第16話 出直してきた男
数日後。
模擬試合当日となった放課後、ステイン達は控室にやってきていた。
各自、準備をした上で、改めてステインがルールの説明を始める。
「今更だが、もう一度説明しとくぞ。『比翼大会』は二人一組の大会だ。だが、四人で混戦するわけじゃない。別々の試合場に二手に分かれて出場し、相手の片割れと戦う。そして勝ち残った方が先に進み、最後の試合会場でもう一方の勝った方と勝負する。この場合、味方が勝っていた場合はその場で残っていた方のチームが勝者となる」
そう。『比翼大会』は二人一組での出場が必須だが、タッグ戦ではなく、実質個人戦だ。これは、個々人の魔術師としての能力を見定めるため、という理由がついているが、結局のところ、魔術師という存在は個人主義でしなかないことの顕れでもあるのだろう。
「今からやる選抜戦も『比翼大会』とまんま同じのルールだ。制限時間は無し。相手が戦闘不能になるか、ギプアップするまで試合は止まらない。だから、間違って死んじまう可能性はある。まぁ、そうならないよう教師連中がバックアップをしているわけだが……絶対じゃねぇ。引き返すなら、今の内だぞ」
「構いません」
即答である。
……いや、それこそ今更か。魔術が使えない身でありながら、それでも彼はここに立っている。それだけで、ルクアの覚悟が本物であるかどうか、今更問うのは野暮というものだろう。
「はっ。可愛げのねぇ奴。もうちょっと緊張とかしたらどうだ」
「緊張はしてますよ。ちょっとした疑問もありますし……」
「? 何だよ」
「今回の相手、ギーツなのは間違いないですけど、もう一人は誰なんでしょう? それが結局分からないままだったんで……」
それはステインも少し考えていたことだ。
あれから色々と聞いてはみたものの、ギーツの相方が誰なのか、教えられないまま今日に至る。クセンもどうやら教えられていなかったらしい。
正直、不安要素ではある。だが、それを今更気にしても仕方ないことだ。
「別に気にする必要ねぇだろ。誰が来ようと、叩き伏せる。それだけの話だ」
単純明快。この期に及んで悩む必要性など皆無。
確かに相手の正体が分かれば有利になることはある。逆に言えば、ギーツ達はステインとルクアのことを調べ上げているかもしれない。よく、戦いは始まる前から勝負が決まっているという。
けれど、その上で彼は言うのだ。
だらかどうした、と。
それくらいのことをねじ伏せ、叩き潰すさなければ、前に進むことなどできるわけがないのだから。
そして、それはルクアにも伝わったようである。
「そうですね……誰が相手でも、僕らは……僕は、勝つしかないんですから」
ルクアの言葉からは迷いはなかった。どうやら彼自身も腹を括ったらしい。
それを見たステインは微笑しながら、時計を見る。
「そろそろ時間だ。行くぞ」
「はいっ」
そうして二人は控室を出て行った。
ステイン達が向かった先は、無論試合会場……ではなく、その手前。つまり、試合会場の入り口であった。
入口は二つ存在しており、これにそれぞれが入っていく形となるわけだ。
後は入場するのみ。
と、その時。
「おい」
ふと、ステインがルクアに言葉を投げかける。
「俺とお前のやり方が違うのは理解している。そこは心底ムカつくが……無理やり俺のようにやれとは言わねぇ。テメェの好きにすりゃあいい。これは俺の戦いでもあるが、お前の戦いでもあるわけだからな」
だが。
「その上で言うぞ。やるからには徹底的にやれ。相手を全力で叩き伏せろ。中途半端なことは絶対に許さねぇ。何が何でも勝つことだけを考えろ」
これから行うモノは、模擬だろうと試合は試合。
そして、相手が魔術師であるのなら、手加減など許されるはずがない。そんなことをすれば、やられるのは自分なのだから。
ステインはルクアが強いことは重々理解している。が、目の前の少年がどこか相手に遠慮している節があるのも分かっていた。それが誰であっても。
もしも、それが戦いの場でも捨てきれないのであれば、きっとすればルクアにとって大きな枷となってしまう。
だからこその忠告だったのだが……。
「言われるまでもありません」
静かに、そして端的に答えるルクアにステインはもう何も言わなかった。
そして、そのまま二人は各々の入り口から入場したのであった。
ステインが入った試合会場は広々とした場所……とはあまり言えない場所であった。
いや、対戦するには十分な広さなのだが、ステインの左側にあるひと際目立つモノにどうしても圧迫感を感じてしまう。
瓦礫の山
そう。そこにあったのは巨大な瓦礫の山々。恐らく廃墟をモデルにしたのだろう。試合会場はその時その時で、ランダムに設定されている。恐らく、ルクアの方はこれとはまた違った場所になっているのだろう。
正直、戦いにおいて瓦礫の山など邪魔でしかない。特にステインにとっては視界を遮る場所よりもただの平地で戦う方がやりやすい。
しかし、そんなことはいつものことだ。別に大したことでもないし、気にする必要性はない。
だから、ステインもまた通常運転で戦うのみ。
……のはずだったのだが、どうやらそう簡単に事は運ばないらしい。
「おいおい。マジかよ……ここで『テメェ』が出てくるとはな」
対戦相手の顔見て、思わずそんな言葉を口にしてしまう。
そこにいる相手を、ステインは知っていた。知らないはずがない。だが、同時に納得もしていた。
確かに、この男なら、ギーツの相方になった上で戦いを挑んできてもおかしくはない、と。
「言葉通り、出直してきたぞ。ステイン・ソウルウッド」
その者の名は、レオン・オルフォウス。
かつてステインが叩きのめし、不合格と言い渡した少年であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます