第59話 そして第三王女は泣き縋る


 一体どういうことだ。


 それが、今、この場にいる全員の総意だろう。

 ステインとルクアは選抜戦前の模擬試合で勝利し、それによって、シード権を獲得した。これはトーナメント戦においてはかなりのアドバンテージだ。

 それが無くなったとなれば、穏やかなことではない。


「どうやら比翼大会そのものが、大幅に前倒しになるそうで。そのため、選抜戦のやり方も大きくかえなければならなくなり、トーナメント方式ではなくなるそうです」

「大幅な前倒し、ですか……」

「はい。何でも、新しくなった比翼大会運営の方針だそうで。詳しい詳細は不明です」

「そんな急に……」

「これは何もこの学校だけではありません。全ての学校が同じ要請を受けていること。校長が抗議しても無駄でしょう。まぁ、そもそもあの方がそんな殊勝なことをするとは到底思えませんが」


 確かに、あの校長がそんなことをするとは思えない。

 時期が早まり、トーナメントではなくなる。これは、それだけだ。前倒しになり、選抜戦のやり方を変える、ということは確かに面倒なことではあるが、何も誰かに不利益が講じることではない。

 ……一部の者を除けば。


「レーナ様が言いたいことは理解できます。しかし、今回に限っては従わざるを得ないでしょう」

「けど……」

「おいおい。いつまでも文句言ってんじゃねぇよ。別に大したことでもないんだからよ」


 などと。

 シード権を無くされたステインは、あっけらかんとした態度で言い放った。


「大したことでもないって……貴方、なんでそうも平然としていられるですか!?」

「平然も何も、事実だろ。シード権がどうだのこうだの、その程度のこと、一々気にしてられっかよ」

「その程度のことって……」


 その言葉に嘘はない。

 ステインは虚勢ではなく、本心で今回の決定は別段問題ではないと言っているのだ。


「あー、無駄無駄。ステインは勝負ごとに関しちゃ、細かい事は気にしないタイプだから。結局全員ぶっ倒せばいいじゃん? とか考えている脳筋だから、普通な感性を求めちゃだめだぞ」

「なんだ。よく分かってるじゃねぇか、クソ王女。だが、言い方が気に入らねぇから、後で頭潰す」

「さらっと怖い事と言うなよ!! そして仮にも王族に対して不敬すぎるだろ、それは!!」

「安心しろ。ちょっと頭が変形するだけだ」

「だからお前の発言のどこに安心要素があるんだよ!!」


 ぎゃあぎゃあと喚くミア。

 しかし未だ納得がいかないレーナに対し、ルクアが口を開く。


「先輩の言う通りだよ、レーナ。大会に出られなくなったわけじゃないんだ。これくらいのこと、あの家での仕打ちに比べれば、問題ないさ」

「お兄様……」


 慕っている兄の言葉でようやく落ち着きを取り戻したのか、レーナはそれ以上何も言うことはなかった。


「んで? 結局、どういう方式になるわけなんだ?」

「全ての参加者で同時に行う、三日間に渡るサバイバル方式、とだけ。詳細は当日に知らされるとか」


 あまりにもざっくりとした内容。

 けれど、その分かっている事実からだけでも、読み取れることはある。


「しかし、これはまた、ステイン様たちにとってあまりにも不利ではありますな」

「? どういうことですか?」

「失礼ながら、ステイン様は大勢の生徒に畏怖される存在。それは間違いありません。が……人間という生き物は自分にとって怖い存在を排除したいもの。無論、一人でそれをやろうと思う者は少ないでしょう。ですが……一人ではなかったら、話は別」

「他の参加者が、徒党を組んでくるってことですか?」

「その可能性は十分あるかと」


 一対一ではステインには勝てない。

 一対複数でも、ステインならば捻り潰すことができるだろう。

 だが、今回は少々状況が特殊である。


「以前、襲撃された程度の人数なら問題はありますまい。ですが……今回はアレ遥かに上回る人数が参加しております。それらが全てステイン様たちを潰すために組むとなれば、あまり楽観できることではありますまい」

「そんな、まさか……」

「そのまさかのようなことが起こりえるのが、この魔術学校ですので」


 魔術師とは基本、自分勝手な連中だ。

 自分の気に入らないものがあれば、何があってもそれを蹴落としたいと考える者が多い。そのためならば、他人と手を組むのもやぶさかではない。そして、この学校にはステインを怖がる一方で気に入らないと思う者は山のようにいる。


 故に、今回の選抜戦。どう考えてもステイン達にとって不利なのは明らか。

 なのだが……。


「はっ。だったらどうした。そんな連中、全員まとめて叩き潰す。それだけの話だろ」


 相変わらずの言葉と態度に、レーナは少々呆れてしまう。

 そして、それは何も彼女だけではなかった。


「うーっわ、出たよ。いつもの脳筋発言。そういうこと言ってると、足元すくわれるんだぞー」

「黙れ。そういうお前の方こそ、大丈夫なのかよ」

「え? 何が?」

「うちの学校じゃあ、シルヴィア・エインノワールを崇拝している奴は多いが……一方で、それを倒して自分が一番になりたいと思ってる奴も少なからずいる」

「ほうほう」

「んで、だ。今回はタイマンじゃあなくて、人数ごちゃまぜの乱戦になるわけで……そんな状況で、最強の相棒であるお前を狙う連中はごまんといると思うんだが?」

「………………、」


 言われ、少しの間、表情が固まるミア。

 ようやく自分の置かれた状況を完全に利した瞬間、その顔が徐々に青ざめていく。

 そして。


「うわぁぁぁああああっ!! じゃああれか、私、めっちゃ狙われるってことか!? もうやだぁぁぁぁああああああああっ!! やっぱ出たくないぃぃぃいいいいっ!! 助けてステえもぉぉぉぉおおおん!!」

「やかましい」


 縋り、泣きついてくる王女をステインは一蹴するのであった。


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