第40話 顕現する魔術師の地獄
「はぁ、はぁ……せん、ぱい……」
「何だ。思ったよりもボロボロだな。ったく、何やって……」
と、そこでステインが言葉を止める。
彼の眼に入ってきたのは、一か所に集まっているクラスメイト。彼らは全員大した傷ではなく、死人もいない。
一方のルクアは息も絶え絶えでボロボロ状態。
これが何を意味するのか、ステインは一瞬で理解した。
「……成程。他の連中を守り切ったわけか……」
阿呆だ、と思った。
ステインは知っている。ルクアはクラスメイト達から迫害されていたことを。
魔術が使えないからと馬鹿にし、卑下し、見下してきた。
そんな連中を助けようとするなど、どう考えてもあり得ない。お人よしどころの話ではない。
そうして、ステインはズタボロ状態のルクアの頭に手をポンッと乗せ。
「―――よくやった」
ただ一言、そういった。
どんな理由であれ、どんな相手であれ、彼はこの数の人間を命がけで守り、救い、助けた。ならば、相応の言葉があってしかるべきだ。
そして、その言葉をステインが言ってはいけない理由はどこにもない。
後は任せろと言わんばかりに、ステインはルクアの前に立つ。
一方のゲルスンは、ステインがここにいることが少々気に食わなかった様子であった。
「何故……何故、貴様がここにいる、ステイン・ソウルウッドッ!! ロウはどうした!!」
ゲルスンの叫びに、ステインは不敵に笑って答えた。
「ロウ? ああ、さっきの奴か。それなら適当に片づけておいた。ちょっと厄介な奴だったが……生憎と、獣人に関しては色々と考えててな。いつでも連中と素手で戦えるように、身体は鍛えてあんだよ」
ステインは自分が強いと自負している。
けれど、絶対無敵の存在ではないことも同時に理解していた。
だからこそ、自分の弱点になる存在に対し、どう攻略するかは常に考えてあるのだ。
「そんな……クソッ、あの役立たずめ!!」
「そうか? あいつは結構楽しませてくれたがな。少なくとも、アンタよりはマシだと思うが?」
確かに、ステインはロウという獣人に勝利し、ここにいる。だが、思った以上に手間がかかったのは確かだ。
おかげで思った以上に到着するのが遅れてしまった。
「っつーかよ……本当に情けねぇな、オタク」
「何……?」
「自分以外魔術を使えなくして、相手に足手まといを作らせて、一方的に嬲る……それってつまり、自分に自信がない証拠じゃねぇか」
ゲルスンが何故、他の生徒を巻き込んだのか、ステインはそれをいち早く理解していた。
魔術が使えない者を見下していながら、その実真正面から戦おうとしない……ある意味、魔術師らしい卑怯で下劣なやり口だ。
「言っていろ。どうせ、貴様もここで死ぬんだからな」
「あ?」
「確かに、貴様は魔術師に対しては無敵だろう……だが、魔物相手ならば、そうはいくまい!!」
パチンッ、と指がなる。
それと同時にこちらに向かう無数の足音が聞こえてきた。
その正体は……。
「なっ、新手の生きた魔物……!? まだこんなにいたのか……!!」
その光景に、思わずルクアは目を丸くさせる。
死んでいる魔物だけではなく、生きた魔物がうじゃうじゃと集まってきていた。
まずい、とルクアは心の中で呟く。
ステインの『絶喰』は魔術に対してなら絶大な効力を発揮するが、魔術を使わない魔物に対しては効果は皆無と言っていいだろう。
生きている魔物、死んでいる魔物、その数は自分たちを囲い込み、逃げ道を塞ぐには十分な数であった。
(もしもこの数で一気に襲い掛かられたら、僕でも先輩でもどうしようもない……皆、圧死する……!!)
それだけ、彼らを阻む魔物の数は多すぎるのだ。
問題はそれだけではない。
「加えて、私には反射の魔術がある。貴様の攻撃はあくまで素手での攻撃。どんな攻撃をしてこようと、全て無駄だっ!! 貴様もそこの低俗で無能なゴミクズと一緒に殺してやる!!」
勝ち誇ったように言い放つゲルスン。
これが、レオンの時のように単なる防御魔術であれば、ステインの拳が効いたかもしれない。だが、ゲルスンが使っているのは、あくまで『反射の魔術』。ただの素手の攻撃ではこれを突破することはできない。
だからこそ、ルクアも手をこまねいていたのだから。
しかし……。
「……あーあ。本当に救いようがねぇな、テメェ」
「何っ?」
「魔物? 反射の魔術? その程度で俺に勝てると考えた時点で、もう詰みなんだよ」
すると、ステインは集まっている生徒たちに対し、大声で言い放つ。
「おい、お前らっ!! 全員、少しの間、苦しい思いするが、死にはしねぇからちょっと我慢してろっ!!」
言われるものの、その言葉の意味を理解できた者は誰一人としておらず、全員がきょとんと首を傾げるか、眉をひそめていた。
それはルクアやゲルスンも同じこと。
「貴様、何を……」
「別に? ただ単に、お前を地獄に叩き落すってだけの話だ」
再び、不敵な笑み。
だが、ゲルスンの何かがその表情を見て察した。
(―――ダメだ)
何がどうダメなのかわ分からないし、理解もできない、説明もできない。
けれど。
(ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ―――)
ステインがやろうとしていることは決してさせてはならないと、ゲルスンの本能が叫んでいる。
「っ、やめ、やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!!」
故に、ゲルスンは魔物によって攻撃と試みようとした。
しかし、ああしかし。
遅い。遅すぎる。最早ステインがこの場にたどり着いた時点で、ゲルスンの敗北は決していたというのに。
そうして。
「―――『
言い終わると同時。
この場において、魔術師に対する地獄が具現化したのであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
ようやく……ようやく、出せた!! 主人公の奥義!!
正直、この技はこの作品においてあまりにもチート。
どういう能力かは次回明らかになりますが、この作品のコンセプトは最強、無双、そして蹂躙。それに似合った能力とだけ言っておきます。
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