第39話 逆転とは諦めの悪い者のところにやってくる
正直に言おう。
(相性最悪だな、これは)
襲い掛かる無数の死体を切り結びながら、心の中でそんなことを呟く。
ルクアの剣術は確かに達人……いや、超人並みのもの。普通の魔術師は無論、腕に覚えのある者でも彼なら倒すことが可能だ。
だが、それでも相性というものがある。
今回のがまさにそれ。
ゲルスンが使っているのは反射の魔術。あらゆる攻撃を防ぎ、そのまま相手にダメージを返すというもの。
ルクアはこれに対する対策法を持ち合わせていない。
彼はあくまで剣の使い手。物理攻撃を無効化されてしまえば、彼の力は半減どころか、ほぼ通じないと言っていい。
加えて、この無限に起き上がってくる死体の数々。
いくら切り刻んでも、破片になっても、執念深く動いてくる。先ほどは、細切れにする、と断言したが、やはりそう簡単にはいかない。
(全く、本当に相性の悪い相手だ……けどっ!!)
けれど、それでも。
ルクアは諦めず、剣を握り続けた。
「ああああああっ!!」
剣を振るう。振るう。振るう。
他の生徒たちを襲う魔物の死体を次から次へと八つ裂きにする。そこに終わりは見えない。ゲルスンによって魔物は際限なく襲い掛かってくるのだから。
どれだけ強くとも、どれだけ剣が上手くとも。
目の前の状況を打破する能力を、ルクアは持ち合わせていなかった。
けれど。
それでも、彼は剣を振るうことをやめない。
「くっ……!!」
一体何匹倒したか。一体何匹切り捨てたか。
既に数えることすらやめている。
と、そんな中で、ふと頭の中で一つの疑問がよぎる。
『何故、自分を卑下してきた連中を守るのか』
その指摘は当たり前にして当然の疑問だろう。
ルクアの身体能力であれば、この場から離脱することは容易だ。簡単に逃げ切れるだろう。
だが、そうじゃない。そうじゃないんだ。
もしもここで自分だけ逃げてしまえば、それはきっと弱さの証明になってしまう。結局、ルクア・ヨークアンという男はその程度の男なのだと周囲に知らしめることになってしまうのだ。
それは嫌だ。ダメだ。絶対に後悔する。
結局のところ、ルクアは自分が後悔したくないから戦っているに過ぎない。
何とも身勝手。何とも自分勝手。
けれど、それがどうした?
これくらいのことを乗り越えないで、シルヴィアの隣にいれるのか?
これくらいのことを乗り越えないで、ステインの相棒が務まるのか?
否、否、否っ!!
自分が好きな人と一緒にいたい。
自分を認めてくれた人の力になりたい。
その想いを叶えるためなら、なんだってやってみせる。
それすらできないのであれば、自分は生きている価値などないのだから―――!!
疲れはある。傷ついてもいる。
けれど、一向にその闘気が弱まる気配がないことに、ゲルスンの苛立ちは高まっていた。
「鬱陶しい、鬱陶しい、鬱陶しい……!! いつまで粘り続けるつもりだ!! もう、君の、負けは、確定しているっ!! だから、早く諦めて死ねっ!! 君如きが、いつまでも私に時間を使わせるんじゃあない!!」
叫ぶゲルスン。
その時、ふと彼の頭に一つの可能性が思い浮かんだ。
「ああ……もしかして、時間制限を狙っているのかな? 私の魔力が切れて【クラウンゲージ】が崩れることを狙っているとか。だとしたら残念だったね。確かに【クラウンケージ】は超高等魔術。普段の私なら、発動自体が不可能な代物だ。だが……今の私は、この薬を飲んでいる」
ゲルスンが懐から取り出したのは、見覚えのある赤い液体が入った瓶。
それを見たルクアは驚きと共に、納得した。
(成程……禁薬の力があったから、これだけのことができたのかっ)
ゲルスンがいかに優秀とはいえ、【クラウンケージ】を使った状態で魔物を操り、その死体すら自在に動かしていたのはおかしいとは思っていたが……。
まさか、禁薬に手を出していたとは。
「今の私の魔力は絶大。魔力切れなど関係ない。少なくとも、あと三十分は余裕でもつ。そして、それだけの時間があれば、君を確実に殺せるだろう」
だからもう動くな、足掻くな、抵抗するな。
いい加減自分の言うことを聞け……暗にそう言っているゲルスン。
ああ、それでも。
「―――はぁっ!!」
ルクアは知るかと叫ばんばかりに、攻撃を続ける。
斬って、裂いて、薙ぎ払って。
ゲルスンの言葉に言葉を返すこともなく、ただひたすらに剣を振るう。
戦い、守り、助ける……魔術を使えないはずの存在が、自分たちよりも劣る格下の人間が、それを可能にしている。
その事実が、現実が。
ゲルスンの我慢を崩壊させた。
「こんの……いい加減、諦めろ、劣等がぁぁぁあああああっ!!」
叫びと共に、大量の魔物の死体が一斉にルクアへとびかかる。
それに対し、上等だと言わんばかりに、ルクアは剣を構えた。
その次の瞬間。
どこからともなくやってきた
「……へ、ぇ……?」
あまりの光景に、思わずゲルスンは奇妙な声を出した。
一方のルクアはというと驚きながらも、しかし何が起こったのかは理解していた。
ルクアは今の技を直接見てはないが、しかし話には聞いていた。だからこそ、一体誰の仕業かなど、瞬時に把握した。
こんな離れ業をできるのは、ルクアが知る限り、一人しかいないのだから。
そうして、木々の中からやってきたのは……。
「―――よう。生きてるか、小僧」
悠々とした態度で不敵な笑みを浮かべているステイン・ソウルウッドであった。
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