第48話 それぞれの暗躍
「―――話はどうやら終わったようだね」
ステインが帰ったのを見越し、奥の部屋からヨハネスが出てくる。
未だ無表情のままのアーチェスに対し、ヨハネスは笑みを浮かべながら質問した。
「どうだい? 面白かっただろう? 彼」
「面白いかどうかさておき、常人ではないことは確かですね」
少なくとも、二大貴族の一つ、その筆頭を目の前にしてあの態度と言動。普通ならあり得ない。
一見、ただのチンピラにしか見えないというのに、しかしその実、アーチェスを目の前にしても何一つ動じないどころか、啖呵を切ってくるとは。
ただの大馬鹿か、それともそれ以上の大物か。
どちらにしろ、ただ者ではないのは、アーチェスも認めざるを得ない。
「もしかして、『賭け』に乗ったこと、後悔してる?」
「まさか。あの少年が相手だろうが、こちらとしては何ら問題はありませんよ」
そう。
たとえ、ステインが何者であろうと、アーチェスがすべきことは変わらない。
故に。
「とはいえ―――手を抜くつもりもない。我々はルールの範囲内で確実に潰す。それだけです」
「潰す、ね。また容赦ないことを……そういうところ、変わらないね」
相手が生徒だろうが、この男には関係ない。
自分に敵対するというのなら、相手が誰であろうと、叩き潰す。
そう考えると……アーチェスとステインは、ある意味同族と言えるのかもしれない。
「それはそうと、例の件はどうなりました?」
「ああ。ヒブリックの裏にいた者についてだったね。まだ調査中ではあるが、正直あまり期待はできないかな。どうにも証拠を完全に消している。ヒブリックやゲルスンとは違い、こっちは徹底しているね。全く、厄介だ」
ヒブリックやゲルスンと連絡を取り合っていた第三者……その存在は確かにいる。ステインも襲撃当時、獣人の誰かと戦ったと証言はしていることから、それは明らか。
だが、それが誰かは分かっていない。
何せ―――ステインが倒したというその獣人は、倒れていた筈の場所からその姿を消していたのだから。
「君はこの件、どう見る?」
「それは、『あの方』が関わっているか、という問いですか? だとするのなら、それはないでしょう」
「ほう? 理由は?」
「あちらの勝利条件はあくまで、『ルクア・ヨークアン』の優勝。そして、今回、『賭け』が無くなって困るのもあの方も同じですから」
今回の『賭け』は、勝負をしている二人にとっては重要な案件だ。だからこそ、勝負を無かったことにする、というのは絶対にできない。
「だとするのなら」
「ええ―――どこかの誰かは知りませんが、この『賭け』にちょっかいをかけている第三者がいる、ということでしょうね」
****
とある暗闇。
どこかもしれないその場所で、二つの影が会話をしている。
「痛たたたた……オイ、主。もうちょい丁寧に治療してくれよ」
「悪いね。ワタシはこういうのが不得意なもので。大丈夫、傷はちゃんと治るのは保証しよう」
「当たり前だ。ついでに、ちゃんと特別手当出せよ」
狼の獣人―――ロウの言葉に、男は「はいはい」と軽口で返す。
そんな男に対し、ロウは疑問を投げかけた。
「それにしても、今回の作戦、本当にこれでよかったのか?」
「ああ。十分だ。ルクア・ヨークアンにはもっともっと強くなってもらわなくていけないからね。金づる一人、代償で済んだだけでも御の字だ」
「強く、ね……そのルクア・ヨークアンだが、危うく死ぬところだったと思うんだが?」
「それならそれで構わない。次の『候補』を探すまでだ……だが、彼は生き残った。流石、私の『候補』だ」
男は笑みを浮かべていた。
まるで小さな子供の成長を見守る大人のように見える。
……が、しかしロウは知っている。この男が、そんなマトモなことを考える男ではないことを。
だが、そんな男の笑みも次の瞬間、苛立ちに変化する。
「とはいえ……少々邪魔な奴が傍にいるが」
「【恐拳】か」
「あの男はダメだ。強すぎるんだよ……こちらがルクア・ヨークアンに対して用意した困難や苦難を簡単に片付けしまうかもしれない程に」
詳細は省くが、男の目的は『ルクア・ヨークアンに強くなってもらうこと』。そのための試練、苦難、困難を用意する。
……のだが、今のままではダメだ。今回のように、途中で邪魔が入ってしまう。
結果、事を解決するのが、ルクアではなく、ステインになる。それはダメだ。それでは、ルクアが成長できない。
「なら殺すか? ……って、ボロクソにやられた俺が言えた義理じゃないが」
「よく言う。本気のほの字も出していない奴のセリフじゃあないね。何にしろ、今はダメだ。あの男を殺してしまえば、ルクア・ヨークアンが比翼大会に出られなくなってしまう。今から変わりの相棒を用意するのは無理があるしね」
比翼大会への選抜戦まで残り数日。ここでステインを消すのは愚策という他ない。
何せ、選抜戦、及び大会本戦は、ルクア自身が戦う場であり、彼が成長できる場所でもある。そこに出場させないというのは、論外だろう。
「それに、今回の件でヨークアン家の方が少し動きそうだ。あまり目立ったことをするべきじゃあない」
「ってことは、しばらくは様子見か?」
「さぁ? そうなるかもしれないし、ならないかもしれない。それは、『彼女』次第だ」
男は視線を暗闇へと移す。
姿は見えない。だが、そこには確かに『誰か』がいた。
「じゃあ、手筈通り、次は『君』の番だ。ああ、今、ロウにも言ったが、仕掛けるかどうかは君に任せよう。どちらにしろ―――面白くなりそうだ」
不敵で、不吉で、不気味な笑み。
男は、ステイン達に降り注ぐ、新たな試練に対してただただ嗤うのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
これにて、一章終幕です。
ありがとうございました!!
物語は第二章『校内選抜戦』へと続きます!!
たくさんの応援、ありがとうございます!
今後も頑張っていきますので、☆評価、フォローなど、何卒よろしくお願いします!!
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