第58話 届けられる新たな不穏な影

 これにて一件落着、と思うかもしれないが、しかし重要なことを忘れてはいけない。


 そう……女子生徒の襲撃により、ミアの部屋は木っ端微塵に吹き飛ばされてしまっているのだ。

 流石にこのまま放置、というわけにはいかない。


 しかし、急に部屋がなくなったから、代わりの部屋を用意するなど、そう容易いことではない。

 そう。普通なら。


 幸か不幸か、この学校には唯一、空き部屋が多くある寮が一つだけ存在していた。


「……ぷはぁーっ。いやぁ、久しぶりだけど、やっぱり美味しいな、ステインの料理!!」


 ミアはテーブルに並べられたステインの料理を豪快に食べつくしていた。


 魔術学校で今、部屋が空いているのは廃棄寮のみ。

 ここは問題児が入る場所と噂されており、そのため廃棄寮に引っ越すとなれば、嫌がる生徒がほとんど。

 しかし、ミアに至ってはそんなことはどうでもいい。というか、今の彼女に断るという選択肢はない。


 そうして現在。

 ミアはステインとルクア達と共に、夕食を共にしていた。


「これが毎日食べれるとか、ここは天国だな!!」

「喧しい。誰が毎日出すっつった。今日だけだって言っただろうが。テメェの頭はあれか、鳥並みにねぇのか」

「うーわっ。何それ。鳥に対しての偏見だよね? っていうか、鳥って頭いいからな? 特にカラス。私が思うに、あいつら人間以上の知能、絶対持ってるから。ゴミ捨て場で自分が好きな残飯とかすぐに見分けるし、どれだけ対策してもこっちを嘲わらうかのようにゴミ漁るし、挙句は狙いすましたかのように糞をこっちに落としてくるし……あぁ、思い出しただけでも腹が立つ……」

「お前、カラスに何の恨み持ってんだよ……」


 最初は褒めていたというのに、なぜか最終的にカラスに対し、恨みのある言葉を口にするミア。

 相も変わらず、無茶苦茶な発言を前に、ステインは溜息を吐く。

 そんな彼を見て、レーナは少々驚いた様子であった。


「しかし、まさか貴方が王族と知り合いだなんて……世の中、分からないものですね」

「言うな。自覚はある」


 王族。つまり、この国のトップに位置する者たち。そこと繋がりがあるというのは、希少であり、普通ならまずない。

 ステインとミアの関係で色々と麻痺しているかもしれないが、本来ならこんな軽口を言い合える仲などでは決してない。


「まぁ、私とステインは、お互いの父親が、先輩後輩っていうちょっと特殊な間柄だしなー」

「そうなんですか?」

「うん。っていうか、二人とも、この廃棄寮の元寮生で、数少ないまともに卒業した生徒だったらしい。あっ、ちなみにステインのお父さんが先輩だ」


 廃棄寮の元寮生。つまり、ステイン達の先輩にあたるというわけだ。

 そして、廃棄寮に住んでいたという事実を聞かされ、一同の視線が集まったのは、クセンの下だった。


「事実でございますよ。当時のことは鮮明に覚えております。何せ、歴代の中でも一、二を争う程、やんちゃな時代でございますからねぇ」

「や、やんちゃって……」


 言葉で濁されているが、恐らく相当荒れていた時代なのだろうと、何となく察するルクアとレーナであった。


「国王陛下は当時、トップの成績を叩き出し、魔術師としての実力も相当なものでしたから。地位、権力、実力、その全てを兼ね備えたあの方に口出しできるものは中々いませんでした。ただ、ステイン様のお父様に対しては一定の敬意を払っていましたが」

「え? それはまた……」


 正直、想像ができない。

 ステインの父親、という点だけでもどんな人物なのか分からないというのに、そこに『国王に信頼されている』という要因が付け加えられれば、もはや想像など不可能。


「まぁ、不思議に思うのは当然だな。俺自身、未だに何でアレが色んな奴に慕われてるのか、分からん」

「なにを仰いますか。当時、やんちゃな廃棄寮の寮生を涙目になりながらもまとめていたのは、貴方様のお父様なのです。確かに、あの方は自分を大きく見せようとする小心者ではありますが、それでもいざという時には役に立つお方。正直、わたくしもあの方には何度も助けられました」


 クセンにそこまで言わせる程の男。

 本当に一体何者なのだ、ステインの父親とは……。


「先輩のお父さんか……ちょっと会ってみたいですね」

「やめとけ。あんな毎回毎回偉そうなことをべらべら喋る奴といても、何も楽しくねぇぞ」

「えー。そうかなぁ? 確かにステインのお父さん、色々と言ってくるけど、結局こっちに気を回してくれるじゃん? さりげなくお菓子作ってくれたり、アドバイスくれたり。私が付きな本とか色々とくれるしさ」

「それはアイツがテメェに甘いからだ。大体なぁ―――あ?」


 ふと、そこでステインの言葉が止まり、視線が上へと向けられた。

 そして次の瞬間、どこからともなく一匹のハトが出現し、クセンの肩に降り立った。

 そのくちばしに、一通の手紙を加えながら。


「おや? これはこれは」

「どうしました?」

「いえ。どうやら校長から緊急の手紙が送られてきたようで……」


 言いながら、クセンは手紙を受け取り、中身を取り出す。

 ……が、内容を見るや否や、怪訝な顔つきになる。


「……皆さま。残念なお知らせがございます」


 不穏な言い出し。

 何やら嫌な予感がする一同であったが……。


「どうやら―――ステイン様たちのシード権の話が、無かったことになるようです」


 予感的中。

 クセンから言われた言葉は、ステイン達にとって新しい危機の到来であった。


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