第50話 唐突で強引なインタビュー

「一体、何なん、ですか、あの、男は……!!」


 昼休み。

 いつもの場所で、ルクアとレーナは昼食をとっていた。

 ……とは言っても、今回はほとんどレーナの愚痴大会になっていたが。


「なーにが、『ちょっと確かめたいことがあった』、ですかっ。私は、説明を、求めてるんです!! それを、何も言わずにどこかへ行って……人をおちょくって楽しんでるですか!! ああ、思い出しただけで、腹が立つ……!!」


 言いながら、弁当を食べていくレーナ。

 ……その弁当は、レーナがステインに教えてもらいながら作ったものであり、これまた美味しいので余計に腹が立つ。


「でも、レーナ。お腹の方は大丈夫なの?」

「平気です。クセンさんにすぐ治療してもらいましたし。何より、あんな男の攻撃、全然へっちゃらです」


 虚勢……ではない。

 実際、レーナの傷は完治しており、短時間で治る程度のものであった。


「……けれど、癪な話ですが、あの男の実力は認めざるを得ません」


 そう。すぐに治ったとはいえ、レーナは傷を負った。

 不意をつかれながらも、しかしレーナは咄嗟に自ら操る銀で完璧にガードした。本来なら、どんな攻撃も無意味であり、貫通することなどありえない。

 だというのに、ステインの拳はレーナの銀を意図も容易くぶち壊し、拳を叩き込んできた。


 分かっていたことだ。ステインの実力は。

 だが、実際に戦って、彼の拳をその身に喰らって、改めて理解した。

 あの男は、強者である、と。

 だからこそ、思う。


「あんな男ですら、【黄金竜】を倒せないのですね……」


 ステインがシルヴィアに負けたことがあるのは、ルクアもレーナも噂で知っている。

 非公式の練習試合だったとはいえ、あのステインが敗北した姿……あまりにも想像ができない。

 しかし、それだけシルヴィア・エインノワールという少女は規格外なのだ。

 でなければ、最強という称号をその手に勝ち取ることなどできはしない。


「―――さてそれはどうなでしょう? 少なくとも、下馬評では、ステイン先輩が勝つと思っている人はそれなりにいるときいてますけれど」


 不意に。

 聞き覚えのない声が耳に入ってくる。

 ふと見ると、そこにはいつの間にかルクアの隣に、黒ぶち眼鏡をかけた、見知らぬ少女が座っていた。


「えっと……すみません。貴女は?」

「申し遅れました! 私、新聞部一年のネイア・カーリッジと言います!! 今回、優勝候補の一組であるルクアさんにぜひともインタビューを受けてもらいたくて参りました!!」


 敬礼しながら満面の笑みで挨拶をするネイア。

 だがしかし、一方のルクアは困惑気味の表情を浮かべていた。


「いや、突然インタビューとか言われても……」

「それでは早速なのですが」

「聞いてない!? いや、こっちの話を……」

「まぁまぁそうおっしゃらずに。で、最初の質問ですが、ルクアさんとステイン先輩が組んだきっかけとは? 噂ではルクアさんの入学試験の相手をステイン先輩だったという話ですが本当ですか? そこで実力を見込まれて相棒に抜擢されたとききましたが真実ですか? というか、ルクアさん、本当に可愛い顔してますよね? 本当に男の人ですか? 一部では実は実家から男として身分を偽るよう指示された隠れ美少女という噂が……」

「ちょっと落ち着いて! そして最後の質問については断固否定します!!」


 乱発される質問の中、ルクアは最後の問いに対し、今までにないほどの否定の意を表す。

 確かに、ルクアは中性的な顔立ちであり、小柄も相まって「女みたいなやつ」と何度も揶揄されたことはある。

 だが、彼とて男だ。色々なことを言われても反論しないルクアであったが、その点に関してだけは、絶対に認めたくないのであった。


「ええー。でも、ステイン先輩がルクアさんを誘った理由は、その顔が好みで手籠めにしているという情報もあって。だからルクアさんは実は女の子なんじゃって……」

「どんな誤解してるの!? そんなわけないでしょう!! 事実無根です!! ほら、レーナも何か言って……レーナ?」


 いつもなら速攻で否定してくれるレーナだが、何故か今回は何も反論しない。

 というか、どこか絶望した表情で、一人で何やらぶつぶつと呟いていた。


「……も、もしや、あの男、お兄様にそういう気があると……? いえ、そんなまさか……でも、お兄様は確かにこの世で一番、可愛らしいのは事実。あの男がお兄様相手にそういう気を持ってしまうのも無理からぬこと。ですが、ですが……ううぅぅ~」

「ちょっとレーナさん!? 何変な妄想してるの!? 戻ってきて!! 」


 あらぬ誤解と妄想をしている妹を必死な想いでルクアは現実に引き戻そうとする。

 が、その隣にいるネイアは勝手に事実を捻じ曲げていく。


「なるほどなるほど。ステイン先輩は実は女子より可愛い男の子が好きである、と……」

「それは絶対に違うと思うよ!? っていうか、そんな捏造記事出したら、先輩に殺されちゃうよ、君!!」

「安心してください―――私、生半可な覚悟で、記者やってませんから!!」

「全く安心できる要素がないんだけど!?」


 ツッコミ要素が多すぎて、最早処理しきれない。

 こんな子がインタビューとか、新聞部はどうなっているんだ……いや、こういう強引なやり方が実は記者に求められるもなのか……?

 あまりにも唐突かつ無茶苦茶な状況に、ルクアも頭がこんがらがってきていた。

 そんな中。



「―――随分、面白そうな話をなさっていますわね」



 これまた状況を混沌化させる不穏な影が近づいてきたのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何度でも言います、ルクアは、ちゃんと、男です。


 ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!!

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