第17話 アイファの決意
アイファがそんなことを考えてると、ふいにエルフの女性から声をかけられた。
「オディオがギルド長とお話ししてるから、待ってるの。アイファは難しい話、よくワカラナイから」
「そうなのね。でも、アイファちゃんは魔石を見つけるのがとっても得意なんでしょう。ハンレットにいつも魔石を売ってくれてありがとね。おかげで皆助かっているのよ」
さっきオディオの悪口を言っていた者達と違い、彼女は優しいエルフだ。やっぱりこういうエルフもいるんだと、アイファの心が明るくなる。
「役に立ててるんだったら、アイファも嬉しい」
アイファはそこで、そのエルフが抱えていたカゴから不思議な匂いがすることに気付き、ふすふすと匂いを嗅ぐ。
「それはなあに?」
「ああ。これは薬草だよ。森で、必要以上に採れたから売ろうと思って」
エルフのギルドでは、魔石の他にも薬草やアイテムの材料となる素材をなんでも買い取っている。
「やくそう……」
「そう。といっても、これはそのへんにたくさん生えてるやつで、貴重はものではないし、それほど効果はないんだけどね」
「もっと効果がある薬草もあるの?」
「もちろん。ちょっと前、アイファちゃんも癒藍花を谷底から採ってきてくれたでしょう。あのときは皆が、厳しくあたって本当にごめんなさい。おかげでたくさんのエルフが助かったの。本当に、ありがとうね」
「エルフのみんな助かった、よかった」
誇らしい気持ちになりながら、アイファは小首を傾げる。
「あなたは、薬草に詳しいの?」
「ええ、私は薬師だから。薬草は大好きよ」
「薬草って、火傷が治ったりするようなものもあるの?」
「火傷? ……ああ、そういえば、オディオはひどい火傷を負っているから、顔を隠しているんだっけ。普通の傷ならともかく、魔法の火や魔法薬での火傷は、完全に消すのが難しいのよね」
「……消すの、無理?」
「うーん……」
エルフの女性は顎に手を当てて、何かを思い出すようにしていた。
「……ここからずっと東に、万能治療薬の材料となる葉があると、昔とある文献で呼んだことはあるのだけど……」
「バンノウ、チリョーヤク」
アイファの耳が、ぴこぴこと動く。
「そうそう。とても美しい樹だそうなの。その樹には、精霊が宿っていると言われていてね。
その精霊の魔力で、葉が七色に輝くそうよ。たっぷり魔力を蓄えていて、葉を煎じて飲めば、どんな傷でも治るんだとか」
「すごい!」
ぴんっと、アイファの耳が興奮気味に立つ。
「その葉っぱ、すごいすごい。それあったら、結晶化も治せるんじゃ?」
アイファが薬草について尋ねたのはオディオのためだ。けれど、それ以外でも、困っているエルフの皆が助かるなら素敵だと、純粋に思う。
「うーん、それは無理よ。あくまで生きていて、その薬を飲めなければ意味がないもの。死んでしまった生物や、結晶化してしまった生物には効果がないわ」
「そか……。でもでも、オディオなら、飲めるから火傷治せる? 精霊さんに会えばいい?」
「そうねえ。だけど……」
「だけど?」
「精霊は魔者と同じくらい、いいえ、それ以上にとても珍しい存在。私も今まで一度も見たことがないし、本当は実在しない、伝承だけの存在とも言われているわ。だけどね、文献によると精霊が宿っている樹や花の薬効というのは本当にすごくて。そもそも精霊というのは、本体は草木や水、炎といった自然であり、その物質の魔力によって派生した感情を持つエネルギー体というのが定説で、とはいえ不老不死の存在ではなく魔力の影響によって消滅してしまう不安定な存在と言われているしそもそも草木なら本体を破壊してしまえばそれで終わりなわけで、だけど逆に本体さえ無事なら精霊が消滅してもまた別の精霊が発生するらしく、つまりそれだけ特殊な存在なだけに、それを宿している木々というのは本当に貴重で薬を作るために本当に手に入れたくて」
「みゃみゃみゃ? ……な、何言ってるの?」
早口でわけのわからないことを言われ、アイファの頭がぐるぐるしてしまう。
「あらやだ、ごめんなさい。私ってば、薬草のこととなるとつい饒舌になっちゃうのよ。……ともかく一言で言うと、その葉を見つけるのは、とても難しいってこと」
「……難しい」
ぺたんと、耳が垂れてしまう。
するとそこで、オディオが戻ってきてアイファに声をかけた。
「アイファ、お待たせ」
「みゃう」
「あら、オディオ君来たのね。じゃあね、アイファちゃん」
「ばいばい」
エルフの女性と別れ、オディオとアイファはギルドの外に出る。
「どうした、何話してたんだ?」
「なんでもない」
「そうか? もう用事は終わったから、帰るか」
「ん……」
「どうした?」
ただ一緒に帰るだけでもよかったのだけれど、さっきエルフの人達に悪口を言われたことや、オディオの傷を治すことが難しいと言われて、ちょっとだけしゅんとしていて。
アイファは、オディオと元気を分け合いたいと言うように、手を差し出した。
「オディオ。手、繋いでくれる?」
「…………」
「や? 恥ずかしい?」
「いや。恥ずかしくなんてないよ」
オディオは差し出した手を取ってくれ、二つの手が重なる。
温かくて、お互いの存在を直に感じられて。もう離したくなくなるくらいに、幸せだ。
(やっぱりアイファは、オディオが大好き。オディオに、喜んでほしい)
とくとくと胸が高鳴るのを感じながら――アイファは、一つの決意を固めていた。
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