただトーナメントで勝ち残ると考えていた彼らにとってみれば、大問題である。


「まずざっくりとしたルール説明だ。今から諸君には、迷森に張った結界内で戦ってもらう。そして、残った二組を選抜戦の勝者とし、代表とする」


 だからこそ、皆、校長の話を静かに聞いていた。


「敗北条件は戦闘不能状態になるか、敗北宣言をするか。結界内は常に先生たちが見ているので、危ないと思ったら、即座に辞退すればいい。敗北条件が揃った瞬間、空間跳躍で結界の外に転送される仕組みになっている」


 ここまでは想定内の内容。

 事前にサバイバル戦と聞いていた。故に、この程度のことは誰でも予想できるだろう。

 問題なのは、その後だ。


「今のはざっくりとした説明だったが、ここからは少し複雑な内容だ。まず第一に、この選抜戦は、二つの結界内で行われる。そして、それぞれの組は別々になって選抜戦に挑んでもらう。簡単に言えば、パートナーとは離れ離れで戦ったもらうということだ」

「え゛……!?」


 あまりにも汚い声で反応してしまったミア。

 彼女は今日、シルヴィアの傍でやり過ごす予定だった。それが今の一言であっさりと不可能になってしまったのだ。


 しかし、他の面々はそこまで驚きの声を上げていない。

 元々、トーナメント形式でも選抜戦、並びに比翼大会本戦でも一人で戦わなければならないもの。だからこそ、皆、そこまで驚いてはないのだろう。


「二つ目。これは先ほどの敗北条件の追加条件だね。自分のパートナーが戦闘不能、または敗北を宣言した瞬間、もう片方も敗北とみなし、こちらも結界の外に転送される。これは昨今、片方だけが活躍することが目立っているという指摘から追加された。比翼大会は二人一組の優秀な魔術師を決める大会。どちらも実力ある者でなければならないわけだ」

「うえ゛……!?」


 再び汚い声を上げるミア。


 だが、これには他の面々も少々驚きを隠せていない。

 トーナメント形式では、たとえ相方が負けたとしても自分が勝ち続ければ何の問題もなかった。だが、今回は違う。自分がどれだけ強かろうと、相方が負けてしまえば、試合終了。しかも、相方が負けるかどうか、それに自分が介入できない。


 故に、二人とも強くなければこのサバイバル戦は勝ち残れないというわけだ。


「三つ目。森に張った結界はその大きさを徐々に小さくなる仕様になっている。無論、結界内の外に出てもアウトだ。サバイバル戦だからね。隠れてやり過ごそうというという者は一定数いるだろう。それも結構。ただし、選抜戦はあくまで強者を見極める戦い。最後まで戦わずに勝ち残るというのが通用しない、というのは頭に入れておくように」

「ギクッ……!?」


 ……どうやらミアの考えは校長に完全に潰されたらしい。


 とはいうものの、元々サバイバル戦と言われていたのだ。隠れてやりすごそうとしていた連中も少なくないはずだ。そういった連中からしてみても、校長が説明した内容は少々痛手だ。


「四つ目。結界が徐々に小さくなると言ったが、その速度は遅い。最後には半径十メートルの大きさに縮まるわけだが、それまでの猶予は、約五十時間。つまり、大体二日間に渡って君らには戦ってもらう。それまでゆっくり考え、戦いたまえ」

「ながっ……!!」


 そして、それが一番キツイと言わんばかりに、ミアは絶望した表情を浮かべる。


 しかし、サバイバル戦と事前に聞いているのだ。流石にそこは皆、覚悟しているはずだ。はずなのだが……どうやらどこぞの第三王女はそれを理解しきれていなかったらしい。


「以上が選抜戦の説明となる。それじゃあ、この後すぐにでも選抜戦を始めるが……ああ、忘れてた忘れてた。最後に一言。迷森には魔物がうろついているから、そっちにも気を付けるように」

「何かさらっとヤバイこと言ってるんだけど、あの校長!!」


 最早遠慮もえの字もなく、思わずツッコミを入れるミア。

 だが、そんな彼女の指摘など、この場において意味はなかった。



「それでは諸君。健闘を祈っている―――選抜戦、開始っ!!」



 そして。

 校長が手を叩いた瞬間、ミア達の視界は一変したのであった。












 


 目を開けると、そこは見知らぬ森の中。

 朝だというのに、未だ薄暗く、どことなく気味が悪い。

 まるで、全ての場所から狙われているかのような感覚に襲われる。

 そんな中。



「うわぁぁああああああん!! ここどこぉぉぉぉぉおおおおおおっ!! 助けてステえもぉぉぉぉぉおおおおおん!!」



 ……第三王女は、無様にも泣きじゃくっていたのであった。



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