第51話 未だ蔓延る哀れな魔術師たち

 赤い王女。

 その少女を初見で表すのなら、まさにその一言につきる。

 ツインテール状にした長い赤い髪は、かなり目立っており、彼女の内面を表わしたものであるように思えた。


 そして、そんな彼女に女子生徒が何人も彼女の後ろに付き従う光景は、まるで王女とその側近たちだ。


「あ、貴方は、グレイス・フラレテーナさん!? 一年の入学試験で、総合順位二位の実力者がなぜここに……!?」


 驚くネイア。

 グレイス・フラレテーナ。その名前をルクアは知っている。何せ、彼女もまた秀才と呼ばれる魔術師なのだから。


 入学試験での総合順位。その一位はレーナであり、次点でグレイスとされている。まぁ、魔術の実技試験だけを見るのであれば、圧倒的成績を叩き出したレオン・オルフォウスがいるのだが、彼は筆記試験はほぼ赤点スレスレ。そのため、総合順位では上位にすら食い込めていない。


 よって、ここに一位と二位が揃ったわけなのだが……その空気は少々ピリついたものであった。


「別に、わたくしがどこにいようと問題はないでしょう? ……それにしても、先ほど妙なことを仰っていましたわね?」


 言いながら、グレイスはまるで嘲わらうかのようにルクアの方をみながら言い放つ。


「そこの落第生が、今年の優勝候補? ハッ。笑わせないでくださいまし。そんな、無能が選抜戦で勝ちぬけるわけがございません」

「そうよそうよ。魔術が使えない奴が、優勝候補とか、頭どうかしてるんじゃない?」

「しかも、それがよりにもよって、男だなんて。新聞部の情報も大したことないのね」


 グレイスの言葉に追随するかのように、後ろの女子生徒たちが声を上げる。

 それは、ルクアのよく知る嘲笑であり、故に彼は慣れていた。

 だが、問題なのはその言葉がルクアではなく、ネイアに向けられているということ。


「で、でも、ルクアさんは先日の事件で大活躍をしたと……」

「ああそのこと? あの程度のことを大活躍など、貴女それでも記者なのかしら?」

「そんな……先日の一件は、少しでも対応が遅れていれば、確実に死者が出ていました!! ルクアさんとステイン先輩が何とかしてなかったから、どれだけの被害が出ていたことか……!!」

「まぁ、おかしなことを言うのね。わたくしは別に、被害の話などしておりません。わたくしが言っているのは、その程度の事で優勝を狙えると思われていることですわ」

「その程度のことって……」

「確か、事件の際、他のクラスメイト達は魔術を封じられていたのでしょう? だからその男が活躍した。それだけの話ですわ。決して、その男が強かったから、なんてことではありません。もしも他の生徒の一人でも魔術が使えていれば、もっと事は早く解決できたはずですわ。先日の一件はただこの男にとって都合の良い状況だった。それだけのことですわ」

「貴方……っ」

「いいんだ。ネイアさん。彼女の言っていることは別に間違っちゃいない」


 思わず怒りの表情を浮かべるネイアを冷静に止めるルクア。

 グレイスの言った言葉は、言い方はアレだが、内容的に全てが間違っているわけではなかった。特にルクアにとって都合の良い状況、というのはまさにその通りだろう。


 魔術師が魔術を使えない状況。これ以上にルクアが活躍するに都合がいいことなどあろうか。

 そこで彼が勝つことはむしろ自然なこと。それをことさら称賛されることをルクアは求めていない。

 故に、そのことでルクアは自分がどうこう言われようが気にしない。

 気にしないのだが。


「まぁ、これはまた殊勝なこと。男のくせに目立ちたがり屋なのかと思っていましたが、どうやら貴方は違うようね。とはいえ、あの卑怯者と組んでいる者など、ロクな人間ではないのは分かり切っていますが。そして、そんな連中にわたくし達、本物の強者が負けるわけがございません」


 言われ。

 ルクアは拳を握りしめながら、グレイスに視線を向ける。


「……卑怯者、と言ったね。それは、ステイン先輩のことをいっているのかな」

「当然です。それ以外に誰がいると? あんな、相手に魔術の封じた上でいたぶるような卑劣漢、卑怯者以外の何者でもありませんわ。上級生が何故、あんな男を怖がっているのか、甚だ理解に苦しみます」

「全くです。男のくせに生意気な態度を取って、何様のつもりなのでしょう」

「ああ、嫌ですわ嫌ですわ。あんなゴミクズがいるだなんて、この学校の品位が疑われます」


 彼女たちの言葉で、拳を握る力が徐々に強くなる。

 ルクアは自分がどういわれようが別段何とも思わない。罵倒だの、嘲笑だの、そんなものは慣れっこだ。

 だがしかし。

 自分の尊敬する人を馬鹿にされれば、話は別である。

 そうして、ルクアが反論の言葉を口にしようとしたその時。



「―――哀れですね」



 グレイスたちにそんな言葉を言い放ったのはルクアではなく、意外にもレーナだった。

 

「……今、何か言いましたか?」

「哀れと言ったんです。あの男に勝てないと分かっているから、最初からそんな言葉を並べているのでしょう? 自分が負けた時の言い訳を今らか口にするなんて、みっともないことこの上ないですね」

「貴方、なんてことを……!!」

「選抜戦すら出ない人が、よく言いますわね!!」


 グレイスの付き人達の言葉に「ええ」とレーナは肯定の言葉を述べる。


「確かに私は選抜戦には出られません。なので、本当に残念です……貴方たちのような身の程知らずを叩きのめすことができなくて。まぁ、それはあの男に任せるとしましょう。貴方達が、あの男と戦うまで、勝ち残れれば、の話ですけど」


 ああいえばこういう。

 どこまでも上から目線のレーナ。これがただの魔術師学生の言葉ならともかく、レーナは一年生のトップ。その言葉の重みは普通の生徒のものとは段違い。

 何より、プライドが高い彼女たち―――特にグレイスからしてみれば、自分よりも成績が上の存在からの挑発は、怒り心頭ものであった。


「……わたくし達と戦いたいのなら、別に試合である必要などありません―――今ここで貴方と戦ってもよろしくてよ?」

「まぁ! 貴方、意外と優しいところあるんですね。自分から叩きのめされにきてくれるなんて」


 二人の間で目に見えない何かがぶつかり合う。

 敵意、殺気、闘気……それらが交じり合い、今にも爆発しそうな空気。

 けれども。



「―――キミたち。元気なのはいいことだが、そこまでにした方がいいんじゃあないかな?」



 それらは、また別の第三者の介入により、弾けることなく消え去ったのであった。



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