第53話 調子に乗った引きこもりを叩き出すやり方
「相棒が引きこもってる?」
シルヴィアがステインを頼ってきた理由は、それだった。
現在、既に昼休みが終わっているのだが、ステイン達はとある寮に向かっていた。
何故授業に出ていないのか。その疑問は尤もなのだが……去年の優勝者、シルヴィア・エインノワールが大会に出られないかもしれない。そんな理由を口にしただけで、教師陣は「分かった」と授業を抜け出すことを許可したのだ。
それだけ、シルヴィアの存在はこの学校にとっては大きい。
……まぁ、その出られないかもしれない理由というのか、相方が引きこもっているから、などと思う者は誰一人としていないだろうが。
「―――話を要約すると、だ。テメェは親から指名された奴を組んで大会に出るはずだった」
「うん」
「でも、そいつは大会に出るのが嫌で、寮の部屋から一歩も出てなく、まともに顔を見てない」
「そう」
「一応、何度か説得には行ったが失敗に終わり、今も尚、ずっと引きこもっている、と」
「その通り」
……自分で整理しながらも、ステインは頭を抱えたくなった。
仮にも、仮にもだ。一度は自分を負かした女が、他の者たちに最強と呼ばれている女が、引きこもりを相手に困り果てて、自分を頼ってきた……そんな状況になったら誰だって頭を抱えたくなる。
(……まぁ、こいつが相棒を勝手に選べないのは何となく理解はできるが)
諸々の関係上、シルヴィアが、相棒を自分で選びたくても選べないのは、流石のステインでも分かる。
第一に、シルヴィアの実力が高すぎること。基本的に最強と組むという重圧に耐えられる者はそうそういない。……まぁそんなこと関係なく、シルヴィアと組もうとする者は一定数いるが、そういう連中に限って実力がないのがほとんど。
第二に、シルヴィアは二大貴族の一つ、その長の娘だ。家柄と地位がある程度なければ、様々な方面から文句が出てくるのは明白。下手な相手を選んでしまえば、優勝云々以前に、貴族間で問題が発生してしまう。それが魔術師貴族というものだ。
第三に、動機。逆に実力がある者たちは、シルヴィアと戦おうと躍起になるため、彼女と組まないことが多い。これに関してはステイン等が当て嵌まる。つまりは、腕が立つ者は基本、シルヴィアを倒そうとしているわけだ。
他にも理由はあるだろうが、結局何が言いたいかと言うと、シルヴィアは簡単には相棒を選べない、ということ。
だからこそ、親が決めた相手と組む、ということになったのだろう。シルヴィアの親が認めたということは、実力があり、地位や家柄もよく、シルヴィアを倒そうという気がない……そういう相手のはず。
はずなのだが……まさか、その相手が大会そのものに出たくないと言い出すとは……。
「お前なぁ……何でそういう大事なことを今になって解決しようとしてんだよ。っつーか、時間ならあったはずだろうが。何でもかんでも後回しにする癖、どうにかしろ」
「……そんな癖、ない」
「一年の時、夏休みの最終日に宿題が終わってなくて泣きついてきたのは誰だ? あ?」
「……泣いてないもん」
どこか拗ねたような口調で言うシルヴィア。
確かに、泣いてはなかった。いつも通りの鉄仮面だった。
だが、珍しく困り果てた口調で「宿題手伝って」と言われた時は、正直ステインの思考が止まったのは事実。
他にも、一年の時、クラスが一緒だったせいか、彼女が結構杜撰な性格であることをステインはよく知っている。
それを指摘しようとしたのだが……今、それを指摘したところでどうにもならないのもまた事実。
「……んで、何で俺を頼った? そういうことは、教師に頼むことだろうが」
「そうなんだけど……話を聞いた校長が、ステインを連れて行けばきっと何とかしてくれるって言ってたから」
「あ? そりゃどういう意味だよ」
「……さぁ?」
何で聞いていないだ……そう言いそうになったが、あの校長相手であれば、それは仕方のない事だろう、とステインは納得してしまう。
「ここか……」
そんなこんなで、件の相方がいる部屋の前にやってきた。
そこには、『来るな』『開けるな』『立ち入るな』とデカデカと張り紙が貼ってあるドアがあった。
「こりゃまた面倒そうなやつだな。……まぁいい。まずはテメェから話してみろ」
「え……でも、ずっと話、聞いてくれなくて……」
「とりあえず自分で何とかしてみろ。どういう奴なのか、それで判断する。それに、他人に頼るのはその後だろうが」
ステインの言っていることは間違っていない。
故に、シルヴィアは悩んだ後、「……分かった」と言いつつ、扉の前へと立ち、ノックする。
「こんにち……」
『やだ、無理、帰って。以上』
会話になっていない。
いや、そもそも挨拶すら遮られた。それだけで、相手がどれだけシルヴィアを拒否しているのかが伺える。
