第38話 それでも劣等生は剣を振るう
そうして。
十分もしない内に、ルクア達を囲んでいた全ての魔物が絶命したのであった。
「はぁ……はぁ……」
荒げた息を整えながら、しかしルクアは未だに剣を構えた状態であった。
流石に超人的な身体能力を持ったルクアでも複数人を守りながら魔物を倒すというのは厳しいものだった。ただ倒すだけなら簡単だ。だが、守る対象を気にしながら戦うことは相手を殺すことの何倍も頭を使うし、体力も消耗する。
けれど、彼はやり遂げた。
そして、その結果はどうやらゲルスンにはお気に召さないものだったらしい。
「……ふん。あれだけの魔物を倒しきるとは。何とも生意気なことだ」
憎たらしげに言い放つゲルスン。
「しかし、何ともお粗末なものだ。魔物を全て倒すとは。野蛮かつ非効率的なやり口だ。魔物を操っている私を倒すのが定石だというのに、その点に気づかないとは、本当に君は落ちこぼれだな」
やれやれと言わんばかりな呟きに対し、しかしルクアは冷静に答える。
「無駄ですよ、そうやって自分を攻撃させようとしても。それが貴方の狙いだってことはとっくに分かっていますから」
「っ!?」
「魔物を操っているというのに、貴方は無防備にもずっと僕に姿をさらし続けている。まるで、さも攻撃してくれと言わんばかりに。それだけ防御に自信があるとも考えられますが……今回は違う。貴方の動き、呼吸、態度。そこから導き出される答えは―――反射の魔術。相手の攻撃をそのまま跳ね返すもの。だから、わざわざずっと無防備に構えていた」
先のゲルスンの指摘はルクアもとっくに分かっていることだ。そして、だからこそ疑問に思い、彼がただ立っている理由を考えた。
そして導き出した答えはどうやら当たっていたらしく、ゲルスンは苦虫を噛んだような表情になっている。
「でも、分からないことがあります。貴方がどうして今、ここで事を起こしたか。僕が邪魔なら、僕一人を襲えばいい。他の皆を巻き込んだのは何故です?」
ゲルスンがルクアを狙っていることは、先の言葉でもう明らか。
元々彼は自分を毛嫌いしている節はあった。もしかすれば、誰かからの指示で今は動いているかもしれないが、けれどゲルスンがルクアに対し、悪意を向けることはもう疑問を抱かない。
しかし、だ。それはあくまでルクア個人に対してであり、他の者たちは全く関係のないこと。
故に問いただすルクアに対し、ゲルスンは鼻で笑いながら答える。
「簡単だ。目くらましさ。詳細は省くが、君個人を狙ったことがバレると色々と面倒なことになるんでね。だから、他の生徒も巻き込むことにした。ほら、良く言うだろ? 木を隠すには森の中。クラスメイト全員を殺せば、誰を狙った犯行なのか、分からなくなる」
「そんな……」
馬鹿げた理屈を並べるゲルスンに、ルクアは言葉を失う。
確かにクラス全員を殺せば誰かが狙われたのではなく、クラス全体が標的にされた、ということにはなる。
だが……それはあまりにもリスクが大きすぎるものだ。とても一人を殺すための労力とは思えない。
「それに馬鹿な君は彼らを守ると踏んでいた。そして実際そうなった。まぁ、それでも殺すことができなかったというのは業腹だがね」
その言葉にも、ルクアは何も言い返さない。
実際、彼はクラスメイト達を守った。その上で、体力を大幅に削られたのも事実。
そして、それこそが狙いの一つであるのだとゲルスンは語る。
「しかし、全く君はしぶとい。ゴキブリ並みの生命力だ……だが、そんな君でも今の私を攻撃することはできまい? だからさっきから何もしてこない」
「……、」
無言。しかし、その沈黙こそが、答えであった。
ルクアは『読切』によって、ゲルスンの魔術を見破った。だが、見破っただけで、今のルクアにそれを攻略する糸口は存在しない。
彼の武器はあくまでその身体能力と剣だけなのだから。
「それに先ほど、私の魔術についてあれこれと語っていたが……これも、想定の内だというのかな?」
パチンッ、と指が鳴る。
同時に、ルクア達の周りで何かが動き出す。
それは先ほどまで死体であった魔物。いや、あった、というのは正確ではない。何故なら全て、今なお死体なのだから。
首が、腕が、胴体が。千切れ、潰れ、切り刻まれているはずなのに、どうやってかそれらは脈動を取り戻し、動き始めている。
「う、嘘だろ……まさか、死体魔術……?」
「馬鹿なっ。死体とはいえ、あれだけバラバラになっているというのに、まだ動くのか……!?」
「そんな、じゃあ、どれだけ攻撃しても、無意味じゃない……!!」
殺しても動き続ける魔物たちに、慌てふためくクラスメイト達。
もしも魔術が使えれば話は別だったかもしれないが、しかし何度も言うようだが、今の彼らに魔術は使えない。
ただでさえ自分たちの十八番を取り上げられているというのに、攻撃しても動き続ける敵を前に、彼らの表情は絶望色に染まる。
けれども。
「―――ええ。想定内のことですよ」
しかし、ルクアだけは冷静さを失わず、剣を構えたままだった。
「いくら貴方が魔物の死体を操ろうとも、死体は死体。再生はしない……なら、立てないくらい細切れにすればいいだけの話ですから」
端的に、簡潔に。
それくらいのことなど造作もないと言わんばかりな口調。
それが、ゲルスンには我慢ならなかった。
「そうか……ならば、やってみるがいい!!」
言い終わると同時。
無数の死体が一斉に、牙を、爪を、殺意を向けて襲い掛かってきたのであった
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