第179話 飯抜き

 美琴は飯抜きをくらった。

 なんで世界大会の優勝者が飯抜きなのかわからないけど、とにかく罰だ。

 美琴のお母さんは厳格で、古風で、美琴の教育に厳しいようだ。


 僕はというと天川宅で晩ご飯をおよばれしている。

 たらふく寿司を食べた後ということで、あまりおなかはすいていないんだけどね。


 だからと言って、よそさまの食卓で出されたものを残すのはテーブルマナーに反するというものさ。

 前世はともかく、今世の両親には恵まれた自信があるのでね。

 礼儀をそれなりに学んで生きてきた僕は、笑顔でおいしくご飯を食べる。


 余談だが、僕のタイプの女性はご飯をおいしそうに食べる人だ。

 元気があるなって思えるし、見ていて幸せになれるからだ。


 そういう意味で、もともと美琴は僕の好みドストライクなんだよね。

 そんな彼女が飯抜きで悲しそうにしているのは、心が痛むよ。


「それはそれとしてごはんがおいしいなあ!」


「祭くんって、いい性格してますよね。ろくな死に方しないと思いますよ」


 やかましいわ。

 パートナーの首に刀くっつけてご両親にあいさつさせる淑女よりましじゃい。


 食事の席で言い合う僕らをお父さんとお母さんがおかしそうに笑ってくれる。

 家族の縁……僕には遠いものだけど、ほんの少しだけ、今だけはそれを取り戻せたような気がした。


 ほんの少しだけ、ほんの少しだけ……

 感傷的になってしまった僕の心を見透かすように、お母さんが言ってくれる。


「よく食べるね。おかわりはいかが?」


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