第172話 あいつら……

「あっはっはっは、あ、あいつら馬鹿じゃねえのか?」


 観客席で、オサムがわき腹をかかえて大爆笑していた。

 神妙に勝負を見守っていたガブリエルも、今は微妙な表情をしている。


「決勝戦でバトルしながら、カップルで口喧嘩をはじめやがった――うわ、いきなり切り殺されそうになった。よっしゃ~、男らしく、そこは負けるなよ~祭!」


「なんだか、私も、自分が悩んでいたのが馬鹿らしくなりましたね……」


「へえ、そうなのかい?」


「ええ、大なり小なり人の想いというのは、誰しも抱えているものですが、やはり言葉にして伝えなければ、この世のだれにも届かないのだと、思い知らされた気分です」


 ガブリエルが、どこか吹っ切れたような表情で微笑む。

 その微笑みに寂しさはあれど、後ろ暗い気持ちは少しもない。


「そういえばお父様も言っていましたね。心を許し語り合える仲間を持てと、やはり私にはそれが足りていなかった。言葉を言葉としてしか受け取っていなかった……」


 いうなり、ガブリエルはスタジアムに背を向けて歩き出した。


「おや、お嬢さん、どちらへ?」


「帰ります。私には学びやるべきことが山ほどあると、気づかされたのでね」


「つれないねえ、試合の終わりくらい、見届けてもいいんじゃないか?」


「ここから先は蛇足ですよ。どちらが勝っても、おふたりとも幸せでしょう」


 ガブリエルが肩をすくめて去っていく。

 オサムもまた、「違いない」と半笑って、その背を見送った。


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