第180話 明日もまた、時間はめぐる

 淑女の家に何度も寝泊まりするわけにはいかず、僕は帰宅することになった。


 見送り先の玄関で、美琴が神妙な表情で言う。


「また明日」


「大げさだな、また明日、学校で会えるよ」


「大切なことです。私はあなたと同じ時間を、命ある限り過ごしたいと思います」


 とんでもなく重たい発言だけど……まあ、いいさ。

 これが天川美琴という女の子で、僕が好きになった女の子の素顔なんだろう。

 思えば、幼少期からのイマジナリーフレンドを引きずっているような女の子がメンタルヘラーでないはずがないし、今更どうしたくらいの話だよな。


 だから、僕は負けずに笑顔で言い返す。


「じゃあ、また明日」


 かくして僕らの物語はひとまず幕をおろす。

 始まりがあれば終わりがある。

 激動の数か月を戦った僕は、短いながらも充実した時間を過ごせたように思う。

 剣と魔法と、想いと恋と。

 僕らの時間は、これからもずっと続いていく。


 見上げると、澄んだ夜空に満天の星がきらめいていた。

 ロマンチックに生きるには現実はつらすぎるけれど、たまにはこうして、おだやかに物事を忘れてもいいだろう。

 だって、僕たちは誰しもみんな、夢をかなえる魔法使いなんだから。


「また明日!」

 

 明日もまた、時間はめぐる。

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