だが、シルヴィアもこれで引き下がるわけにはいかない。
「ちょっと話を……」
『だから無理。無理だって。私は、大会に出るつもりなんてこれっっっぽっちもない。以上!』
取りつく島もないとはまさにこのことなのだろう。
説得するにはまず話さなければいけないのに、シルヴィアが話し出すと同時に言葉を乗せてくる。まるで子供のやり口だ。
けれど、それでも今日のシルヴィアはまだ諦めない。
「いや、でも……」
『でも、出涸らしもなーーい!! 私は、絶対に、何があっても、大会なんて面倒かつ危険かつ怖いものに参加するつもりなんて毛頭ないんだ!! 以上!!』
これでもかと言わんばかりの拒否反応。どうやら相手は本気で試合に出たくないらしい。
そして、そんな相方の言葉を聞かされたシルヴィアはというと。
「……、」
「いや、『ほら』みたいな目でこっちを見るな」
とは言ったものの、シルヴィアの気持ちが分からないわけでもない。
ここまで拒否されるとは、流石にステインも想定外である。
(にしても、この声、どっかで聞いたような……)
違和感を感じつつ、今度はステインが扉の前に立つ。
と、そこで扉……否、部屋に妙な魔術がかけられていることに気が付いた。
「……結界魔術か」
「うん。それのせいで、簡単に入れない」
「無理やりこじあけたらいいだろ」
「それはそうだけど……最悪、この寮が全壊する」
「あー……そうだな」
結界魔術。それは防御魔術の上位互換とされるものであり、その名の通り、一定の空間に結界を張ることができる。
その効力は様々ではあるが、目の前のものは防御に特化したもの。しかも相当頑丈だ。確かにこれを壊すとなれば、この寮を壊しかねない威力をもってやる他ない。
(まぁ、俺の『絶喰』があれば何とかなるが……)
それが、校長がステインを手伝わせた理由。
そう、思っていたのだが……。
『なぁーはははっ!! 無駄だ無駄だ!! 私は自分でもどうかと思うくらいの引きこもりのニートだが、結界魔術に関しては誰にも負けない自信がある!! たとえ相手が【黄金竜】でも簡単には壊せまい!! その結界を壊すんなら、この寮をぶっ壊す覚悟をもってするんだな!!』
「―――、は?」
その瞬間、ステインは自分の耳に入ってきた言葉が一瞬理解できなかった。
結界魔術に関して? 否。
【黄金竜】でも壊せないこと? 否。
この寮を壊す覚悟について? 否。
ステインが気になった点、それは、目の前にいる引きこもりが『ニート』という言葉を使ったこと。
そんな
「はぁ……成程。そういうことか、クソッ」
「ステイン?」
「校長が俺を頼るようにいった理由が今分かった……」
先ほどの理由は、やはり当たっていた。だが、半分当たっていた、というのが正確か。
確かに、目の前の引きこもり相手なら、ステインが相手をするのが妥当だろう。
何せ―――『彼女』を引きずり出すのは、何も今回が初めてではないのだから。
「―――随分な言い分じゃねぇか、ええ? テメェ、いつからそんなに態度がでかくなったんだ?」
『……………………………………え?』
ステインの言葉に、部屋の主の声が変わった。
『待って……ちょっと待って。待ってくれ。待ってください。お願いしますから待ってください。その、いかにも相手を視線だけで殺すような、ドスの利いた声の持ち主は……もしかしなくても……』
「ああ。テメェがよく知る男だよ」
『うぎゃああああああああああっ!! やっぱりお前、ステインかぁぁぁああああああああああああ!!』
ステインがいると分かり、明らかに狼狽している部屋の主。
一方のステインはというと、相手が誰なのかが分かり、どこかあきれた様子になりつつも。
「まぁ、アレだ。とりあえず中に入るぞ―――ふんっ!」
言いながら、ステインは拳を振るう。
ステインの『絶喰』は基本的に常時発動している。そして、そんな彼が結界の前に立っていれば、結界は徐々に魔力へと変わり、その防御力はどんどん下がっていく。
そして、脆くなった魔術など、ステインの前では無に等しい。
故に。
結界魔術が賭けられていた部屋の扉が、ステインの拳によってぶち壊されるのは自明の理であった。
そうして、部屋の中へと押し入る。
……中は散々な有様だった。
服と言う服が散乱し、書物と言う書物がそこら中に散りばめられているかのように床に転がっている。
空気もどこか淀んでおり、明らかに掃除はしていないのが見て取れる。
そして、だ。
「よう、久しぶりだな、
そんな汚部屋の片隅で、涙目になりながら、何故かひっくり返っている水色の髪の少女に対し、ステインはそう言い放ったのであった。
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