第52話 憎まれ、狙われ、頼られる【恐拳】
そこにいたのは、茶髪の少年……いや、少女だった。
ルクアと同じく、中性的な顔立ち。しかし、どこか凛々しさを兼ね備えた少女を前に、グレイスはどこか狼狽していた。
「っ、貴女……どうして……」
「どうして? 自分の相方がくだらないことをしていれば、止めに入るのは当然だろう?」
その言葉に、グレイスは苦虫を噛んだかのような顔をする。
どうやら、彼女にとって目の前の少女の登場は予想外のことだったらしい。
「黙っていてください。貴女には関係のないことでしょう」
「そうだね。キミがどんな思想を持っているか、誰に喧嘩を売っているのか。ボクにはどうでもいい。キミがどんな下らないことをしていようが、本来ならボクには関係のないことだ」
けれど。
「こちらに迷惑をかけられるとなれば、話は別だ。もう選抜戦は数日後に迫っているというのに、こんなところで問題を起こして出られませんでした、なんてことになったら、いい笑いものだ。それこそ、
その言葉と同時。
どこからともなく現れた無数の剣が、少女の首元に刃を突きつける。
「……次に姉様のことを侮辱してみさない。ただじゃすみませんわよ」
「なら余計に自分の身の振り方を考えたまえ」
自らの首に凶器を突きつけられながら、しかし少女は態度を崩さない。
数拍の静寂。その間、グレイスは少女をずっと睨みつけていたが、しかし時間の無駄だと理解したのか、「もういいわ」という彼女の言葉と同時に剣は瞬時に姿を消した。
「命拾いをしましたわね。けれど、次も助かるなどと思わないように」
どこかで聞いたことのある台詞を吐き捨てながら、グレイスは付き人の女たちと一緒にこの場を去っていった。
その姿が完全に見えなくなった途端、ルクアは一息つく。
どうやら一難は去ったようだ。
そして、改めて、もう一人の少女に言葉を投げかけた。
「あ、ありがとうございます。ええと……」
「ああ、自己紹介がまだだったね。ボクはリューネ。リューネ・ロミネンス。二年生だ。よろしく」
中性的な茶髪の少女―――リューネはルクアに握手をしながら挨拶を交わす。
それと同時に、目を細めながら、リューネはルクアに言い放つ。
「それにしてもさっきのあれはいただけないな」
「えっと……何がでしょうか」
「もう少しでキミ、彼女の挑発に乗っかかりそうになっただろう? キミの妹さんが言い返していなかったら、キミは何かしらのアクションを起こしていた。違うかい?」
その指摘に、ルクアは目を丸めた。
リューネの指摘は当然のもの。しかし、ルクアが驚いたのは、まだ何もしていないルクアから、そのことを見抜いたことである。
……いや、行動に移していないだけで、周りからは丸わかりだったのかもしれない。
何せ、レーナがルクアの代わりに挑発し返したのが何よりの証拠だ。
「それは……はい。すみません」
「グレイスの言い分に文句を言いたかったのは分かるが、しかし時期が時期だ。キミの行動一つで、選抜戦に出場できなくなる可能性もある。彼女は違うが、そういうことを狙ってくる輩もいることは覚えておいて欲しい」
尤もな言い分である。
選抜戦開始まで残り数日。ここで何か問題を起こして、出場資格を剥奪されてしまっては、元も子もない。
「それとルクア君。さっき、キミはありがとうと言ったけれど、勘違いしなくでくれ。ボクはただ、自分が選抜戦にでられないような自体になるのを防ぎにきただけだ。加えて言うのなら、ボクはキミに出場してもらわなくては困る」
「困る、ですか?」
「ああ。とは言っても、ボクはキミに全く興味がない。ボクが言っているのは、キミの相方の方さ」
リューネの言葉に、悪意は全く感じられない。
一見、ルクアを子馬鹿にしたかのような言葉であるが、彼女は淡々と事実を述べているのみ。別にルクアを貶しているわけではなく、ただ単純に彼女には別の目的があるというだけの話だ。
「……貴方もステイン先輩に何か因縁でも?」
「ああ。まぁ、向こうは覚えてすらいないだろうけどね。それでも……ボクは彼を倒さなきゃいけない。何があったとしても」
倒さなきゃいけない、とリューネは確かに言った。
学校中の生徒から嫌われ、そして恐れられている男。それを倒すと宣言するとは、一体どういう理由なのか。
聞きたいところではあるが……時間がそれを許してはくれなかった。
「っと、もうすぐ昼休みも終わるね。それじゃあ。選抜戦で当たるようなことがあったら、よろしく」
そう言って、リューネもまたこの場を去っていく。
そんな彼女の背中をじっと見る視線が一つ。
「ロミネンス……あの人が……」
「えっと、ネイアさん?」
「え……ああ、すみません!! もう時間もきたことですし、私もここら辺で失礼します!! それじゃあ、また次のインタビュー、お願いしますね!!」
言いながら、ネイアは颯爽とどこかへと消え去っていった。
そんな彼女を見て、二人は。
「あの人、一体なんだったのでしょうか」
「さぁ……?」
どこか困惑した気味に、そうつぶやくのであった。
こうして一波乱あったルクア達の昼休みは終わりを迎えたのであった。
一方その頃、ステインはというと。
「助けてステイン。このままだと私、選抜戦に出られない」
「…………あぁ?」
倒すべき目標である最強から、無表情で助けを求められていたのであった。
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何をしてるんだ、最強……。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!!
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