第46話 大量退学、その真相

 もしもの話をする。

 今年の一年生に去年のこの学校の代表者は誰かと聞けば、恐らく皆揃って同じ答えを出すだろう。


『シルヴィア・エインノワール』


 当然だ。去年の比翼大会優勝者でこの学校の頂点。ここに入学したというのなら、知らないわけがない。

 無論、彼女の相方もかなりの実力者であり、今は卒業してしまったが、シルヴィアに「あの人に勝つのはちょっと無理をしなきゃいけない」とまで言わしめた程。


 では。

 シルヴィア達とは違う、もう一つの代表組は誰か。

 その問いに答えられる一年生はほぼいないと言える。

 何故なら去年、この学校の代表は、たった一組しか出なかったのだから。


「比翼大会はそれぞれの学校が代表二組を出すことが決まりになっている。だが去年、この学校はシルヴィア・エインノワールの一組しか出場しなかった。彼女の実力と活躍があまりにも輝き過ぎたために、出場しなかった片方について、詮索する者はほとんどいなかった」

「……、」


 アーチェスの説明にステインは何も言わない。

 しかし、それが答えでもあった。


 確かにステインは去年、この学校の代表組の一つとなり、比翼大会に出ることとなっていた。しかし、それが直前になって彼らが辞退するという形で亡くなってしまったのだ。


 けれども、だとするのなら当然の疑問が出てくる。

 あのステイン・ソウルウッドが何故、比翼大会を辞退するなどと言いだしたのか。


「君らが出場しなかったのは、自分から辞退したということになっているが……本当は違う。事実は、君の相方が試合直前に闇討ちに合い、大会に出られなくなったためだ」


 闇討ち。

 何とも卑劣な所業だが、しかし別段珍しいことではなかった。

 事実、一年の頃のステインは毎日のように襲撃にあっていた。無論、それらは全て返り討ちにしていたのだが……。


 その標的が、ステインではなく、その相棒にされたのだ。

 無論、当時の彼のパートナーもそれを承知の上でステインと組んでいた。故に、用心に用心を重ねていたのだが……様々な不運と悪辣な裏でのやり取り、それから無数の暴力によって、試合に出られなくなってしまったのだ。


 そして、だ。

 当然、そんなことをされてステインが黙っているわけがない。


「大会を辞退した後、君は実行犯たちを叩き潰し、次に闇討ちをしかけさせた五人の生徒を標的にした。【黒蛇】【石狼】【虚言】【壊炎】【灰騎士】……将来、確実に魔術界に影響を及ぼすと言われ、シルヴィア・エインノワールが来るまで、最強クラスと呼ばれていた者たち。それぞれが各々の派閥を持っており、それらを全て合わせると全校生徒の半分がどこかの派閥に属していたとか」


 派閥……どこの世界にもよくある話だ。

 そして、ここは魔術学校。派閥が大きければ大きいほど、自分の力を誇示することができる。

 その派閥全てに、ステインは狙われ、相棒は重傷を負った。

 では、なぜステイン達は狙われたのか。

 それはとても単純で、且つ卑劣な想いから。


「彼ら五人はそれぞれ選抜戦で君に負けた。その腹いせに、君のパートナーを闇討ちしたわけだ。当然、彼ら本人ではない。彼らは自分の手下をそれぞれ仕向けさせ、手を組ませた。そして襲わせた。自分たちの手下を組ませた理由はただ一つ。これが、五つの派閥の総意であると君に示すためだった」


 普通なら、泣き寝入りする状況。

 相手は全ての派閥。それらを相手にするということは、事実上、全校生徒の半分を敵に回すということ。

 だがしかし。

 ステイン・ソウルウッドにその手の脅しは通用しないのであった。

 そして、だ。

 彼は、普通というものを簡単に壊してしまう男でもあった。


「そんな連中を、君は一方的に駆逐した。徹底的に、完膚なきまで。それによって、多くの生徒が負傷し、止めに入った教師陣もほとんど返り討ちにあったとか。最終的には校長、【黄金竜】、並びにくだんの君のパートナーが説得したことによって何とか止められたわけだが……、そこまでに相応の被害が出てしまった。それによって君は生徒、及び教師たちに君は絶対的な恐怖を植え付け、最恐の存在となったわけだ。そして、君を恐れて五十人以上の生徒が学校を去ることとなった」


 これがステインが「何十人も退学に追い込んだ」という噂の真実。

 異名持ちであるそれぞれの派閥のトップだけでなく、それに従う者たち。そしてステインを止めようとした教師陣。それらを彼は叩きのめした。

 前代未聞どころの話ではない。魔術学校始まって以来の一大事と言っても過言ではないだろう。実行犯はタダでは済まないのは火を見るよりも明らか。

 では、なぜステインはまだ学校にいることが許されているのか。


「ここまでしても君が退学にならなかったのは、その五人が色々と罪を犯していたから。暴行、脅迫、誘拐、加えて例の禁薬の件も含めて。それが明るみに出るようになり、彼らは失脚し、学校を去った。加えて、校長が多くの生徒の親たちから君を庇い、擁護したのも大きい」

「はっ。たかが一生徒に、あの校長がそこまでするとでも?」


 魔術学校の長。それがたった一人の、しかも最悪とも呼べる問題児を庇う……そんなことはありはしないだろう。

 ……普通ならば。


「するとも。何故なら―――君は、この学校の生徒を叩きのめすために入学させられた存在なのだから」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――


嘘ではなく、本当に学校の生徒半数以上をボコボコにして、当時最強各の五人を倒し、教師陣まで返り討ちにした……うん。これだけのことやったら、そりゃあ皆怖がるわな……。



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