第61話 嵐の前の突撃インタビュー

 そして、ついに。

 選抜戦当日がやってきた。


 選抜戦には大勢の生徒が参加することになっており、その全てが校庭に集まっていた。その数は全生徒の三分の一、と言ったところか。

 そして、当然、その中にはステイン達の姿のあるのだが……。


「うううぅぅぅぅぅ~~~~~」

「だ、大丈夫ですか、ミアさん」

「ダメ。無理。もうやだ。人怖い。帰るぅ……」

「本当に大丈夫ですか!?」


 体育座りで半べそをかくミア。

 既に半分リアイア状態の彼女を前に、ルクアは思わず叫んでしまう。

 そんな彼に対し、ステインはというと。 


「安心しろ。いつものことだ」

「この状態のどこに安心要素が!?」


 あまりのいい加減さに、ルクアは再びツッコミを入れた。

 しかし、ミアの態度には些か目に余るところも事実。

 故に、ステインは仕方ないと言わんばかりな表情で、ミアの首根っこを掴んだ。


「そら、クソ王女。いつまでもうじうじしてんな。しゃきっとしろ」

「うぎゃっ!! こ、こらぁ!! 人を猫みたいに持ち上げるな!!」

「別にいいだろうが。頭鷲掴みにされるよりはマシだろ」

「いやいや、何で首根っこ掴むか、頭鷲掴みにするかの二択なんだよ!! もうちょっと女子の扱い方を勉強しろ!! そんなんだから彼女いない歴=年齢なんだぞ!!」

「そうかよ。まぁ、とりあえず―――頭、割るか」

「今の会話のどこからそんな話になるんだよ!? 意味不明なんだけど!! っていうか、そこ気にしてたのか!! なんかゴメン!!」


 ぎゃあぎゃあと喚き散らしながら、ミアは何とかステインの手から脱出する。

 だが、未だに彼女の不安は消えていないようで、身体をこれでもかと言わんばかりに小刻みに震わせていた。


「ったく。何をそんなにビクついてんだよ」

「だ、だってぇ……ステインも知ってるだろぉ。私、人が多いところ、ちょっと……いや、あんまり……というか、かなり苦手だってぇ……」

「知ってる。その上で言ってんだよ。っつーか、テメェも王族なんだから、人前に出ることくらい慣れとけ」

「何その発言っ!! 王族差別!! っていうか、こんな人が多いところで、王女だの王族だの言うなよ!! 聞かれたらどうするんだよ!!」

「そういうお前も大声で言ってるじゃねぇか」


 どちらかというと、ミアの方が大声で発言しているが……そこを指摘しても火に油を注ぐだけか。

 というより、今の彼女にとっては、もっと心配するべき案件があった。


「っていうか、そもそも、シルヴィア先輩どこ行ったんだよぉ……今日はずーっと傍にいて先輩の影で隠れてやり過ごそうと思ってたのにぃ……」

「思った以上にひどい発言だなオイ」


 いつも通りのミアの態度に、ステインは溜息を吐く。

 だがしかし、彼女の言葉も一理ある。


 選抜試験は、朝の十時から。既に開始時間の十五分前だというのに、シルヴィアの姿がどこにもない。

 一体何をしているんだ……そんな疑問を抱くステインだったが。


「―――シルヴィア先輩なら、ここには来ませんよ。何でも『とある事情』からこの場所にはこられないとのことで」


 ふいに聞こえてきた後ろからの声に、振り向く。

 そこにいたのは見知らぬ少女。

 いや、正確にはステインにとって、見知らぬ少女、というべきか。


「あっ。ネイアさん」

「はい!! 新聞部所属のネイアです!! いやぁ!! 私のこと覚えてくれていたんですね!! これは嬉しい限りです!! それはそうと今日もインタビューをしにきたんですがよろしいですか、よろしいですね、ありがとうございます!! では早速質問なんですけど……!!」

「まだ了承してないのに始まってるんですけど……!?」


 相変わらずの強引な姿勢に、ルクアは戸惑いを隠せない。

 しかし、そんなネイアに対し、意外にもステインが質問を投げかけた。


「おい、クソ記者。テメェさっき妙なこと言ってたな? あの鉄仮面が『とある事情』で来られないって」

「おや? やはり気になりますか? それはそうでしょうねぇ。何せ、シルヴィア先輩は貴方にとって、最大の難関であり、ライバル!! そんな彼女を倒すことが貴方の悲願であることは誰もが承知していること。去年は叶わなかった、公の場での決着を、今年こそと燃えているとは思いますが、そこら辺についての意気込みなどいただけないでしょうか!!」


 ステインの質問に対し、逆に質問で返すネイア。

 学校中から【恐拳】と畏怖されているステインに対し、考えられない態度であった。


「す、凄……あのステインの殺人的眼光くらっても何ともないなんて……」

「あ、ある意味尊敬できますね……」


 無知、というわけではない。彼女は新聞部。当然、ステインのことは知っているはず。その上で、彼に対し、食い気味に質問をしているのだ。まさに肝が据わっているとはこのことだろう。


「それに答えたら、鉄仮面のことを話すのか?」

「ええ、ええ、勿論ですとも!! インタビューさせてもらうからには、対価は当然ですから!!」

「なら分かった」

「「えっ」」


 思わず、同じ反応をしてしまうルカウとミア。

 ステインの性格上、「くだらない」の一言で一蹴するとばかり思っていた。


 事実、普段のステインなら断っていた。

 そんな彼がインタビューに応じたのは、それだけ、彼にとってシルヴィアがここにいない理由が重要だということである。


「別に意気込みなんてねぇ。俺はあいつを倒す。いや、アイツだけじゃねぇ。目の前の敵を全部ぶっ倒して、天辺を取る。んでもって、魔術師全員に思い知らせる。テメェらクソ魔術師は、全員俺より弱いんだってな」


 あまりにも傲慢。あまりにも自信過剰。

 どこまでも他人、否、魔術師を見下した内容。普通なら、ドン引きされてもおかしくはない。

 事実、ミアは「うわー」と目を細めていた。


「出た出た。相変わらずの上から目線の発言。あんなこと言っちゃうとか、どんだけ自分に自信持ってるだって話だよ」

「あはは……でも、何というか、先輩らしいですよね」


 傲慢? 自信過剰? それがどうしたと言わんばかりの態度と発言。

 彼はそれに見合う実力者であり、だからこそ、皆から恐れられているのだ。


「こ、これは中々攻めた発言ですね……。ですが、それでこそ、【恐拳】ステイン・ソウルウッド!! これは売れる記事が書けそうです……!!」

「世辞はいい。そら、こっちは喋ったんだ。そっちもさっさと教えろ」


 そうして、今度はステインが質問をした。

 その時。




「―――あら? 随分と余裕な態度ですわね。何とも不愉快なことですこと」




 不意に、悪意ある言の葉がステイン達の耳に入ってきたのであった。



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