第47話 大貴族への宣戦布告
「去年までの学校の惨状なら、私も聞いている。君や【黄金竜】が入学してくるまで、彼らはその魔術の才能と地位によってやりたい放題をしていたらしいね。それをよしとしなかった校長は君たちを入学させたわけだ。彼らの抑止力として。とはいっても、君の場合は抑止力どころの話ではなかったが」
ステインは強い。それはまごうことなき事実ではあるが、しかし、魔術師として優秀かと聞かれれば、それは否と言えるだろう。
そんな彼が、どうして魔術学校に入学できたのか。
全ては校長が五人の派閥。その悪影響を防ぐためであった。
事実、彼が入学してからというもの、派閥の者たちが次々と返り討ちにあい、その力は削がれていった。
この時点で、校長の目論見はある意味成功したといえただろう。
その後、まさかステインが、その五人をその手で直接倒してしまい、彼らの不興を買ってしまったこと。それが原因でステインの相棒がやられたこと。
結果……学校中を巻き込む、波乱の嵐を呼んだことが、果たしてヨハネスの計画通りかは知る由もないが。
「君の才能と今話した内容を鑑みれば、君に勝てる魔術師はこの学校にはほとんどいないことは確かだ。だが、それはあくまでこの学校内だけに限った話。比翼大会本戦に出場する面々はそれぞれの学校の代表。君とて簡単に勝てるような相手ではない。ましてや―――この学校にはあの【黄金竜】もいる。君が敗北を喫した彼女が」
「……、」
アーチェスの言葉に、ステインは無言で返すのみ。
そもそも、その手の挑発は聞き飽きている。最早怒ることすら面倒であり、一々反応することは億劫。
故に、そこで感情が動くことはなかった。
「そして何より、君にはアレという最大の枷がある。他の者ならともかく、アレを相方にしてしまった以上、君らが優勝することはまずない」
「……何?」
だからこそ、ステインが反応したのは別の点。
分かっていたこと。いや、アーチェスがルクアを否定する言葉を口にするのは、決まっていたことと言ってもいい。
だというのに。
何故か、ステインはその言葉に反応してしまった。
「私はアレの実力を正しく理解している。五感、身体能力、剣技。それらが優れていることも、一般的な魔術師が相手ならば勝てることも認めよう」
けれど。
「だが、どれだけ力をつけようと、そこどまりだ。君と違い、魔術に対する効果的な戦術を持ち合わせていないアレが勝てる見込みなどない」
淡々と自分の分析を述べるアーチェス。
そして、それが大きく間違っているとステインは言わない。
客観的に見れば、アーチェスの言葉は正しい。比翼大会本戦に出てくる連中は強者ばかり。魔術を封じる手段を持たず、ただ身一つで戦うなど無謀であるというのは正しい見解なのかもしれない。
だが、それでも。
何故だかは分からないが……ステインはこのまま黙っておくという選択肢を取らなかった。
「……なぁ。あいつが、今回何をしたのか、アンタ知ってるか?」
「?
ああ、そうか。
目の前の男からしてみれば、ルクアの行動はその程度の認識だったのだろう。
「あいつは今回、絶望的な状況下にいた。普通なら自分の身を守るだけでも不可能な状況だ。だが、あれは自分だけじゃなく、他の連中すら守ってみせた。誰一人死なせずに。魔術も使わないで……アンタにできるか? そんなこと。少なくとも―――俺には無理だ」
断言する。
魔術を放出する『瞬放』、魔力を喰らう『絶喰』、そして『色即絶喰』。それらを使わずに、あの状況を切り抜けるなど、ステインには無理な話だ。
優れた身体能力? 研ぎ澄まされた五感? 関係ない。それこそ、彼が努力の果てに身に着けたものだ。いいや、そもそもの話としてステインであれば、自分を見下していた連中を守ろうと思えない。
だが―――ルクアはした。やってのけたのだ。
「アイツは馬鹿だ。自分のことを弱いと言いながら、それでも強くあろうとする。その上で他者を必死に守ろうとする。これ以上なく、どうしようもないほど、阿呆なお人よしだ」
一言、魔術師らしくない。
魔術が使えない云々以前に、その有り様が魔術師のそれではない。
他者を踏みにじり、踏み台にし、蹴落とし、そしてのし上がる。それが魔術師というどうしようもない存在なのだ。
そして、だ。
だからこそ、ボロボロな状態で、それでも他人を助けた姿に―――ステインは魅入ってしまったのだ。
こんな奴もいるのだと。こんな男がまだいたのだと。ステインに気づかせてくれた。
故に―――だからこそ―――。
「そんな奴が、天辺を取った姿を、俺は他の連中に見せつけてぇ。テメェらは魔術を使えないコイツ以下なんだと、全員に思い知らせたい。そして自覚させたい―――魔術師は最強無敵の存在じゃねぇってことをな」
初志貫徹。ステインの目的は、結局そこに行き当たる。
魔術師という存在を嘲笑い、見下し、そして自分たちは弱いのだと自覚させる。
何とも悪辣、何とも趣味が悪い。
浅く、下らなく、他の人間からしてみれば、どうでもいい。
けれど、だからどうした?
もしも、ステインとルクアが優勝し、彼らの悔しがる顔を見る。
それはきっと―――ステインにとって、これ以上ないほどの絶景だ。
「そして、その上で―――アンタの泣きっ面を拝むことができれば、最高じゃねぇか」
「だから、君はアレと共に大会に挑むと?」
「そういうこった」
「……成程。話には聞いていたが、どうやら君という人間はかなりイカれているらしい」
「オイオイ。まともな人間が、天辺を取れるとでも?」
不敵な笑みを浮かべるステイン。
無表情を崩さないアーチェス。
一方はルクアを認め、一方はルクアを認めない。
何もかもが違う二人。
故に、彼らの結末は、最初から決まっていたのかもしれない。
「よかろう―――ならば、私は君を改めて『敵』として認めよう、ステイン・ソウルウッド。全力をもって、私は君を潰す」
「上等だ。首を洗って待ってな、アーチェス・ヨークアン。そう遠くない内に、アンタに吠え面かかせてやるさ」
宣戦布告。
こうして、ステインは今一度、アーチェス・ヨークアンを敵として打倒することを決めたのであった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
これにて『敵』との顔合わせ終了。
次で、一章は完結です!
最新話まで読んでくださり、ありがとうございます!!
よろしければ、☆評価、フォロー等、応援してくださると作者の励みになりますので、何卒よろしくお願いします!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます