第169話 意地がある

「さすがだな、美琴」


 僕はあきれ半分に感心していた。

 守るのではなく、退くのではなく。

 ただ真っ向勝負で、突き進む。

 そしてそれを成立させてしまう規格外の暴力を目の当たりにして、僕はあきれる他に反応する方法を知らなかった。

 今の美琴こそは、心技体がそろった世界最高峰の魔法能力者だ。

 僕なんかじゃ及びもつかない、まごうことなき最強の魔法能力者だ。

 逃げても勝てない、距離をとっても追い付かれる。

 至近距離で反撃しても、それさえ食い破って攻めてくる。

 困った、ちょっと勝てねえ。

 わずかでも弱気になって退いてくれたら、ちっそくのタイムリミットがあるだけ、僕の方が有利なんだが……

 とにもかくにも重力操作の魔法が万能すぎる。

 ここまで攻防一体で、速度まで補填されてしまうと、僕の側はお手上げだ。

 今、僕にできることは水量操作で可能な限りすべての水量を美琴にぶつけることだが、それが通じなかったとき、僕は負けてしまうだろう。

 そしておそらく、美琴に力押しは通じない。

 力をぶつけても、それ以上の力で食い破ってくるに違いないからだ。

 まあいいか、と、今までの僕ならば思っていただろう。

 最善を尽くして負けるなら、仕方がないと思えていただろう。

 でも今は……


「そうだな、僕はまだ……」


 水圧のレーザーをピタリと止めて、僕はありったけの水量を操作した。

 勝てるはずがないとわかっていても、僕はやりたいことがある。


「美琴、僕はまだ、おまえに感謝の言葉を返していないんだ」


 ありがとう、ってさ。

 意地がある。だから僕は、この気持ちを、形に変えて、届かせる。

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